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まず言っておきたいことは、本作はプロレスファンなら笑えて、興奮して、泣ける、立派なエンタテインメントに仕上がっている。僕の涙もろさは母親譲りのスペシャル級なので、一般の男性諸氏は泣けないかも知れないが、それでもグッと来るものはある、はずだ。いくつものシーンで、ほかの映画評論家たちも楽しそうに笑っていた。その方々はプロレスを(力道山、馬場、猪木はともかく)よく知らないと思うので、マニアならずとも、暗闇に2時間以上は居られる映画ファンならば普通に楽しめる作品だろう。正確な上映時間は2時間7分。全く飽きさせない。
僕の感動ポイントを、浮かんだ順に挙げてみよう。
1、ヒロインの鈴木美妃が本職以上に女子プロレスラーっぽい
今作で女優デビューを果たした彼女は、撮影前に2ヵ月間のトレーニングを積み、ほとんどの格闘シーンをスタントなしでこなしたと資料にある。スクリーンに映る、見事に縦に割れた腹筋に注目してほしい。これだけ女子プロレスラーのイメージが付いてしまったら、次の仕事が来ないんじゃないかと心配だ。あるいは、来ても力自慢のOLだったりして…(ヒネリなし)。冗談じゃなく、古き良き時代の女子プロの匂いを感じさせる名花。彼女のようなタイプの選手が実際にいてほしい。根は真面目で練習量が誰より多く、体内に熱い血がたぎり、いざとなった時の勝負強さがある。もちろんこれはヒロイン桐島みどりのキャラクターだと分かってはいるが、鈴木美妃その人もそうなのだろうと認めさせる力が、あの腹筋にはある。撮影終了後、体重は7kg減ったとか。1980年11月生まれの23歳。今ならまだ間に合う?
2、岡田義徳扮する青年社長の設定に嫌味がない
僕はこの役者さんの出たドラマや映画を観たことがない。だからかも知れないが、すんなりと社長のキャラに感情移入できた。元Jd’の卯木代表やNEOの甲田社長よろしく、リング上で選手に足蹴にされてしまうのだが、そうしてまで団体を盛り上げたいという気持ちがストレートに伝わってくる。岡田義徳自身が性格に裏表のなさそうなベビーフェースなので、彼のためなら選手は頑張るだろう、と信じられた。
3、アストレスが初めて「アスリート+アクトレス」として機能した
ここが最も重要。アストレスに関しては以前もこのコラムで書いたが、プロレスラーと認めるには試合が物足りなく、アクション女優としての活動も幅が狭く、中途半端な印象は拭えなかった。昨春に公開された『プレイガール』での石川美津穂は、セリフのないニヒルな殺し屋という三流の役回りで、映画自体もVシネマ未満のお粗末な出来。観ていてかわいそうになってしまった。それがついに、本作の主演トリオの一角としてメインビジュアル(この画面トップの写真)に収まるなど、女優として数段ランクアップ。また、老舗団体Jリングのエースに扮した東城えみは、クールな表情を貫き女帝ぶりを示している。二人と同じアストレス2期生の桜花由美は、ガリンペイロのおとぼけアイドルとして、観客の笑いを誘う大事なポジションを全うした。アストレス以外にもファング鈴木(現・ファング)や救世忍者乱丸はセリフが多く、あのメイクとマスクで普通に街中を闊歩。本作のコミカルな場面に一役買った。しかし乱丸クン。いくら撮影期間が真夏だったとはいえ、マスクのアゴ紐はきっちりと締めてほしかったねぇ。現役レスラー勢の多少クサイ演技は、自主映画のような雰囲気で、これが前述の「う〜ん」という“JD的”悪印象の元だろう。だとしたら、僕はそんなに気にならなかった。それはそれで、ちょっとしたギャグだと思って笑い飛ばせば済むことだ。
4、同期ペアが互いに切磋琢磨して成長していく
これは僕個人の泣きのツボ。Wヒロインの桐島と中島は、プロレス誌に「天使と悪魔」と評される対照的なキャラクターだが、寮では屋根裏の相部屋に暮らす同期である。孤児の桐島はようやく雇われた事務職を、中島は喫茶店のウェイトレスをそれぞれクビになり、ほかに行く当てなくガリンペイロに転がり込んだ。『週刊ゴング』のコラム「昭和世代からの辛口応援歌」で門馬忠雄氏が書いていたように、シングルとタッグ、両輪あってこそのプロレス。タッグチームの友情、あるいは師弟関係、互いに秘めたライバル心などは、プロレスという“スポ根もの”の一大ジャンルに絶対不可欠なエピソードである。特に女子プロの場合は「ペア」という概念があり、その名を使ったビューティ・ペアのように、中性的なジャッキー佐藤と女らしいマキ上田が組むことで、同性に憧れる“ベルばら”世代の女子中高生にブームを巻き起こした。しかも二人は同じ年に入門。流した涙も汗も等分というイメージが、ペアの親密度をより濃くファンに訴えかけた。昨今、こうした“同期ペアによる友情物語”が空き家になっている。同期ではないが、昨春『レディゴン』の表紙に起用した全女の西尾美香&Hikaru組なんて、大ブレイクを予感させる本当にもったいないペアだった(現在、西尾はAtoZに所属)。話を戻して、スポ根ドラマの骨子はどれもサクセスストーリーだ。この作品も桐島&中島の成長を描くことで、スタンダードな青春映画として完成している。
5、小松隆志監督にプロレス愛を感じる
全編を通して、僕が大嫌いなシーンが一つある。それは、ガリンペイロの青年社長とJリングの老社長が商談を行なう場で、プロレスマニア以外は耳慣れぬ「アングル」なる単語が飛び出すことだ。近年は『週刊プロレス』の佐藤・前編集長までもがこうした表現を用いているが、それが業界の隠語なのだとしたら、プロレス界のおかげで飯が食えている者どもが、そうした言葉を表に出すべきではないと思う。プロレスマニアが、聞きかじった業界用語を得意げに語るのはその人の自由だ。しかし関係者が堂々と世間の耳目に触れさせるものではない(えっ、僕もこうして書いてるって? だって、この映画を薦めている以上、観たらみんな気になるでしょ…)。本作に全面協力しているJDスターは、ファンに「あななたちの団体にもアングルというものがあるんですか」と聞かれたら、どう答えるつもりだろう。ただ、このシーンは小松監督が暴露的な意図で加えたものではないと思う。実は監督と脚本家がプロレスマニアで、通なファン向けにシナリオに盛り込んだようだ。宣伝会社の担当氏によると、やはり小松監督は長年のプロレスファン。「どうしてもアントニオ猪木を意識した撮り方になってしまう」と語っていたとか。なるほど、そうか。この映画に嫌味がないのは、お色気シーンが一切ないことも関係しているのだろう。それは女子プロレスに重要なファクターの一つだと僕は思っているが、この監督は「女子プロレス」ではなく「プロレス」を描いているから、ことさら「女子」を強調する意識がない。先程の隠語についても、最終的には監督の“プロレス愛”が物語を包み込んでいくので、う〜ん、まあ許してやっか。
まだまだ見どころは沢山ある。オマケで「6、キューティー鈴木が試合中、現役時代と同じくニーパッドを着けていない」ってのだけ加えておこう。
ほかの記者たちの感想とは裏腹に、僕は『ワイルド・フラワーズ』を大いに楽しんだ。プロレスの試合をスクリーンで観る機会はそうないのだから、ぜひとも劇場に足を運んでほしい。豆知識として、テアトル系列の映画館は毎週水曜日が1000円均一になることを書き添えておく。週ごとにゲストが変わるトークショーもあるようだ。詳しくは劇場にお問い合わせを。
最後に。試写の日、ほとほと呆れた出来事があった。最終試写のため、上映が始まってからもスクリーン横のドアから入ってくる関係者がチラホラ。僕の隣の席が空いていたので、嫌な予感はしたのだが…。そこにドッカと座ったのは、僕に「田中さん、いい映画だからぜひ観て下さいよ」と薦めたJDスターの竹石辰也統括部長だった。そして竹石氏は、日頃の激務がたたってかイビキをかき始めた。おいおい。前の席の人がアナタを睨んでるよ〜。ここは映画業界人向けの試写室なんだから勘弁してよ。そういうヌルイところが“JD的”なんだってば。
でもでも、『ワイルド・フラワーズ』には、ライブのプロレスと違って映像ならではの「編集」というテクニックがある。緊張感たっぷりの桐島&中島組VS木幡&田島組戦を、どうぞ御覧あれ。(記:4月4日) |
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