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2004.11.29 UPDATE

田中正明
text by Masaaki Tanaka

10月31日、日曜日。我闘姑娘(がとうくーにゃん)旗揚げの日。僕は開場1時間前の10時30分に試合場の新木場1st RINGに到着した。そして数10分前の練習中に蒲原唯(かんばら・ゆい)が足を骨折したこと、本日デビュー予定だった新人・戸村真実(とむら・まみ)が家庭の事情で「棄権」することを、相次いで知らされた。
事前に発表されたカードは全8試合。そのうち今大会の目玉企画である「メイン出場権争奪!我闘姑娘所属選手トーナメント」の1回戦2試合が、唯と戸村の「不戦敗」という結果になってしまう。新団体の船出は、いきなり台風による高波に襲われてしまった。
前編に記した通り、僕には「怪我をするなら唯」という予感があった。それは図らずも的中したが、考え得る最悪のパターンでなかったことが救いだった。頭や首の大怪我にあらず、もっと末端――右足親指骨折と左足中指脱臼――の負傷。これはプロレスの神様が「あなたはまだ練習が足りない。今日は休みなさい」と言っているのだと僕は確信した。そう。僕は生まれてこの方、ずっと無宗教だが、プロレスの神様の存在だけは固く信じている。神様と言っても、カール・ゴッチやアントニオ猪木のような“生き神様”ではなくて、自分の周囲にふりかかる運命の巡り合わせのようなものだが…。
もう一つの不幸中の幸いは、8選手参加のトーナメントで唯と戸村のブロックが別だったこと。唯の相手は零(れい)、戸村の相手は由藍郁美(ゆら・いくみ)だった。零は昨年9月のデビュー戦から我闘姑娘の主宰・さくらえみに連勝しているし、郁美も今年10月3日のデビュー戦で6ヵ月先輩の市井舞を倒した。零のブロックにはさくらが、郁美のブロックには舞がいたことから、零と郁美は「シード」と考えることができた。これがもし1回戦で唯VS戸村が組まれていたら、そのブロックは1試合だけになり、トーナメント自体の意味が失われるところだった。
開場時間の11時30分をしばし過ぎて、1st RINGのシャッターが開いた。ひな壇に設けられた自由席の見やすい場所を選ぼうと、チケットを手にしたファンが“もぎり”の女性の元に群がった。
観客動員は主催者発表385人。見事に超満員である。小学4、5年生で結成された「さくらえび★きっず」を応援するために、埼玉県からマイクロバスをレンタルして来た家族たちも、その中に含まれた。
正午よりも遅れて始まったオープニング・セレモニーは、花道の奥に登場した女性歌手が、肉声で賛美歌『アメージング・グレース』を聴かせる趣向から。「こんな私たちにも神は、驚くばかりの恵みを与えて下さる」。そういう意味の詞だ。唯の負傷で恵みから見放されたような格好だが、まだ観客はそのことを知らない。
続いて我闘姑娘の所属6選手がセンターの花道を通って入場し、リング上にVの字に並んだ。マイクを握って挨拶したのは、さくらえみだ。
「みなさん、本日はご来場いただきまして、ありがとうございまぁ〜〜〜す! 2年前、たった一人で…(声を詰まらせる)始めました我闘姑娘ですけれども、今はこれだけのメンバーが揃い、こんなに沢山の方に、集まって、いただき…(観客から『泣くのは早いぞ〜』の声)…本当にありがとうございまーす(拍手)。我闘姑娘、今日、8選手のトーナメントを行なう予定でしたが、大変申し訳ないんですが、本日、デビュー予定でした戸村真実が、本人の申し出により、棄権ということになりまして、7人になりました。そして、蒲原唯ですが、ほんの1時間前まで、元気に動いていたんですけれども、最後の最後の調整で、片足、脱臼しまして、片足を、骨折しました。今、病院で診察を受け、こちらに向かっています。開場も遅れてしまい、試合開始も遅れてしまい、選手も揃えられず、本当に申し訳ございません! でも、今リングに上がっている6選手で、8人、9人、10人…さくらえび★きっずを含め、精一杯のファイトを見せたいと思いますので、最後まで応援よろしくお願いします!」
さくらが泣きながら唯の負傷を報告したため、一瞬、場内は静まり返った。それでも「こちらに向かっています」の一言で最悪の事態ではないと知り、さくらを始め6選手に「頑張れ」の声と温かい拍手が送られた。
第1試合は、「メイン出場権争奪!我闘姑娘所属選手トーナメントAブロック1回戦」時間無制限1本勝負、市井舞VSなつみ知香。このカードには、『週刊ゴング』のリレー連載を読んだ方なら分かる、マニアックな見どころがあった。第2回の舞のインタビューの終わりに、こんなエピソードを載せた。
「なつみちゃんには1回、スパーリング中に落とされましたよ。『ギブアップしろ!』と言われて、苦しいけどヤだと思ってるうちに落ちちゃった。なつみちゃんはOLで、普段はおとなしいのに、リングに上がると二重人格が出る。“殺人鬼”みたいで怖いです」
第3回の、なつみのコメントはこうだ。
「リングに上がったら、相手を半殺しにするつもりで。普段の私と全然違うと言われても、試合中のことは何一つ覚えていません」
ここから我闘姑娘公式サイトのBBSにおいて、なつみ知香の「殺人的スリーパー」(のちに僕は試合リポートのキャプションに「殺人鬼スリーパー」と表記。舞もそう呼んでいる)の話題が一人歩きした。試合では一度も使ったことがないにも関わらず。旗揚げ戦のなつみの入場時、場内アナウンスで「市井舞選手から“殺人鬼”と呼ばれています」と紹介されると、ごく一部の観客が爆笑していた。僕の推測では、そのグループはなつみの会社の同僚たちではないかと思っている。普段の腰の低い彼女と殺人鬼のギャップに大ウケしたのだろう。
ついにスパーリングではなく公式戦で、なつみは舞を裸絞めに捕らえた。しかも「死ね〜、死ね〜」と叫びながら。これにはカメラを構えつつ「おおっ」と声が出た。いいぞ、殺人鬼! 「試合中のことは何一つ覚えていない」と言いながら、きっちり観る者の期待に応えている。だが、まだ余力のある舞が後ろ歩きでなつみをコーナーポストにぶつけると、あっさりと技は解かれた。なつみよ…そこは意地でも手を離すべきではなかった。
コーナーから体を捻っての回転エビ固めで、舞がなつみをフォール。記念すべき旗揚げ戦のオープニングマッチは舞がものにした。
第2試合の由藍郁美VS戸村真実は、郁美の不戦勝。ガウンを着た郁美が憮然とした表情でリングに上がり、虚しい勝ち名乗りを受けた。 |
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