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第1回 「ブラッド・ピットのエビアン・ボトル」
第2回 「デンゼル・ワシントンと三つの招き猫」






2000.04.29 UPDATE

金子裕子
text by Yuko Kaneko



第3回●「ギヨーム・ドパルデューのパープル・ヘア」


 
 スターと直に会うのは夢のような体験と思うかもしれない。しかし、現実はときに過酷だ。なにしろ個性豊かな人々が相手だから、その場の状況で“特別な時間”は悪夢に変わることもある。そんな最近の例を紹介したい。

 お相手は『ポーラX』で来日したギヨーム・ドパルデュー。いまにして思えば、インタビューの前に行われた記者会見で予感はあった。ビールとたばこを手にしたギヨームは、放らつな経歴がそのまま芸の肥やしになったような父親ジェラール・ドパルデューの血を受け継ぎ、奔放な芸術家肌の雰囲気。繊細ながらヤンチャなコメントをしばしば口にしていた。だから、彼の演じた主人公の未成熟さについての議論が白熱した会見場を後にしながら、「ギヨームこそ“歩く未成熟”」と思っていたのだ。

 で、その“歩く未成熟”は、やっぱり個別会見でも、やってくれたワケだ。

 
 まず今回の目的は、同時来日の共演者カテリーナ・ゴルベワとの対談だ。しかし、取材前日にギヨームのほうから「一緒はイヤ」のお達し。急きょ、一日目は2人並んだ撮影とカテリーナだけのインタビュー。ギヨームには翌日に彼女のコメントに呼応するような質問をして、対談形式にまとめるという苦肉の策に。だから、一日目にはカテリーナ用の質問を作り、取材に。ところが、撮影が終了して消えるはずのギヨームは「どうして一緒じゃダメなの?」。思わず「あんたがイヤだといったから」と私。もちろん日本語だから彼に通じていないのは承知の上だったけど。ったくナニをいいだすやら。

 ここで、読者は“最初の予定通りだからいいだろう”と思うかもしれない。しかし、私は質問を作って心の準備をしてからインタビューするのが常。ギヨームへの質問がないままにいきなりインタビューといわれても、頭はカラッポ。焦るばかりだ。しかし、だからといってスター様に機嫌よくお話を伺うためには、いいなりにならなきゃこの仕事は勤まらない。気分を害されて帰られたヒにゃ、オジャン。こうなれば度胸を決めて、仲良く手をつないでる2人の前に座るしかない。

 ところが、それから始まる地獄絵図を思えば、頭カラッポなんてほんのプロローグ。脳ミソをグルングルンかき回されることになるとは……。



 illustration by hiroyuki ijichi


 
 まず、参加人員の座り位置。私の向かって左からフランス語の通訳さん、ギヨーム、カテリーナ。そしてフランス語がイケるはずのカテリーナが所望した母国語のロシア語通訳さん。つまり、質問(日本語)→通訳(ロシア語)→カテリーナ答え(ロシア語)→通訳(日本語)となる。ギヨームの場合もそれがフランス語になるわけ。しかし、それだけでも相当ややこしいのに、ギヨームはロシア語の部分もすべてフランス語に訳せという。

  するとカテリーナも、65パーセントくらいはフランス語がわかるから、自分がロシア語で言ったことが日本語に訳され、それがまたフランス語に訳された内容を聞いて、「そういう意味ではないの」と、またロシア語で言い直す。もう、つまりは、ロシア語とフランス語が乱れ飛び、間に日本語が混じり、大混戦。通訳さんなんか、ついギヨームやカテリーナに日本語で話しかける始末。

 おまけにギヨームの話す内容が、これまた“歩く未成熟”。その片鱗を紹介するが、未成年者には刺激が強すぎるから、ご容赦を。

 たとえば、『ポーラX』ではカテリーナ演じる姉とギヨーム演じる弟のベッド・シーンがある。で、それは実際にセックスをしているのだ。しかし、じつはギヨームは本人だけど、カテリーナは代役を使っていた。そこに話がおよび、放言が飛び出す。



「まったく知らない女性とセックスしなきゃならなくて大変だった。しまいにゃ、恋人に口で立たせてもらったんだから。この辛さ、カーチャは(カテリーナの愛称)わかる?」

「カーチャは、実生活でセックスに感じたフリすることあるわけ?それってひどいよな。男は、物理的にフリできないもんなぁ」

 おいおい、ナニをいいだすんじゃい!そなこと質問してないっつーにィ。もう、ホント、困ったチャン。しかし、本人は、「だって、この映画の芸術性ってのはさぁ、追及してるのは真実なわけだからさぁやっぱそこのところ大事だし……」

 うーん、ワケわからん。しかも、こんな会話が変だとか、奇をてらおうとも思ってないから、嫌みにはならないし。もう、ひたすらヤンチャ坊主のダダコネをひたすらほほ笑みと爆笑で見つめる慈愛の母の気持ち、ですなぁ。

 といったわけで“3国バトル3時間デスマッチ”終了時には、疲労困ぱい。突然“こんなに苦労したご記念が欲しい”と、思った私は「その紫に染めた髪の毛ちょうだい!」。すると、ギヨームはにっこり笑ってブリッと20本あまりを抜いて手渡してくれた。うーん、こいつ、イイ奴だけと、やっぱり変。えっ、髪の毛なんかを欲しがる私のほうが、よっぽど変? まぁ、記念ですから……。








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