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第1回 「 捨てられたプロレス、PRIDEの憂鬱」

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ザ・グレート・カブキは言った。
「いつでも“準備”はしていたよ・・・」
 新日本プロレス・後楽園ホール大会の後、田中さんが、飯田橋にある馴染みの店に連れて行ってくれた。元プロレスラーのザ・グレート・カブキこと米良明久さんが経営する「串焼きとちゃんこ かぶき」という店だ。一般の読者に少し説明すると、ザ・グレート・カブキは、'80年代にアメリカで大ブームを巻き起こした人気選手。顔面に歌舞伎風のペイントを施し、緑の毒霧を口から吹き出すその姿は全米を恐怖のどん底に落としいれたのだ! …思わず文章が梶原一騎化してしまったが、とにかくこの業界では世界的に有名な人なのである。

 またもや興奮する月森を前に、カブキさんは淡々とおしぼりを渡してくれ、ラストオーダーの時間が過ぎているにも関わらず、ビールとつまみをスッと差し出す。いろいろと聞いてみたいこと、話したいことがあるのだが、緊張してうまく話を切り出せない。もじもじとビールをすすっていると、隣の席のかなり酔ったサラリーマン風の常連客たちが、声高にプロレス・格闘技論をぶちかまし始めた。

 「いまはやっぱりPRIDEだよな!」「プロレスはマジでやばいだろ、客をPRIDEにもってかれて」「カブキさんがPRIDEに出ればいいんですよ!」「そうそう、プロレスラーの力を見せてくださいよ!」「でもPRIDEで毒霧吹いたらやばいだろ!ハハハハ・・・」「アハハハ!それはまずいだろ」

 聞いているこちらがヒヤヒヤするくらい、無礼な発言の連発。酔っているとはいえ、これは大変なことになるかもしれない・・・。そう思って、恐る恐る顔を上げると、激怒してサラリーマンたちを放り出すかに思えたカブキさんは、彼らの横の席に座り、じっと目を閉じて腕組みしている。おそらく元プロレスラーが店をやっていると、こういうことはよくあるのだろう。いちいち相手をしていたらキリがないので、カブキさんは怒らないのだ。だが、この日の客はしつこく、なおもカブキさんに詰め寄る。

 「カブキさん、顔にペイントとかしてたけど本当は強いんですよね? ああいうPRIDEみたいな本気の試合でも平気なんでしょう?」

 ああ、だめだ。今度こそカブキさんの我慢も限界だ・・・。そう思った瞬間、沈黙を貫いていたカブキさんがポツリとつぶやいた。

 「俺たちの時代はああいうの(PRIDEのようなバーリ・トゥード形式の試合)なかったからね・・・。ただ、いつ相手が“仕掛けて”きても対応できる準備はしていたよ」

梶原一騎先生原作の名作マンガ「プロレス スーパースター列伝」のなかで、筆者(月森)が一番好きだったのはザ・グレート・カブキの巻だった。カブキさんご自身はあのマンガ読んだのかな・・・?
 静かにそう言ってギョロリとサラリーマンをにらみつけたカブキさんは、一瞬、居酒屋の主人から“東洋の神秘”ザ・グレート・カブキの顔に戻った。サラリーマンはおとなしくなり、「さあ、もう閉店、閉店」とにこやかな顔になったカブキさんの言葉をきっかけに、僕と田中さんも店を出ることにした。思えばなんだかすごい数日間。蝶野選手の強烈なオーラ、カレーマンの人の心を開放してしまう楽しさ、そしてカブキさんの一瞬見せた凄み。プロレスラーという人々の底知れぬ魅力をたっぷり味わって、僕の心はまた揺れ始めた。やっぱりプロレスはすごい。でも、いまのプロレスはどうしても物足りないんだ・・・。はたして完全に格闘技だけを楽しむようになり、プロレスをまったく見なくなる日が来てしまうのか? いまはまだ、僕自身わからないでいる。

いや、それにしてもいまの格闘技界の流れは速過ぎる。前回コラムを書いてから、主要な大会だけでもいったいいくつあったことか。ざっと振り返ってみても、5月11日「K−1 WORLD MAX」での魔裟斗の敗退とダークホース、アルバート・クラウスのタフネスぶり。5月25日K−1パリ大会におけるマーク・ハントVSジェロム・レ・バンナの壮絶な打撃戦、そして6月2日K−1富山大会での、二コラス・ぺタス衝撃の骨折・・・と、K−1だけに限っても事件が目白押しで、PRIDE20が遠い過去の出来事のようにさえ思えてくる。試合内容では、とにかくK−1が面白いのだが、リングの外ではやっぱりプロレスから目が離せない。ワールド・カップ真っ最中というのに、いきなり東スポのトップをさらった長州力の猪木批判もいまさらという感じで驚いたが、個人的に大注目したのが、新日本プロレス大阪大会における安田忠夫の大遅刻。大阪で6時半から試合があるというのに、東京の自宅で安田が目覚めたのはなんと夕方の5時半! 起きて時計を見た瞬間の安田の気持ちも想像しただけでドキドキしてくるが、「安田まだかよ〜!もう試合長くやるしかね〜」とばかりに、安田が新幹線で到着するまでの時間稼ぎに60分フルタイムを戦い抜いた蝶野選手ら四選手は、やっぱりすごすぎるのであった。なお天山選手はこの試合中にがんばりすぎて鼻を陥没骨折。かわいそう。(月森)


 





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