“世界の黒澤”という形容詞は知ってはいたけれど、これは各国の映画賞を受賞しているからだけではないと思った。ご本人の話を伺うと、まさにそう形容するしかないのだと実感だ。しかも、インタビューのきっかけとなった『まあだだよ』のタイトルが示すように、「僕は映画を1本撮るたびに、まだまだだって思うんだ」とおっしゃる。そのあくまでひとりの監督としての飽くなき向上心と真摯な姿勢には、素直に感動させられっぱなしだった。枕元にはいつもシェークスピアとドストエフスキーの全集が置かれていて繰り返し読んでいること。就寝中も天然色の夢を見て、それをあわててメモに書き留めておくこと……。2時間半あまりの会見で伺った興味深いエピソードは山ほど。それをすべて書けないのは、残念だけど、黒澤監督の偉大さの片鱗は感じていただけたと思う。
そして最後に、私が涙が出るほど感激し、さらにさらに黒澤監督を敬愛してしまったことをお知らせしておきたい。というのも、監督が亡くなった後に、いろいろな方が思い出を語る雑誌の記事を読んだのだが、そこで驚愕の事実が判明したのだ。それは、黒澤監督自身が大の梅干し嫌いだったこと……。なんということを!である。しかし、あの時はそんなことはおくびにも出さずに、娘さんまで書斎に呼んで喜んで見せてくれたとは。その優しいお心遣いを思うと、感謝、感謝である。
そして、そんな優しい心根の方だからこそ、あれほど世界の人々を魅了する作品を作り続けられたのだと、あらためて思う今日この頃。あの無邪気な笑顔が時々思い出される。