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スタイルの再現だけなく「しゃれっけ」が必要
――第7回目のテーマは、ラブ・コメディーです。といってもさまざまな作品があるとは思いますが、今回取り上げるのは、ズバリ'60年代をテーマにしたラブコメ。このところ、インテリアやファッションの世界で'60年代モードが流行しているそうですが、映画にもそういった傾向があるのか、現在公開中のユアン・マクレガー、レニー・ゼルウィガー共演の『恋は邪魔者』なんて'60年代テイストそのものですよね。これは当時流行ったドリス・デイ&ロック・ハドソン共演のロマンチック・コメディーにオマージュを捧げているそうですが、'60年代をリアルタイムで経験されているおふたりから見て、『恋は邪魔者』はいかがでしたか?
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『恋は邪魔者』上映中
売れっ子の女性新進作家と人気ジャーナリストの恋のかけひきを描くソフィスティケーテッド・コメディー。
(c)2003 TWENTIETH CENTURY FOX |
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宇田川 ちょっとその前に、これって「ラブ・コメディー」で載せるの? 昔は「ラブコメ」とか、「ロマコメ」なんて呼び方はなかったし、そもそもラブ・コメディーというのは、「翔んだカップル」あたりからつかわれはじめたまんが用語。もともとは映画のジャンルではない和製英語なんですよ。だから、今回もラブコメやロマコメという表現じゃなくて、当時言っていたようにソフィスティケーテッド・コメディーと言いたいですね。もっと長くいえばソフィスティケーテッド・ロマンチック・コメディー。つまり、しゃれた恋愛喜劇。この「しゃれた」というところが大事でしょう。ソフィスティケーテッドには、「すれっからし」の意味もあるけど。
――大変、失礼いたしました。では、'60年代を題材にしたソフィスティケーテッド・コメディーとして見た『恋は邪魔者』はいかがでした?
渡辺 見ていてたのしいけど、もう少し工夫があってもいいんじゃないかなと思った。'60年代的なスタイルを受け継ぐのはいいけど、あまりにもそのまますぎて、オリジナリティがないのよね。
宇田川 '60年代のアイテムはやたらと使っている。「キム・ノヴァク」とか、クリーニング屋のおばさんが、ユアン・マクレガーのことを「absent-minded
professor」と呼びかけたり――これは字幕では「ボンヤリ博士」になってたけど、「うっかり博士」と訳してくれないとね。'61年のヒット作『うっかり博士の大発明 フラバァ』からきているわけですから。
それと、これはたぶん当時はやった冗談だと思うけど、「いちばんドライなマティーニのつくりかた」というシャレのレシピを、カタブツの友人がまじめにやっているのを、さりげなく見せる。つまり、「グラスについだジンのそばに、ベルモットの瓶を通過させる」というヤツ。そんな小ネタが、いっぱい入れてあるのはいいけど、ピリッとしたところがたりないんですよね。
渡辺 そう。どこか気が抜けている感じがする。今こういう映画をつくるのなら、ユアンの友達がゲイだとか、不倫ものにするだとか、そういう設定にするのが普通じゃない? 昔は検閲がうるさかったから無理だと思うけど、今ならそのぐらいしないとものたりない。ソフィスティケーテッドって洗練された、っていうほかに、「すれっからし」という意味があるくらいだから、どこか、抜け目のないところがなくちゃね。ただたのしいだけじゃダメ。
宇田川 ドリス・デイの映画って、『恋は邪魔者』のようなフェミニズム的な要素ってありましたっけ?
渡辺 ないと思うわ。ドリス・デイの場合、「お嫁に行きたい!」というのの一点張りだから、フェミニズムとはほど遠い。
宇田川 だとすれば、"女の自立"というフェミニズムを持ち込んだところは、この映画をつくった人たちが新しい要素として入れたところですよね。でも、そうすると、あの扱いかたは古い感じがするけど…。
渡辺 『恋は邪魔者』はファッション的にも、ジャック・ドゥミの『シェルブールの雨傘』('63)や『ロシュフォールの恋人たち』('65)なんかに出てくる当時のオシャレそのまま。最近多いのよね、昔のファッションに頼りすぎている映画って。本当に芸がないわ。
洗練されていた'60年代のグラフィック・デザイン
――以前、『わぅ シネマなふたり』でメロドラマを扱った時に、トッド・ヘインズ監督の『エデンより彼方に』とダグラス・サークの話が出ましたが、あの映画のように現代的な感覚をうまく取り込まないと単なる模倣になってしまうということですか?
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『エデンより彼方に』上映中
'50年代ハリウッドのメロドラマにオマージュを捧げたトッド・へインズ監督作。ジュリアン・ムーアがアカデミー賞主演女優賞候補に。 |
宇田川 『恋は邪魔者』と『エデンより彼方に』は、ある時代のモードやスタイルを使って映画をつくっているという点では共通しているけど、キレがまったく違いますよね。『エデンより彼方に』はあの目のさめるような色彩感覚に驚かされたけど、『恋は邪魔者』は色の感覚が鈍い。フィルムの質が昔と違うから難しいとは思うけど、こういうテイストの映画にしては黒い影の部分が多すぎると思うんです。'60年代の映画って、もっとベタに照明を当てていて、ケーキみたいな甘いパステル・カラーだった。
渡辺 『恋は邪魔者』は『キャッチ・ミー・イフ・ユー・キャン』('02)とテイストが似てるわ。オシャレにしようとしているのはわかるけど、その度合いがイマイチ、アカ抜けないの。オープニングのアニメにしても、'60年代の映画はもっと洗練されていたもの。スピルバーグにしろ、『恋は邪魔者』のペイトン・リードにしろ、オシャレのセンスをもたずに生まれてきたのよ。
宇田川 たしかにアニメの使い方は'60年代の方がうまいですよね。『キャッチ・ミー・イフ・ユー・キャン』のアニメも、妙にゴチャゴチャしていてヘタだったなぁ。そういう意味では、'60年代はグラフィック・デザインの感覚がいちばんよかった時代なのかもしれないですね。
――昔は『めまい』('58)などを手がけたソール・バスや『007』シリーズのモーリス・ビンダーといったオープニング・タイトルで有名な人がいましたものね。
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『黄金の腕』
天才ギャンブラーの栄光と挫折を描いたフランク・シナトラ主演のサイコ・サスペンス。モダンジャズを用いた音楽とソール・バスによるタイトル・デザインが話題を呼んだ。 |
渡辺 ソール・バスは本当にすごい才能よね。『黄金の腕』('55)なんて最高にかっこよかった。'50〜'60年代の映画はとくにオープニング・タイトルと音楽がすてきで、それだけで映画をひきずっていける感じがあった。それに今の映画は、エンド・クレジットが長すぎると思わない? 昔はオープニングですごくすてきに名前を見せて、最後は「THE
END」で終わり。すっきりしててよかったわ。今の人たちもああいうところを真似してよ、といいたくなっちゃう。
――でも、『恋は邪魔者』には最後にレニーとユアンのミュージカルシーンがついていて、私的にはとってもたのしくて、お得な感じがしましたけど…。
渡辺 そうね。逆にあれだけでもよかったのに(笑)。 |
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