Back Number
第1回 「日本で唯一の“女子プロレス・ライター”参上!」
第2回 「きっかけは『週プロ』への投稿だった」
第3回 「涙が止まらなかった府川唯未引退試合」
第4回 「スペシャル・インタビュー with ライオネス飛鳥」
第5回 「若きスター選手・浜田文子退団に関する、僕の見解」
第6回 「スペシャル・インタビュー with 井上貴子(前編)」
第7回 「スペシャル・インタビュー with 井上貴子(後編)」
第8回 「『レディゴン』休刊!? どうなる女子プロレス・ライター」
第9回 「祝!『格闘はまり道』スタート 〜5・2ドーム極私的観戦記〜」
第10回 「『ガイア・ガールズ』のパンフに原稿を書いた」
第11回 「北条志乃×田中正明 〜数少ない「同業者」対談〜(前編)」
第12回 「北条志乃×田中正明 〜数少ない「同業者」対談〜(後編)」
第13回 「GAEA事務所に“軟禁”されちゃった(笑)」
第14回 「堀田祐美子がGAEAを襲った“一部始終”」
第15回 「『アイドル』と『女優の卵』が女子プロレスを救う!?(前編)〜HJPGの巻〜」
第16回 「『アイドル』と『女優の卵』が女子プロレスを救う!?(後編)〜アストレスの巻〜」
第17回 「10・20『興行戦争』を総括する、はずが…」
第18回 「『レディゴン』vol.74、出ました、売りました」
第19回 「『ガレージ』には女子プロの醍醐味が詰まってる!」
第20回 「同業者対談シリーズ第2弾・伊藤雅奈子編(前)」
第21回 「同業者対談シリーズ第2弾・伊藤雅奈子編(後)」
第22回 「7・5『Brat Pack Match』に行ってみた」
第23回 「スペシャル・インタビュー with AKINO 〜女子プロレスには“少年”がいる〜」
第24回 「ダリアンガールズを観た」
第25回 「女子プロレス・ライター、存続危機?」



ご感想はこちらまで


(前頁からの続き→)
 まず言っておきたいことは、本作はプロレスファンなら笑えて、興奮して、泣ける、立派なエンタテインメントに仕上がっている。僕の涙もろさは母親譲りのスペシャル級なので、一般の男性諸氏は泣けないかも知れないが、それでもグッと来るものはある、はずだ。いくつものシーンで、ほかの映画評論家たちも楽しそうに笑っていた。その方々はプロレスを(力道山、馬場、猪木はともかく)よく知らないと思うので、マニアならずとも、暗闇に2時間以上は居られる映画ファンならば普通に楽しめる作品だろう。正確な上映時間は2時間7分。全く飽きさせない。

 僕の感動ポイントを、浮かんだ順に挙げてみよう。

1、ヒロインの鈴木美妃が本職以上に女子プロレスラーっぽい

鈴木美紀(舞台挨拶より)
 今作で女優デビューを果たした彼女は、撮影前に2ヵ月間のトレーニングを積み、ほとんどの格闘シーンをスタントなしでこなしたと資料にある。スクリーンに映る、見事に縦に割れた腹筋に注目してほしい。これだけ女子プロレスラーのイメージが付いてしまったら、次の仕事が来ないんじゃないかと心配だ。あるいは、来ても力自慢のOLだったりして…(ヒネリなし)。冗談じゃなく、古き良き時代の女子プロの匂いを感じさせる名花。彼女のようなタイプの選手が実際にいてほしい。根は真面目で練習量が誰より多く、体内に熱い血がたぎり、いざとなった時の勝負強さがある。もちろんこれはヒロイン桐島みどりのキャラクターだと分かってはいるが、鈴木美妃その人もそうなのだろうと認めさせる力が、あの腹筋にはある。撮影終了後、体重は7kg減ったとか。1980年11月生まれの23歳。今ならまだ間に合う?

2、岡田義徳扮する青年社長の設定に嫌味がない

 僕はこの役者さんの出たドラマや映画を観たことがない。だからかも知れないが、すんなりと社長のキャラに感情移入できた。元Jd’の卯木代表やNEOの甲田社長よろしく、リング上で選手に足蹴にされてしまうのだが、そうしてまで団体を盛り上げたいという気持ちがストレートに伝わってくる。岡田義徳自身が性格に裏表のなさそうなベビーフェースなので、彼のためなら選手は頑張るだろう、と信じられた。

3、アストレスが初めて「アスリート+アクトレス」として機能した

石川美津穂、岡田義徳
 ここが最も重要。アストレスに関しては以前もこのコラムで書いたが、プロレスラーと認めるには試合が物足りなく、アクション女優としての活動も幅が狭く、中途半端な印象は拭えなかった。昨春に公開された『プレイガール』での石川美津穂は、セリフのないニヒルな殺し屋という三流の役回りで、映画自体もVシネマ未満のお粗末な出来。観ていてかわいそうになってしまった。それがついに、本作の主演トリオの一角としてメインビジュアル(この画面トップの写真)に収まるなど、女優として数段ランクアップ。また、老舗団体Jリングのエースに扮した東城えみは、クールな表情を貫き女帝ぶりを示している。二人と同じアストレス2期生の桜花由美は、ガリンペイロのおとぼけアイドルとして、観客の笑いを誘う大事なポジションを全うした。アストレス以外にもファング鈴木(現・ファング)や救世忍者乱丸はセリフが多く、あのメイクとマスクで普通に街中を闊歩。本作のコミカルな場面に一役買った。しかし乱丸クン。いくら撮影期間が真夏だったとはいえ、マスクのアゴ紐はきっちりと締めてほしかったねぇ。現役レスラー勢の多少クサイ演技は、自主映画のような雰囲気で、これが前述の「う〜ん」という“JD的”悪印象の元だろう。だとしたら、僕はそんなに気にならなかった。それはそれで、ちょっとしたギャグだと思って笑い飛ばせば済むことだ。

4、同期ペアが互いに切磋琢磨して成長していく

 これは僕個人の泣きのツボ。Wヒロインの桐島と中島は、プロレス誌に「天使と悪魔」と評される対照的なキャラクターだが、寮では屋根裏の相部屋に暮らす同期である。孤児の桐島はようやく雇われた事務職を、中島は喫茶店のウェイトレスをそれぞれクビになり、ほかに行く当てなくガリンペイロに転がり込んだ。『週刊ゴング』のコラム「昭和世代からの辛口応援歌」で門馬忠雄氏が書いていたように、シングルとタッグ、両輪あってこそのプロレス。タッグチームの友情、あるいは師弟関係、互いに秘めたライバル心などは、プロレスという“スポ根もの”の一大ジャンルに絶対不可欠なエピソードである。特に女子プロの場合は「ペア」という概念があり、その名を使ったビューティ・ペアのように、中性的なジャッキー佐藤と女らしいマキ上田が組むことで、同性に憧れる“ベルばら”世代の女子中高生にブームを巻き起こした。しかも二人は同じ年に入門。流した涙も汗も等分というイメージが、ペアの親密度をより濃くファンに訴えかけた。昨今、こうした“同期ペアによる友情物語”が空き家になっている。同期ではないが、昨春『レディゴン』の表紙に起用した全女の西尾美香&Hikaru組なんて、大ブレイクを予感させる本当にもったいないペアだった(現在、西尾はAtoZに所属)。話を戻して、スポ根ドラマの骨子はどれもサクセスストーリーだ。この作品も桐島&中島の成長を描くことで、スタンダードな青春映画として完成している。

5、小松隆志監督にプロレス愛を感じる

小松降志監督とキャストの面々
 全編を通して、僕が大嫌いなシーンが一つある。それは、ガリンペイロの青年社長とJリングの老社長が商談を行なう場で、プロレスマニア以外は耳慣れぬ「アングル」なる単語が飛び出すことだ。近年は『週刊プロレス』の佐藤・前編集長までもがこうした表現を用いているが、それが業界の隠語なのだとしたら、プロレス界のおかげで飯が食えている者どもが、そうした言葉を表に出すべきではないと思う。プロレスマニアが、聞きかじった業界用語を得意げに語るのはその人の自由だ。しかし関係者が堂々と世間の耳目に触れさせるものではない(えっ、僕もこうして書いてるって? だって、この映画を薦めている以上、観たらみんな気になるでしょ…)。本作に全面協力しているJDスターは、ファンに「あななたちの団体にもアングルというものがあるんですか」と聞かれたら、どう答えるつもりだろう。ただ、このシーンは小松監督が暴露的な意図で加えたものではないと思う。実は監督と脚本家がプロレスマニアで、通なファン向けにシナリオに盛り込んだようだ。宣伝会社の担当氏によると、やはり小松監督は長年のプロレスファン。「どうしてもアントニオ猪木を意識した撮り方になってしまう」と語っていたとか。なるほど、そうか。この映画に嫌味がないのは、お色気シーンが一切ないことも関係しているのだろう。それは女子プロレスに重要なファクターの一つだと僕は思っているが、この監督は「女子プロレス」ではなく「プロレス」を描いているから、ことさら「女子」を強調する意識がない。先程の隠語についても、最終的には監督の“プロレス愛”が物語を包み込んでいくので、う〜ん、まあ許してやっか。

 まだまだ見どころは沢山ある。オマケで「6、キューティー鈴木が試合中、現役時代と同じくニーパッドを着けていない」ってのだけ加えておこう。

 ほかの記者たちの感想とは裏腹に、僕は『ワイルド・フラワーズ』を大いに楽しんだ。プロレスの試合をスクリーンで観る機会はそうないのだから、ぜひとも劇場に足を運んでほしい。豆知識として、テアトル系列の映画館は毎週水曜日が1000円均一になることを書き添えておく。週ごとにゲストが変わるトークショーもあるようだ。詳しくは劇場にお問い合わせを。

 最後に。試写の日、ほとほと呆れた出来事があった。最終試写のため、上映が始まってからもスクリーン横のドアから入ってくる関係者がチラホラ。僕の隣の席が空いていたので、嫌な予感はしたのだが…。そこにドッカと座ったのは、僕に「田中さん、いい映画だからぜひ観て下さいよ」と薦めたJDスターの竹石辰也統括部長だった。そして竹石氏は、日頃の激務がたたってかイビキをかき始めた。おいおい。前の席の人がアナタを睨んでるよ〜。ここは映画業界人向けの試写室なんだから勘弁してよ。そういうヌルイところが“JD的”なんだってば。

 でもでも、『ワイルド・フラワーズ』には、ライブのプロレスと違って映像ならではの「編集」というテクニックがある。緊張感たっぷりの桐島&中島組VS木幡&田島組戦を、どうぞ御覧あれ。(記:4月4日)



「スロウトレイン」に掲載の記事・写真・カット等の無断転載を禁じます。© Works m bros.