2001.4.1 UPDATE


指定第1号 「大映ビスタビジョンカメラ」



特撮マン、リチャード・エドランドと
旧大映撮影所、自慢の機材の関係とは……?

 『スター・ウォーズ/帝国の逆襲』(1980)で特撮の監修をつとめたリチャード・エドランドが来日したとき話を聞きにいった。米軍カメラマンとして滞日したことがあり、小津安二郎監督の映画が好きだという彼は、カタコトの日本語をまじえながら、にこやかに取材に応じてくれた。が、まだ試写も見てもいない映画の特撮について聞くのだから、お互いに隔靴掻痒で「ワカリマスカ?」「分かりませ〜ん」の応酬となった。

「特撮用のカメラもいくつか作りました。我々はロボットも機械もすべてニックネームで呼んでいて、カメラのひとつはビスタクルーザーと言います」。

 1950年代のクルマの名前をとったというそのカメラは、1950年代のビスタビジョンカメラを改造したものだそうだが、どんなカメラなのか見当もつかない。あとで特撮専門誌を見たら、エドランドが妙な機械を手にしている写真があった。その機械はティシュペーパーの箱ぐらいの大きさで、滑らかなボディが黒光りしていてSF映画の小道具みたいだ。ああ、これがビスタクルーザーか! それにしても、こんなに小さな箱が映画のカメラ? 一体、原型となったビスタビジョンカメラとは、どんなものだったのか? と疑問は深まるばかり。

『スタジオはてんやわんや』(1957)
●全盛期の大映京都撮影所の様子
 を伝えるドキュメンタリー映画
監督:浜野信彦
出演:市川雷蔵
   京マチ子
   若尾文子
発売:大映株式会社
3800円(税抜き)/発売中

 それから20年たって、ようやく疑問は氷解した。『スタジオはてんやわんや』(1957)という旧大映撮影所のPR映画のビデオを見た。そのなかに、アメリカから到着したばかりの新型カメラの紹介がある。このカメラこそ、20世紀フォックスのシネマスコープに対抗してパラマウントが採用したワイド画面映画、ビスタビジョン撮影用のカメラなのだ。しかもカメラは大小2台。

 大型はブラスバンドの大太鼓ぐらいの黒いドラムに何本ものケーブルが生えていて、大きなレンズ・フードが付いている。真っ黒な金属製の巨大カタツムリが引っくり返ったような形の不思議なカメラだ。小型の「ハンド・キャメラ」は水平に回転するフィルム・マガジンが本体の左右に2個のフライパンのように付いていて、中央の小さな本体の前にレンズが突き出している。カラスのロボットみたいな、異星人の宇宙船のミニチュアみたいな、これまた不思議なカメラ。「さすがにキャメラに慣れた撮影所の人たちもびっくり仰天していますね」とナレーター氏が自慢する気持ちも分かる。


大映ビスタビジョンの独創的な
スタイルは今見ても実に魅力的だ

 ほとんどの映画カメラはフィルムが縦に走る。35ミリ映画の1コマの大きさは写真用の35ミリ・フルサイズの半分、つまり昔あったハーフ判カメラの1コマと同じぐらいになる。

 シネマスコープはこの小さなコマを特殊レンズを使って、無理やり左右に引き延ばして映写するから画質は落ちる。パンストを引っぱれば網目が粗くなるのと同じリクツである。そこで、写真機と同じようにフィルムを横方向に走らせて横長のワイド画面を撮影するようにしたのがビスタビジョンだ。上映プリントは縦走りの35ミリ・フィルムに縮小プリントするのだが、それでもネガの面積が大きいので画質はいい。そのネガを現代の高性能フィルムで撮影してプリントすれば、もっと画質はよくなるはずだ。

 そこに目を付けたのがリチャード・エドランドのビスタクルーザーだったのだ。ネガ面積が大きいから合成しても画質が落ちないのだろう。原型となったのはビスタビジョンの「ハンド・キャメラ」の本体部分のようだ。その構造は写真機と似たようなものだから、長尺フィルム・マガジンとモーター・ドライブ付きの35ミリ1眼レフカメラでも作れるのではないか? そう考えて、たちまちビスタクルーザーもどきの安上がりな特撮用カメラを作ったのが大林宣彦監督だった。ああ、日本人。

 せっかく輸入したビスタビジョンカメラを大映はわずか1年ほどで没にしてしまい、他社と同じシネスコに鞍替えした。シネスコのほうが撮影フィルムの使用量は少ないし、既存のカメラや映写機のレンズだけ付け替えればいいので、簡便かつ安上がりだったのだろう。ちなみに現在使われているビスタビジョン・サイズという言葉は、日本だけで通用する和製英語であり、画面の縦横比以外はビスタビジョンとは関係ない。

左からテクニカラーカメラ、ビスタビジョンカメラ、何だか分からないカメラ。『スタジオはてんやわんや』で紹介されている大映ビスタビジョンカメラはゴテゴテした四角いメカ本体がもっと小さく、後ろのドラムと一体化し、全体に丸みをおびたスマートなデザイン。写真はパラマウントで使われていた初期タイプだろうか?
(撮影:藤田真男)

 大映ビスタビジョン映画が何本撮影されたかは知らないが現在、長谷川一夫主演『銭形平次捕物控・女狐屋敷』(1957)『遊侠五人男』(1958)、市川雷蔵主演『月姫系図』(1958)などがビデオ化されている。ネガの保存状態のせいか、ピカピカとはいかないが、それでも当時の東映シネスコ映画などに比べると粒子が細かくて確かに画質はいい。

 日本映画への貢献度はともかくとしても、大映ビスタビジョンカメラのその独創的なスタイルは今見ても実に魅力的だ。ビスタビジョンカメラがテクニカラーカメラやパナビジョンカメラと同様、レンタル式ならアメリカに返還されただろうし、買い取りなら国内に残っているか、どこか外国に売却された可能性もある。もしどこかに残っていたら、ぜひ日本映画遺産第1号に指定したいと思う。

 というわけで、次回からも日本映画にまつわる歴史的遺物からガラクタまでのモノたち、日本映画に映し出された失われた景観などの遺産を集めていきたいと思います。



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