2006年09月15日
「ストロベリーショートケイクス」
矢崎仁司監督インタビュー

映画作家、矢崎仁司。「女性が女性である故の痛みを、なぜこんなに“知っている”のだろう」──矢崎監督が撮った映画を観ると、いつも、そう思う。1980年に発表した初の長編「風たちの午後」以来、手がけた映画はわずか4本。そんな寡作な映画作家として知られる矢崎監督の待望の新作「ストロベリーショートケイクス」が、いよいよ9月23日より公開される。自主映画でなく、いわば初めて商業映画として公開される同作の公開を前に、矢崎監督は今、何を思っているのだろうか?
取材・文/戸田美穂
『strawberry shortcakes』を
自分の映画にしたい、
素直にそう思いました
──6年ぶり、の新作ですね。「寡作な映画作家」という言葉が、まるで矢崎監督の代名詞のようになっていますが…。
何とかそのイメージは払拭させたいと思っています。でも、去年はテレビの仕事や短編映画(『大安吉日』狗飼恭子脚本)とか、色々やってはいるんですよ。
──ファンの希望的観測ですが、矢崎監督の場合、詩や音楽が突然生まれるように、“何か”が生まれるまで待っているからではないか…そう思ってしまいます。
いやいや、単に仕事が来ないだけです(笑)。僕は、来る仕事は基本的に拒まないようにしているんですよ。そりゃね、私に『ゴジラ』を撮れと言われたら、一晩くらいは悩みますけど。…それでも結局受けると思います(笑)。
──『ストロベリーショートケイクス』の場合は、魚喃キリコさんの原作との出会いが会ったからですよね。原作を読んで、映画化したいとご自身から提案されたと聞きましたが。
そうですね。魚喃キリコさんから初版が送られてきて読んだのが始まりです。ただ、もともと「痛々しいラヴ」とか、彼女の漫画は映画化したいとは思っていたんです。でも、『strawberry shortcakes』を読んだら、登場人物の女の子たちが、みんな愛しくて、大好きになってしまって…。ああ、本当に私の撮りたいことが描かれている、これを自分の映画にしたい、素直にそう思ったんです。
だから、原作の持つ空気や世界観というのは大切にしたかった。映画を観た後と、原作の読後感は変えたくなかったんですね。狗飼恭子(小説家・『ストロベリーショートケイクス』脚本)さんのシナリオを最初に読んだ時、自分が初めて原作を読んだ時と印象が変わらなかったので、大丈夫だとは思っていたんです。完成した映画を観て、生身の俳優さんたちを抱きしめたくなりました。
日々の断片的な記憶を埋め込むことで
何かを思い出してもらいたい

──実は『ストロベリーショートケイクス』だけに限った話ではないのですが、矢崎監督の映画を観ると男性の目線で捉えた作品だという気がしないんです。「ああ痛いなぁ、ああ鋭いなぁ」って。
ソレ、よく言われるんです。でも僕自身、女性だからとか、男性だからとかという形で捉えていないんです。ただ、普通に人間として見てるだけ。演じる人が女性であれば、女性の部分は映りますからね。
──そういえば、撮影されている時、矢崎監督はモニターを見ずにカメラの横に立って、俳優の演技をご覧になっていますね。あれはナゼですか?
モニターはね、騙されちゃうんですよ。俳優の表情やその場の空気って、全体から出てくるものだから。(カメラで)切り取ったものはカメラマンに任せるけど、どこをどう切っても大丈夫だという空気が決まるまでは…やっぱりね。例えば、友達2人が会話しているシーンで、片方をアップで撮っているとするでしょう? モニターだけを見ていたら、表情的にはOKなんですけど、2人の立ち位置を見ると、友達とは思えない距離に意外と立っていたりするんです。第一、俳優にとっての最初の観客は監督ですから、凄い演技を肌で感じたいですよ。
──空気…ですか。確かに矢崎監督の映画は、匂いと言うか色と言うか、ものすごく抽象的な例えですけど、独特の世界観を感じますね。
う~ん、フツーに日常を生活していて、積み重なった断片的な記憶が、映画にはかなり反映されていると思うんです。それは、現場でも説明がつかないことがすごく多くて…。例えば、晴れているのに登場人物が傘を持って電車に乗っていて欲しかったりするんです。多分、いつかの僕の記憶なんでしょうけど、助監督や美術の方はワケわかんないでしょうね(笑)。ただ、そういう自分にとっての記憶みたいなものを埋め込むことで、見ている人に何かを思い出してもらいたい──そんな思いで映画を作っているような気がします。
──映画作家・矢崎仁司の日々の記憶を紡いだ映像…それだけで、もう興味があります(笑)
でも個人的には作り手の見えない映画が好きですね。単純に作り手の顔が見えちゃうと感動が薄れちゃう気がしません? 僕がいつも心がけているのは、僕の前作を好きだった人を常に裏切る映画を創りたい、ということ。ただ、「ストロベリーショートケイクス」がどう違うのかは、あんまり口に出して言いたくない。こっそり舌を出したい部分なので…(笑)。
★What's “矢崎仁司”?★
矢崎仁司監督をよく知るこの2人に『カントクをひと言で例えるなら・・・』ズバリ伺いました!
■石井勲さん(撮影)
~一連の“矢崎作品”の映像を手がけてきた、まさにカントクの頭の中を最も知る人物~
「うん、う~ん、う~~~ん? コダワリの人かな」
「矢崎さんはね、撮り直す時よっぽどの事がない限り『ココをこうして』とか言わないな。いつもは、ただひと言、『もいちど、やってくれる?』って言うだけ」
■露無栄さん(アップリンク)
~映画宣伝担当者。公開が決定してからカントクと行動を共にする毎日を送る…~
「(即答)カッコイイ人!」
「毎回お会いする度に、私の中の“矢崎カントク像”がいい意味で裏切られるんです。あ、いい意味でですよ! このスーツ姿ってすごく監督を表していると思います」
★EDITOR'S VOICE★
~矢崎仁司監督のインタビュー裏話、暴露しちゃいます!~
「好きな映画監督は? 『ハワード・ホークスが好きだけど、最近は観てないなぁ。マノエル・ド・オリヴェイラかな』──ふむふむなるほど。それでは最近観た映画は? 『トリック2』 ええええ?何だか違うくないですか? 『いやいや僕は基本、ミーハーですから(笑)。必ず観に行く映画といえばね、アンジェリーナ・ジョリーの出演作ですよ』」…とまぁこんな具合に、私の矢崎カントクへの“繊細”なイメージはすっかり崩れ去った今回の取材。「苦手なんだよな~」と言いながら、カメラを向けるとそれまでの笑みは消え去り、しかめっ面。でも何だかつれなくされると、近寄りたくなる…。カントク、人を惹きつけるフェロモンが出てるってご自身で気付いてないですねぇ。(戸田美穂)
「ストロベリーショートケイクス」
9/23(土)~
渋谷シネ・アミューズほかにて全国順次公開
■STORY:
恋に恋するフリーターの里子(池脇千鶴)、売れっ子デリ
ヘル嬢の秋代(中村優子)、結婚願望の強いOLのちひろ
(中越典子)、過食症のイラストレーターの塔子(岩瀬塔子)。
恋と夢と友情と・・・日々の暮らしの中で、彼女たちが感じる
ささやかな幸せと絶望を紡ぎだしてゆく。自分だけの城=テ
リトリーに留まる彼女たちの“痛い”日常の感覚は、女流漫画
家・魚喃キリコの原作コミックの読後感と相通ずるものがある。
投稿者 mtoda : 2006年09月15日 16:32