
ご感想はこちらまで
|


俳優、スタッフに愛されるハリウッドの雄
 |
 |
『ミスティック・リバー』 1月10日より丸の内プラゼールにて公開
ショーン・ペン、ティム・ロビンス、ケビン・ベーコンの実力派共演で、殺人事件の被害者遺族、刑事、容疑者として再会した幼なじみ3人の運命を描くサスペンス。
(C)2003 Warner Bross.Ent.All Rights Reserved(C)2003 Village Roadshow Films(BVI)Limited |
 |
――渡辺さんたっての希望もあり、今回はクリント・イーストウッドをテーマに進めていきたいと思います。これまでの対談でも何度か名前が出てきたので意外な感じがしますが、イーストウッドそのものをやるのは今回が初めてなんですよね。
渡辺 そうなの! 私が宇田川さんにリクエストして、「イーストウッドの話をしましょ!」ってお願いしたの。というのも、宇田川さんは、とても早い段階で彼を評価していらしたし、私も彼が大好きだから、おしゃべりしたかった。それと、私がいつも不思議に思っていることがあって、誰かと話したい、と思っていたの。イーストウッドって自分で脚本を書かないでしょ。ふつうは脚本を書かない映画監督ってあまり信用できないんだけど、彼はずっと一流の映画作家でありつづけてるのよね。
宇田川 クレジットはされてないけど、口は出すというケースじゃないかな。監督によってはたいして関わってないのに名前を連ねたがる人もいるけど、イーストウッドは自分の名前を出したくないんじゃないかな。名前を出すと、自分のところにお金が入ってきちゃいますからね。ま、想像ですけど。
渡辺 なるほど。イーストウッドはスタッフの信頼が厚いって聞くものね。スタッフの人数を極力抑えて、その分のギャラをひとりひとりに多く払ってるってことね。
宇田川 でも、イーストウッドの映画で大作ってないですよね。撮るのも早いし、スタッフもいつも同じ人だから、もしかしたらそんなにお金がかからないのかも。
渡辺 『ミスティック・リバー』の場合は、いい役者がそろっているし、みんなクセ者ばかりでしょ。ふつうの監督ならコントロールするのが大変だと思うけど、イーストウッドだったらみんなイエスマンになって、ちゃんと言うことを聞いてそうな気がするわ(笑)。それに、ウディ・アレンもそうだけど、ハリッドの若い俳優の中にはイーストウッドの映画に出たいと思っている人がたくさんいるんでしょうね。
――ショーン・ペン、ティム・ロビンス、ケビン・ベーコンのいずれにしても、監督がイーストウッドだったらということで快諾したそうですね。
宇田川 ぼくは『ミスティック・リバー』を見ていて、最初、イーストウッドが出ていないのを忘れていて、早く出てこないかなって思っちゃいました。オーソン・ウェルズもそうだけど、監督作に出てくれないと落ち着かない人っているんですよね。
渡辺 私もそうなの! ワンカットぐらい出てくれればいいのに、「サービス精神が足りない!」っていつも思う。でも、逆を返せば、それぐらいイーストウッドが見たいってことなの。イーストウッドとは少し意味あいが違うけど、子供時代の私が『知りすぎていた男』('56)ではじめてアルフレッド・ヒッチコックを知って大好きになったのも、彼が必ず顔を出すからだったのかも。監督が見られるのはうれしい。
宇田川 イーストウッドの映画の中で唯一劇場未公開の『愛のそよ風』('73)には、『荒野のストレンジャー』('72)のカットアウトの看板として出てくるんですよ。あと、これはドン・シーゲル監督だけど『ダーティハリー』('71)にも、イーストウッドが初めて監督した『恐怖のメロディ』('71)を上映している映画館が出てきますよね。昔はそういう茶目っ気があったのに(笑)。『バード』('88)以降の監督だけの作品では、そういうことはしなくなりました。作品の内容的に、そんな遊びは入れにくくなったのか。1回やりゃ、たくさんということもあるでしょうけど。
渡辺 そもそもイーストウッドは、自分の監督する作品には出演したくなかったんでしょ。でも、彼が出ないと観客動員は見込めないし、映画会社もOKしないから、しかたがなく出たって聞いたことがある。
宇田川 そういえば、『ミスティック・リバー』のケビン・ベーコンの刑事には、ときどきイーストウッドがのりうつっている感じがしませんでした? 瞬間的な表情が。こっちの思いこみで存在しない幽霊を見ているのかも知れませんが。
渡辺 確かに、あの過去のできごとが、妻との関係にカゲを落として彼女に家出された、っていう役はイーストウッドに似合いそう。でも、ほかの二人と歳が違いすぎるから、幼なじみという設定に無理が生じてきちゃうけど(笑)。
宇田川 『スペース・カウボーイ』('00)にも出ていたマーシア・ゲイ・ハーデンもよかったですよね。『スペース・カウボーイ』ではコメディー演技を軽くこなしていましたが、こんどは本格的に女優としての力量を見せる。『ポロック』('00)の夫にとって救いでも重荷でもある両刀の剣の妻もうまかったのですが、人格の微妙な不完全さというのを、うまく表現しますよね。ソンドラ・ロック以外で同じ女優を2度つかったのはめずらしいんじゃないかな。
渡辺 彼女に限らず、みんなハマリ役だったわね。男たちも、女たちも。それにショーン・ペンの子供時代なんて、本当にそっくりで笑っちゃった。
イーストウッドがアクティブだと言われる理由
渡辺 デニス・ルヘインの『ミスティック・リバー』は原作もベストセラーですばらしい。映画が見られる日を待っていました。
宇田川 ぼくはまだ読んでないんですけど、ストーリーはほとんど変えてないそうですね。
渡辺 私はイーストウッドのそういうところが好き。勝手に話をいじっちゃう人はたくさんいるし、彼の作品もすべてが変えてないわけじゃない、と思うけど、あの原作はヘンに変えて欲しくない。せっかく映画なんだから小説ではできない映像で勝負してほしいし、そういう気骨がほしい。
宇田川 イーストウッドの西部劇、ジャズ好きは有名ですけど、もうひとつミステリー小説も好きなんじゃないでしょうか。いつも原作の選び方がうまいですよね。それも非常にアメリカ的なもので、しかも、けっしてハードボイルドの探偵ものではない。
渡辺 『ミスティック・リバー』をイーストウッドが映画化しようとしたわけは、私にはよくわかる気がする。あの原作は、ストーリーだけでなく、人の心の暗い部分に深くわけ入って、それをじわじわとあぶり出す。イーストウッドの映画にもそういうところがあって、それが、私にとっての彼の魅力ね。
宇田川 そう、自分で脚本は書かなくても、題材の選球眼が非常にいいんですよ。『許されざる者』('92)なんかも、ながいことほったらかされていた脚本を掘り出してきたわけでしょう。
――『ミスティック・リバー』はゴールデン・グローブ賞にもノミネートされたし、かなり評判がいいですよね。
宇田川 イースウッドの監督作品の中でもかなり上位にくるんじゃないかな。
渡辺 よくできた映画だとは思うけど、あまりにもつらくて悲しい話だから、私は見ていてやるせない気分になった。
宇田川 イーストウッドの監督だけの作品は、基本的に暗いテーマの映画が多いですね。主演はしているけど、『許されざる者』もそう。でも、見終わった後にイヤな気分になるんじゃなくて、大きなカタルシスがあるからすごいなと思う。堂々たる悲劇の芸術になっている。
渡辺 『ミスティック・リバー』では、息子と一緒に音楽も担当しているでしょ。
宇田川 カイル・イーストウッド。少年のころ、『センチメンタル・アドベンチャー』('82)で共演して以来。どうしているのかと思ってました。こんどは音楽共作。イーストウッドが音楽でクレジットされるのは、はじめてだと思いますが、でも、これまでやってきたことを思えば、当然という感じですね。『ダーティハリー』が公開されたときに、監督のドン・シーゲルが「イーストウッドはアクティブな役者だ」と言っていて、ぼくは最初その意味がわからなかったんです。当時はスクリーンでしかイーストウッドのことを知らないから、「あまりセリフを言わないで、じっと立っているだけなのに、なんでアクティブなんだ?」と思ったんです。でも、後から考えてみると、それは現場で何でもやってしまうということなんですよね。
 |

 |
『ダーティーハリー』
サンフランシスコ警察殺人課の非情な刑事ハリー・キャラハンの活躍を描く。現在、シリーズ第5弾まで制作されている。
発売:ワーナー・ホーム・ビデオ
¥2500(税別) |

 |
『荒鷲の要塞』
第2次世界大戦下、英米の兵士たちが“鷲の城”と呼ばれる独軍の要塞に捕らえられた将軍の救出に挑む戦争アクション。
発売:ワーナー・ホーム・ビデオ
¥2980(税別) |
 |
渡辺 そういえば、『荒鷲の要塞』('68)でシェークスピア役者のリチャード・バートンをつかおうと言ったのもイーストウッドなのよね。バートンが全然拳銃を扱えないから、それは自分でやって代わりにセリフをしゃべらせた。そのころから、何でも自分でやる才能があったんでしょうね。共演にバートンを指名したのも、イーストウッドが自分のキャラクターをよくわかっているからだろうし。
宇田川 『マンハッタン無宿』('68)のビリヤード場で敵を蹴っとばすアクションのカットなんて自分でキャメラを持って、自分の目線で撮ってましたよね。『アイガー・サンクション』('75)でも自分の出番じゃないところでキャメラをまわしていたり、『アウトロー』('76)でも馬を走らせながら撮ってるんです。本当に何でもやってしまう「アクティヴ」な人ですよね。 |
|