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第1回 「ブラッド・ピットのエビアン・ボトル」
第2回 「デンゼル・ワシントンと三つの招き猫」
第3回 「ギヨーム・ドパルデューのパープル・ヘア」
第4回 「ホアキン、ラッセル、ワイルド・ナイト」
第5回 「キアちゃん、キアロスタミ」
第6回 「キアヌ・リーブスがヘタくそバンドに一生懸命な理由」
第7回 「愛しのギアさま:Chapter1」
第8回 「愛しのギアさま:Chapter2」
第9回 「世界の黒澤と梅干しの味」

2000.12.19 UPDATE

金子裕子
text by Yuko Kaneko


第10回●「エドワード・ノートンのヘンな日本語」

 
 長い間この仕事をしていると、デビューからその成長を見守ることになる俳優や監督は多い。先日初めての監督・主演作を携えて来日したエドワード・ノートンもそのひとりだ。しかも、彼ほど急激に成功への階段を駆け登ってきた俳優も珍しい。なにしろ、映画デビューしてから5年間でアカデミー賞の主演と助演に各1回ずつノミネートされ、ブラッド・ピットやマット・デイモンというスターと共演し、果ては初監督作までモノにしてしまったのだから。

 ノートンに初めて会ったのは、1996年のニューヨーク。デビュー作『真実の行方』のプロモーションのためだったのだが、ホテルに現れた彼の180センチ以上ある身長とたくましい体に、まずはビックリ。なにしろデビュー作では、純真無垢なクワイヤー・ボーイ(聖歌隊の少年)でありながら、じつは殺人鬼の資質も持つという役どころ。だもの、どうしてもスクリーンから受けるイメージは華奢にして小柄だ。

 しかも“ビックリ”はそれだけにとどまらなかった。にこやかに部屋に現れたノートンは「コンニチハ」と日本語で挨拶すると「チョット、マテネ!」と他の部屋に消えた。エージェントの説明によれば、ヘア・カットをしてから取材を受けたいとのことのだ。もちろん、こちらもサッパリと小奇麗になってくれれば写真撮影にも効果大だから、待つのはやぶさかではない。

 
  それから待つこと10分あまり。「スミマセ〜ン」と部屋に入ってきた彼を見て、ビックリ仰天。な、なんとサッパリを通り越してみごとなスキン・ヘッドになっているではないか! 「おいおい、純真無垢な少年を演じた俳優を紹介する記事だゾ。これじゃ……」もう、すっかり目が点になってるこちらをみて「オーディションのためなんだよ」とテレ笑いのノートン。スキンにするなら、その前に撮影をすればよかったと、後悔先に立たず。

 まぁ、会見の2年後になって、くだんのオーディションとはアカデミー賞主演男優賞候補になった『アメリカン・ヒストリーX』だったとわかった次第なんだが。それにしても、あの筋肉もりもりの胸に鉤十字のイレズミをしたツルピカ頭のネオ・ナチ青年に、10分足らずで変身されたヒにゃ、焦るのも無理はないでしょ?



illustration by hiroyuki ijichi


 
 そんなワケで、最初から気勢をそがれっぱなしで始まったインタビュー。おまけに、駄目押しのようにヘンテコリンな日本語を駆使してコメントをするのだからマイッタ。なんでも、大学を卒業した5年ほど前に大阪の水族館を建設するチームに参加し、日本に滞在していたんだとか。でもねぇ、なにせ5年前に1年足らずだからねぇ。「ボクノォ、オ母サンハァ、センセ(先生)デス」「オ父サンハ…、ロイヤー(弁護士)ハ、日本語デナントイウカ?」ってなもんですわ。聞いてる私までヘンになって「ドウシテ、コノ映画出タ、アルカ?」「共演ノリチャード、好キカ?」って、バカみたい。もう、これじゃインタビューにもならないので、「ワタシ、日本語ノ勉強シタイ」というノートンを説得して英語で応えてもらうことにしたのだった。

 で、英語で話せば、ちゃーんと名門イェール大学ご卒業の聡明な青年になる。そのコメントの内容も、理路整然と演技論などをブチかましてもくれる。いわく「高校時代から演技に興味を持ち大学在学中も劇団を設立して演劇活動をしている。舞台ではアヴァンギャルド前衛劇を中心に上演して鋭い感性を磨いていきたい。映画は、いろいろな監督の思惑を体現するものだから、どんな要求にも呼応できる演技力を身に付けるのには最適だ」。

 なるほど、この言葉通りを実践して、いまや押しも押されぬ演技派スターになったものね。そう、日本語のときは、失礼ながらマヌケなニイチャンにしか見えなかったけど、英語になってからは知性と品性を感じさせて、“もしかして大物になるかも”といった予感があったのは確かだったものなぁ。



 で、来日したノートンにあれから5年ぶりに再会したわけなんだが。もう、奴ったら懲りもせずに、顔をあわせたとたんに「ワタシは、10年マエニ大阪ニ、サラリーマン、シテマシタ」って、得意満面で握手を求めてきた。もう、「ヤメロ!」ってぇの。思わず私は「知ってる知ってる」と叫んで、どんどん英語のインタビューを開始。でも、さっすが粘りのノートン。その隙をぬって私が持参した、彼の監督次回作の原作本を手に取り「マザーレス・ブルックリン? カタカナ、スコシ、ヨメマス」ってニッコニコ。

 まぁ、この飽くなき勤勉さが、俳優として成功する要因なんでしょうがねぇ。それに、理論派のクールさと日本語でみせる子供っぽいオチャメさが相まって、ググーンと魅力的な好青年に見えることは確か。男の顔はひとつじゃないよ、ってところかな。

 さてさて「コレカラモ、モット日本語、ベンキョーシマス」って張りきってたけど、3度目の会見のときにはどうなることやら。楽しみではある。






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