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2001.10.10 UPDATE
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92式重機関銃と、
岡本喜八郎が作った弾丸 |
「今ではとても信じられない話だが、本物の拳銃を警視庁から借りてきて、堂々と小道具に使ったりしたころがある。映画は『銀嶺の果て』、小道具はサード助監督が責任を持つことになっていたので、その本物の拳銃、しかも3丁の運搬管理も私の役目になった」(岡本喜八著『ヘソの曲り角』1977・東京スポーツ新聞社)
東宝映画『銀嶺の果て』('47)は三船敏郎扮する武装強盗と仲間が雪山に逃げ込むという山岳アクションだ。民主警察も弾丸までは貸してくれないので、スタッフが調達してきた。当時は拳銃も弾丸も闇市で簡単に買えた。その実砲の弾頭を岡本助監督が引っこ抜いて空砲を作った。彼も一応、兵隊あがりだ。が、好奇心から拳銃を分解したら部品が旅館のイロリの中に飛び散って、組み立てるのがタイヘンだったそうだ。
「もう本物はゴメンだと思っていたら、数年後の『暁の脱走』では、なんと重機関銃である。これもやっぱり、気前の良かったその筋が貸してくれたものだが、そのころではさすがにタマはない。タマがなければ連発できないので、今度はタマ作りに専念である」(『ヘソの曲り角』)
『暁の脱走』('50)は、のちに鈴木清順監督が『春婦伝』('65)として再映画化した戦争映画だ。兵隊が慰問団の歌手(『春婦伝』では従軍慰安婦)と脱走し、鬼上官が重機関銃で射殺するのがラスト。主役の池部良と山口淑子が銃弾の雨の中を走る。池部は足を撃たれた衝撃で体が飛び上がって倒れる。「弾丸に当たれば、ああ、なるという演技の本邦初演、だそうで、大変光栄に思っている」と、池部は書いている。彼も戦場で死ぬような目にあってきたので、そういうリアルな演技を思いついたのだろう。
さて、いくら軍隊経験があるとはいえ素人の岡本助監督が重機関銃の弾なんか作れるものだろうか? と思った。のちに岡本監督に東宝撮影所で会った。撮影所の一部は日曜大工センターと化していて、その一郭の喫茶店で話を聞いていたら、そこへ偶然、買い物カゴをさげた老人が現れた。なんと『銀嶺の果て』『暁の脱走』の谷口千吉監督だった。長身で女優にもてた師匠が『銀嶺の果て』のヒロイン・若山セツ子と結婚したときには、彼女に憧れていた岡本助監督は、ずいぶん悔しがったらしい。買い物カゴをさげた師匠にはそんな面影はすでになく、フツウのおじいさんのようだった。
喫茶店を出て、今では荒れ果てたオープンセット用の空き地に案内してもらった。「ここで重機関銃の試射をしたんですよ」と岡本監督は言う。えーっ? アブナイでしょ。よく聞いたら手作りの弾丸は木製だったという。なーんだ、じゃ安心だ。「軽いもんだから、まっすぐ飛ばない。あらぬ方向へ飛んでいって実弾よりコワイ」。やっぱりアブナイじゃないか。伊豆大島で撮影した本番では人のいないところへ向けて撃ったという。 |
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| 92式重機関銃。拳銃のような2つの銃把(グリップ)が特徴。何百発も連射できるベルト式給弾システムではなく、1枚の給弾板に30発の弾丸を並べ、手で押し込みながら連射する。『ワイルドバンチ』('69)でウィリアム・ホールデンが乱射していた水冷式重機関銃よりも軽いはずの空冷式でありながら、重量は三脚込みで55sを越す。弾丸を含めればもっと重い。戦前戦中の戦争映画では兵隊3人ぐらいで担いで運んでいたりする |
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戦後、日本映画に
度々登場する92式重機 |
『暁の脱走』の重機関銃は92式重機である。大正3年(1914年)に制式化、つまり軍用に制定された3年式重機は、38式歩兵銃の小口径弾を使用していて、あまりにも威力不足だった。いわゆる38(サンパチ)銃は明治38年(1905年)式の小銃だが、その基本性能はさらに8年前の30年式歩兵銃と同じだった。19世紀の旧式銃で米英相手の近代戦を戦ったのだからムチャな話。さすがに時代遅れを悟って3年式重機を口径アップしたのが紀元2592年(1932年)に制式化した92式重機だった。が、拡大する戦線には新旧の小銃や機関銃が混在し、口径の不統一による弾丸不足のために前線はさらに混乱し、無用の長物と化した92式重機は穴に埋められたりしたという。ちなみに紀元(皇紀)とは天皇の権威を高めるためにでっちあげたもので、神話の神武天皇即位から数えて明治6年を紀元2533年としたのが始まり。紀元2600年(昭和15年=西暦1940年)の式典が盛大に行われた年に制式化されたのが海軍零式戦闘機、すなわちゼロ戦である。
『暁の脱走』の92式重機をビデオで見ると、給弾板の上に30発の弾丸がクレヨンのように並んでいる。きれいに削った鉛筆のような弾頭は、とても手作りの模擬弾とは思えない。さすが岡本助監督は宮大工の息子だ。精度が高いだけに量産に向かないという根本的な設計の欠陥を持っていた92式重機も、見かけだけは立派だった。この重機を捕獲した米軍がびっくりしたほどの非常識な重さだから、それも当然。
大映の『五人の突撃隊』('61)に出てくる92式重機もホンモノらしい。残念ながら射撃シーンはないが、残照に浮かび上がる重機のシルエットは美しい。ただ飾っておくだけでも見栄えがいいので借りてきたのだろうが、弾丸を作れる器用なスタッフはいなかったらしい。そのかわり、米軍払い下げらしいホンモノの敵軍兵器を大量に使用。M24軽戦車数両、水冷式重機関銃、軽機関銃などが続々と登場して日本映画ばなれしたハデな戦闘シーンを繰り広げる。
92式重機を主役にした漫画に松本零士の『独立重機関銃隊』(『戦場まんが』シリーズ『スタンレーの魔女』所載。1974・小学館)がある。題名も内容も谷口千吉監督『独立重機関銃隊未だ射撃中』('63)に負うところが大きいようだ。『銀嶺の果て』『暁の脱走』は、公開当初の評価と黒沢明脚本という偽ブランドだけで谷口監督の代表作であるかのように伝えられているが、まことに遺憾である。『独立重機関銃隊未だ射撃中』こそ、谷口千吉の代表作のひとつといっていいだろう。そして、この映画では92式重機が主役として出ずっぱりの活躍を見せてくれる。この映画のビデオ化の願いもこめて、92式重機を日本映画遺産に指定する次第。
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