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2004.3.17 UPDATE

木村ひろみ

text by Hiromi Kimura
 
映画作家が怒りの反乱!?
 シャンタル・アッカーマン、パスカル・トマ、ベルトラン・タヴェルニエなど約200人の映画作家が、「独立系映画」を保護するために、フランス国内で公開される映画作品のコピー数を限定する規則をつくるように要求している。これは、ここ数年大手配給会社がアメリカ映画のコピー数を増加したことにより、小規模の配給しか行えない独立系映画作品(つまり映画作家たちの作品はこの部類に入る)の公開に大きなダメージが出ている、という事実を指摘したもの。署名運動の音頭をとった「ACID」(独立映画とその配給のためのエージェンシー)によると、ひとつの映画作品はフランス全土にある5280の映画上映室の10%以上を独占してはならない。つまり、ひとつの映画作品は5280以上のコピーを配給してはいけない、ということになる。昨年暮れから、『ロード・オブ・ザ・リング』シリーズや『ファインディング・ニモ』('03)など、超大規模のアメリカ作品の公開が続いたから、映画作家たちも「堪忍袋の尾が切れた」ということなんだろう。


『DEMAIN ON DEMENAGE』
監督:シャンタル・アッカーマン(ベルギー=フランス)


 青空をバックに宙ぶらりんになるピアノとその様子に息を呑んで見入る人々。出だしのシーンから楽しい予感がする。ポルノ小説作家の娘(シルヴィー・テスチュ)のアパートに母親(オーロール・クレマン)が転がり込んでくる。母親が持ち込んだ家具や古道具の山に囲まれて、創作意欲を失った娘は今住んでいるアパートを売って、大きな場所に引っ越すことを決意する。カフェで知り合った不動産屋(ジャン=ピエール・マリエル)、アパートを見に来る夫婦(ルカ・ベルヴォーとドミニック・レイモン)、やはりアパートを見に来る妊婦(ナターシャ・レニエ)、娘と一緒に小さなアパートを借りる謎の主婦(エルザ・ジルベルスタン)…生活臭のまったくないふわふわとした母親と現実的でいつもポルノ小説のネタを書き留める娘は、「引越し」を機に多くの出会いを体験する。

 歌あり、踊りあり…アッカーマンが1986年に撮った『ゴールデン・エイティーズ』を少し思い出したけれど、この作品はある意味でアッカーマン自身にとってもずっと「私的」な作品になっている。それは、クレモン演じる母親の背景にあるストーリーは、アッカーマン自身の母親のそれとよく似ている、ということだ。ポーランドから逃げてきたユダヤ人一家の生き残りがアッカーマンの母親=クレモンで、その娘、つまり戦争を直接知らない世代がアッカーマン自身でありテスチュ演じる娘ということになる。ポーランド、ドイツ、ベルギー(この話ではフランス)を流浪の民のように渡ってきた母親にとっては、「引っ越す」ということは日常茶飯事のひとつでしかない。引っ越すことで友人が増え、多くの人々が家に出入りし、一緒に飲み食いし歌い踊ること、が母親にとっての一番の楽しみで、この楽しみがあるからこそ彼女は生きることに喜びを感じる。

 反対に戦争を知らない娘の世代は、引っ越すのは面倒だし、母親の興奮する様子を理解していても違和感を覚え、母親と同じ生きる喜びを味わうことができずにいる。ただ誤差はあっても、母娘は互いを尊重し、相手を思いやりながら生きている。そしてこの母娘感に存在する「愛」と、2人がそれぞれに感じているだろう「生きる喜び」が私たちにもよく伝わってくる…、笑ったり、しんみりしたりの約2時間。久しぶりに入り込んだアッカーマンの世界は、滑稽で、ちょっと哀しくて、なんだか懐かしくて心が温まる、心地いい世界だった。


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