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2002.10.21 UPDATE
田中正明
text by Masaaki Tanaka
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| 9・23後楽園にて、新コスチュームを着た「HUSH!」。左が石川美津穂、右が東城えみ。 |
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6月に森田芳光監督、中居正広主演の映画『模倣犯』を観た。本編のところどころで、テレビ画面に数種類のオリジナルCMが映し出される。その一つにアストレスの東城えみと石川美津穂が出演していた。
リンスだかトリートメントだかのCF(コマーシャル・フィルム)で、互いの髪を引っ張ろうとする女子プロレスラー二人が、「サラサラで掴めな〜い」と悪戦苦闘する。そんな設定だった。細かいところでは、理髪店に貼ってあるポスターにも東城&石川が写っていたので、いずれビデオで見る方は要チェックだ。もちろん、二人の名前はエンドロールに出てくる。
登場人物の一人ではなく、劇中劇の名もなき存在に過ぎない役どころが、アストレスが「女優の卵」と呼ばれる所以(ゆえん)か。それでも“デビュー1年目のプロレスラー”として見れば、大抜擢と言っても過言ではない扱いだと思う。
そもそも「アストレス」とは、吉本女子プロレスJd’が本体の吉本興業と共催でH12年に募集を開始した、アクション女優養成プロジェクトのことだ。BS−JAPANが後援し、毎週『ジャンヌダルクへの道』という番組でその成長過程を追う。オーディション合格者は、修業期間となる始めの2年をJd’の選手と共に道場やリングの上で過ごす…という企画。ATHLETE(アスリート=競技者)とACTRESS(アクトレス=女優)を足して「ATHTRESS」と呼ぶ。あくまでもプロレスは手段、と言うか腰掛けで、最終的な目標は一人前の女優になることだ。
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| アストレス1〜3期生がビキニで集合。アストレス写真集『綺麗事始(きれいことはじめ)』より。 |
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| 会場売店で写真集を売っていた1期生の柏田千秋(左)と古田圭子。 |
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同じく『綺麗事始』(鹿砦社・刊)より。東城と石川。 |
現在は3期生4人がデビューを目指して練習中。1期生は昨年3月にプロレス課程を修了した。前出の東城は2期生のトップを走る存在で、同期の石川とタッグチーム「HUSH!」を結成。二人はアルシオンのエースである大向美智子に見出だされ、大向とのトリオ「PLAY GIRL」としても、団体の垣根を越えて活躍中だ。もう一人の2期生、桜花由美はコミカル部門(?)にトライ。Jd’のおばっち飯塚と「チームおば桜」を組んで、天然っぽいキャラクターをアピールしている。
また、1期生3人――本当は4人いたが、卒業直前に大森彩乃が病気で離脱――のうち最もプロレスセンスに秀でていた賀川照子が、9月23日、東京・後楽園ホール大会よりJd’マットに復帰した。
1期生がデビューした当初は「アストレスマッチ」の名の下に、純粋にアストレスvsアストレスのカードしか組まれなかった。彼女たちは演技者を目指しているわけで、真剣勝負をする必要はない。だから試合展開の決まった中で、映画のアクションシーンを演ずるように“いかにカッコ良く戦うか”が、アストレスを評価するポイントになると僕は見ていた。空手で言えば、フルコンタクトではなく型のプロレス。それがアストレスマッチなのだと。
ところがどっこい。1期生はJd’の若手ともフツーに戦うようになり、影の薄い新人たちが「裏アストレス」と呼ばれる逆転現象が起きた。確かにルックスや体格では、アクション女優を目指す5人衆に分があった。しかし、普通のプロレスラーとして一から育てれば、2年の月日は下積みで終わってしまう。ろくに受け身も取れないド新人レスラーのままリングを去るのなら、ほかのタレント養成所に入った方がマシだったのではないか。当時、『レディース・ゴング』の編集部座談会で、僕が「プロレスラーと当たった以上、アストレスは失敗」と斬り捨てたのは、そういう意味だったのだ。2年足らずで女子プロレスの頂点を極めて引退した者は、あとにも先にもマッハ文朱だけだ。
プロレスラーと同等の練習をこなしつつ、個々のキャラクターや肉体美、技のキレを磨くことに主眼を置く。それを随時、リングで披露することにより、演技者としての表現力をファンに審判してもらう。プロレスラーと大きく異なるのは“強さ”を求めない一点のみ。それがアストレスの正しいコンセプトだと、僕は今でも信じているのだが…。
現実には、アストレスはプロレスラーと変わらない。いや、ヘタな新人選手よりは危機感を持った有望株だ。なにしろ2年というタイムリミットが決まっている。日々をのんべんだらりと過ごしている余裕はない。
これはJd’関係者に“気を悪くして”聞いてもらいたいことだが、Jd’の前座試合は幼稚園のお遊戯みたいなもので、それを観るファンも、姪っ子の発表会をビデオ撮影している親戚のオジサン化している。具体的に選手を挙げれば、Jd’ジュニア王者のMARU、富松恵美、9月に引退した山本千歳。同じく3月に引退した西千明もそうだった。いつ失敗するか、いつ失敗するかとハラハラしながら見守る、未熟が当たり前のプロレスごっこ。山本は細い身体でよく頑張ったと思うが、引退発表を聞いた時には内心ホッとしたものだ。「ああ、これで故障者リストから一人消える」と。
肩の脱臼癖により満足に練習もできなかった山本は、引退直前には体重が40kgを切っていた。怪我の続く選手はとことん続く。山本が無理に現役を続行すれば、骨折やそれ以上のアクシデントが起きる可能性があった。
その点、アストレス2期生には技のミスを心配することはあっても、故障や大事故の危惧をする必要はない。…と思っていた。ところが、この原稿を書き始めた矢先、9月29日の愛知・名古屋市千種スポーツセンター大会で、石川美津穂が怪我をしたとの情報が入った。それも鼻骨骨折と眼窩底骨折。女優の命である顔に傷を負ったというのだ。アストレスというプロジェクトにおいて、これはあってはならない事故である。
10月14日、東京・北沢タウンホールでの「アストレス興行」に石川の様子を尋ねに行こうと思ったが、『週刊ゴング』の締め切りに追われて諦めた。実は13日夜の同所での大会で、東城えみが回転エビ固めを失敗して頭からキャンバスに落下。試合には勝利を収めたものの救急車で病院に運ばれ、第2頚椎(けいつい)骨折のため15日に手術を行なったとあとから聞いた。
ここ1、2カ月というもの、僕はアストレスの涙ばかり見てきた。
アルシオンの8・25アールンホールでは、「私たちには時間がない。3月の卒業まで精一杯プロレスに取り組みたい」と涙ぐんだ東城に、大向がもらい泣きした。
Jd’の9・23後楽園では、復帰戦で思うように動けなかった賀川が「どうしようもない。もうお話にならない」とすすり泣いた。デビュー1周年で大向とタッグ対決を行なった東城もまた、目頭を熱くした。「やっぱり気持ちだけじゃついていけない。期間限定で卒業もあるんだけど、それまでにできることはやろうと決意しました。頑張ろうね」と横にいる石川に訴えた。もちろん石川も頷く。
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| ボロボロと涙をこぼす賀川。「あんまり撮らないで。お嫁に行けなくなっちゃう…」。 |
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瞳を潤ませた東城(右)と俯き加減の石川。 |
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試合に敗れてセコンドに運ばれる桜花由美。 |
精一杯プロレスに取り組んだ結果が大怪我では、東城も石川も浮かばれない。この事態を予想したわけではないだろうが、アストレスに警鐘を鳴らした選手がいた。後楽園ホールのバックステージで大粒の涙をこぼしていた賀川照子である。
僕が「東城&石川が他団体に上がって活躍しているのをどう思いますか?」と質問した時だ。それまで途切れ途切れに言葉をつないでいた賀川が、堰を切ったように語り始めた。
「プロレスラーとして見れば、もちろんすごくいいことだと思う。でも今は修業期間で、アストレスというものに重きを置いて考えると、ビミョーかなって思いますね。アストレスって何なの、っていうか。あってないようなものだから。プロレスを頑張るのはいいし他団体に参戦するのもいいと思うけど、本来の目的である部分をもっと追究しないと。本人たちだけではどうにもならない――会社批判をするわけじゃないですけど、もう少しなんとかしないと、せっかくの企画も台無しになっちゃう。他団体との差別化を図ろうとしたはずなのに、全く意味がなくなってしまうと思うから、そこら辺は気を付けないと。私は2年間、修業の義務は果たしましたので、アストレスとして戻るなら戻る必要もないわけで。今後はリングの上ではプロレスラー、リングを下りたらタレントや女優を視野に入れてやっていきます。今はまだお客さんにも分かりにくいと思うんですけど、みんなが納得してくれる形で何か提案できれば。そのために戻ってきたんで。時間がかかるとは思うんですけど…」
早稲田大学文学部を卒業してアストレスの一員となった賀川は、これから先「アストレスって何なの?」と自問しながら、その答えを探していく。彼女は復帰戦に40人の友達を呼んだという。芸能活動で顔と名前を売れば、その数はもっと増えるだろう。賀川にはアストレスのプレイング・マネジャー的存在として、自分たちにとっても、女子プロレス界にとっても益のある方策を考えてほしい。タレントと兼業である以上、ホリプロ女子プロレス軍団と同じで強くなってほしいとは思わない。その代わり、団体の内部からアストレスとJd’を活性化する「何か」を「提案」することが、本人も述べた通り彼女の使命である。
HUSH!が揃って戦線を離脱した今、賀川に懸かる期待は大きい。
『格闘はまり道』月森サトル氏への回答
●どーも、月森さん。名前を出して下さってありがとさん。「女子プロレスはエロを内包している」、「こんなことを書くと田中さんに怒られそう」って? 何をおっしゃるやら。僕が尊敬するブル中野は言いました。「プロレスとはセックスだ」。そのものズバリ! 月森さんが考察した「上昇カーブを描いて盛り上がり…」のくだりは、俗に言う格闘技よりも、プロレスに顕著な試合展開ですからね。中野さんも同じ意味でその定義を論じたようです。ただし「唐突に終わる」のは男だけ、女性には優しく後戯をすべしと『Hot Dog Press』だか『スコラ』に載ってましたよ、月森さん(笑)。かく言う僕だって、ここ2回のコラムでホリプロとアストレスを取り上げたのはなぜか。そりゃあもう、「アイドル」や「女優の卵」である彼女たちのルックスが、プロレス村から外へと発信できる強力な武器だと考えるからです。前回のコラムをアップしたあと、NEOの会場でタニー・マウスに言われましたよ。「夏ちゃん目当てでしょ」と。オフコース、その通り(←宮崎有妃調で)。それがビジネスになるからこそ、NEOは西田夏ちゃんを毎回呼ぶわけです。若くて、できれば強くて、かわいい新人が育たないことが、現代女子プロレス界最大の悲劇! 女子プロレスは確かにエロを内包している。でもそれだけではない。男の目からすれば、それでいいのではないでしょうか。(デ) |
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| ■デンチューの取材日誌(2002年9月16日〜9月30日) |
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