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2004.3.5
UPDATE
木村ひろみ
text by Hiromi Kimura |
■カンヌ映画祭スター奪回作戦
カンヌ映画祭の受賞者&作品発表日を、今年から映画祭終了日の日曜日から土曜日に変更する、と映画祭主催委員会が発表した。これは、ここ数年授賞式・クロージングセレモニーにかなりの数の受賞者(スター)の不在が目立ったためで、今回から受賞発表をセレモニーの前日に行い、受賞者の出席を可能にしよう、というため。
■カンヌ映画祭のオープニングはアルモドバルの新作
今年のカンヌ映画祭審査委員長にクエンティン・タランティーノが抜擢されたことは先日お伝えした。この度オープニング作品にペドロ・アルモドヴァルの新作『BAD EDUCATION』が選ばれ、来る5月15日に上映されることになった。アルモドヴァルのカンヌ出品は『オール・アバウト・マイ・マザー』('99)以来。この映画祭で審査員が、自分の作品ではなくダルデンヌ兄弟の『ロゼッタ』('99)を金賞に選んだため、アルモドヴァルが映画祭側に腹をたててから、アルモドヴァルはカンヌを拒んでいた、という話は有名。ということは、そろそろ怒りも冷めた、ということかな?
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『LE SANG ET OR』
監督:ジャファル・パナヒ(イラン)
キアロスタミの『オリーブの林をぬけて』('94)の助監督を経て、1995年『白い風船』で監督デビューしたジャファル・パナヒの4作目の長編作品は、これまでのイラン映画とは一線を画している。イラン映画、といえばキアロスタミが撮る「人類愛あふれるドキュメンタリー風」作品、またはマフマルバフ父娘が撮る「典型的イスラム社会風」作品、つまりこのどちらかのカテゴリーに入る作品に限られていたような気がする。ジャファフ・パナヒの作品は、テヘランに生きる女性たちと、イランにしては「生々しい現代」を描いた『チャドルと生きる』('00)から、既存のイラン映画たちとは少し距離を置き始める。イラン社会の矛盾を間接的に批判したともいえるこの作品は、自国(というか公開さえされていない、という)はともあれ、欧米諸国では高く評価され、2000年ヴェネチア映画祭金獅子賞を獲得している。
直訳すれば"血と金"という題名の今回の作品は、もともとは実際に起きた犯罪事件をヒントに、キアロスタミがパナヒにもちかけた脚本案だった。映画は、宝飾店内での強盗事件で幕を開ける。長いワンカットワンシークエンスの中では、強盗に入った男、入られた店の主人、事件を知って集まった人々の様子が描かれる。そしてこの長い場面は、犯人の男が自らのこめかみに銃を当てるところで幕を閉じる。この行為は何が原因なのか? 犯人は誰で、どんな人物だったのか? これらの問いの答えが、続くフラッシュバックの中で描かれていく。とはいえ、これらの答えははっきりとは描かれない。代わりに、現在のテヘランという街の混沌とした雰囲気、貧富の階級がはっきりと分かれたイラン社会の残酷さ、そして金のない者、弱い者が結局は敗者である、という曲げようのない事実が、イラン、イラク戦争で心に深い傷を負った主人公の心身に及ぼす翳りとゆがみによってじわじわと私たちの心に迫ってくる。
この作品から斬新でとても西洋的な匂いを感じるのは、この作品が現代イラン社会以上に、主人公の心理に深く触れているからだろう。これまでのイラン映画につきものだった「貧困」や「子供」というテーマからまったく離れ、無駄のない乾いた調子で、自らが生きる社会に行き詰ったひとりの大人の姿が描かれる。こういった貧富の差、そしてその中に生じる差別、矛盾、不条理、孤独などは、イランだけではなく、全世界に通ずる話だ。近代的なテヘランの町並みは妙に殺伐としていて、ニューヨーク? ロンドン?東京?など、他の都会と錯覚してしまいそうな驚きを私たちに与える。キアロスタミは、イラン映画の中では自分のジャンルを切り開いた監督だけれど、パナヒもこの作品でまたひとつ新しいイラン映画のジャンルを築いた、といっても大げさではない。監督4作目にして、パナヒはようやく自分の力量をフルに発揮した。 |
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