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第1回 「ブラッド・ピットのエビアン・ボトル」
第2回 「デンゼル・ワシントンと三つの招き猫」
第3回 「ギヨーム・ドパルデューのパープル・ヘア」
第4回 「ホアキン、ラッセル、ワイルド・ナイト」
第5回 「キアちゃん、キアロスタミ」

2000.07.22 UPDATE

金子裕子
text by Yuko Kaneko


第6回●「キアヌ・リーブスがヘタくそバンドに一生懸命な理由」

 
 キアヌ・リーブスがベーシストをつとめる “ドッグスター”のライブに行ってきた。これが、3度目。ベースのネックを凝視し、一ケ所に金縛り状態だった初回と比べれば、ステージを左右に動きまわり、客席に向かって 笑顔を見せる今回はまずまず。そこそこロック・ミュージシャンに見える。で、うっすらと無精ヒゲを生やし、アルマーニ(たぶん)の黒いスーツを着た姿に魅入っているうちに、いろいろなことを思い出した。

 キアヌの実物を見たのは『ハートブルー』のキャンペーンで来日した91年だ。FBIの捜査官をオールバック・ヘアにスーツ姿で演じ、その美貌が広く認められた作品だ。で、当のキアヌといえば、すでに27歳というのに、まるで10代のガキ。スタッフが目を離せばすぐにどこかへフラフラ行ってしまい、 瞬間的行方不明に。格好も、髪の毛をボサボサに伸ばし、履きつぶしたドタ靴に穴の開いたTシャツ。あまりのひどさに、同行した共演者パトリック・スウェージが「いますぐ、スーツを買ってこい!」と叱り、なんとか記者会見にはスーツ姿を披露した。しかし、それもひどかったね。色は目も覚めるようなカーキ色。アルマーニだそうだが、どう見てもポリエステル製の安物にしか見えない。もっとも、何を着ていてもその美しく愛らしい顔だちには、なんの影響も及ぼさず。ひたすら顔だけに見惚れるばかりだったのだが。

 
 初来日には個別インタビューはしなかったのだが、翌年『ドラキュラ』のキャンペーンで来日したときは、しっかりゲット。たっぷり1時間近く目の保養をさせてもらった。このときは、これからロケ地インドにおもむく『リトル・ブッダ』の役作りに夢中だった キアヌ。後に悟りを開いてブッダになるシッダールタ王子を演じるために、かなりほっそりと痩せていて美貌も冴え渡り。顔なんか手の平で隠れてしまうほど小さいんだから!

 そして、仏教関係の本を読みあさっていたせいか、前回の来日時より落ち着いた雰囲気。というか、利口そう。なにしろ前回の記者会見ではほとんど「アー」とか「ウー」とか「わかんない」とか。同行の男性編集者など「○○遅れなの?」と真顔できいていたっけ。

「いま、人間の運命とか輪廻についてとても 考えているんだ。なにか不幸なことがあっても、それはこの現世の中で何かしらの意味と 役割を持っているんだと思う。そう思えば、生きていること自体、すべてに意味と役割があるということなんだよね」



illustration by hiroyuki ijichi


 
 あの顔で、あの澄んだまなざしで、こんなこといわれちゃうと、もう、メロメロ。デヘヘッ状態に陥って、「そうなのよ。だから、がんばろうね」なんてワケのわからんリアクションをしている私なのだ。

 そう、思うにキアヌの魅力は、チェロキー・ インディアンや中国やハワイなどの血がブレンドされたエキゾチックな美貌もさることながら、なによりこの純真な、ピュアな資質によるところが多い。誰にも、どんなことにも素直に反応して、思うがままに行動する。だから『スピード』の世界的ヒットでスターの座を獲得しながらも、“ドッグスター”のバンド活動を優先させて『スピード2』の出演を断わったのも、“いまの自分の心”に素直に反応した結果だろう。

 そういえば、個別会見2度目となった『スピード』のキャンペーン来日の時は、ちょっと変だった。というのも、最初から「この素晴らしい映画を作ったチームの代表として、僕はここにいます」って。こんなセリフ、似あわねぇ! コメントもあらかじめ用意されているかのような、決まりきった内容ばかり。スターともてはやされたことに、よほどプレッシャーを感じていたのだろう。でも、最後には、考え考え、本音をちらり。



「もしも、世の中に優れた俳優という職種があるならば、僕はそれになりたい」

 3度目の会見は、『マトリックス』の大ヒットで、その“優れた俳優”にちょっと近づいた直後だった。インタビュー自体は、ちょっと困ったり面倒くさくなったりすると、同席の共演者キャリー=アン・モスにふってしまい、ほとんど実のあることは話さなかった。それでも“スターの座”にも慣れたというか、そんなことは気にしないでマイペースを貫き通せる余裕が伺えた。

 じつは、私個人としてはヘタくそなバンド 活動なんかに時間を割かずに、俳優のキャリアを邁進して欲しいと思っていた。しかし、最近の落ち着きぶりをみて、納得した。そう、キアヌはハリウッドの狂気の沙汰に飲み込まれないためにも、正気を保っていくためにも、感情を思いきり発散させられるバンド活動が必要なんだと。ステージの上で、ベース・ギターをかき鳴らすひたむきな顔と、屈託のない笑顔は、それを証明しているかのようだ。

 ちなみに、私はかつてジャニス・ジョップリンに狂い、田舎の母に「明るいうちは近所に恥ずかしいから帰ってくるな」といわれたほど、ど派手なカーリー・ヘアでロック・コンサートに通っていた時期がある。つまり私自身は音痴だが、聴く耳には自信がある。そこで、提案なんだけど、キアヌ、リード・ギターを代えないと、バンドの将来はないよ!









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