Back Number
プロローグ:もうひとつの『もののけ姫』
第1回 ゴダールの『映画史』
第2回 アンナ・カリーナとともに
第3回 映画と観客
第4回 美少女チャン・ツィイーに捧げた愛の詩
第5回 アニメーションの冒険
第6回 映画の宝物
第7回 羽仁進とジャン・ルノワール
第8回 誰が映画を殺すのか
第9回 映画の後で
第10回 映画戦線異状なし?
第11回 「映画」から遠く離れて
第12回 年末年始は映画三昧
第13回 いくつかの映画的「快挙」
第14回 『犬猫』『ヒッチコック・コレクション』『阪妻映画祭』など
第15回 ヌーヴェル・ヴァーグ再考
第16回 フランソワ・トリュフォー -わが人生の映画たち-
第17回 チェコアニメの夏
第18回 生きた、愛した、歌った。
第19回 『十七歳』を忘れないために
第20回 日常の映画的冒険
第21回 映画的日々雑録
第22回 『チェコ怪奇骨董幻想箱』など
第23回 映画雑誌なんかいらない!?
第24回 ジェームズ・キャグニーと身体表象文化としての映画誌
第25回 エロール・フリンとチャンバラ活劇の映画誌




ご感想はこちらまで

2005.9.16UPDATE


山田宏一
text by Koichi Yamada




 「身体表象文化としての映画誌」と銘打って、ここ学習院大学(西2号館506号教室)で試みてきた公開講座は、「ジェームズ・キャグニーと踏襲の映画史」を序論というかプレ講座として、(1)「それはフランスからはじまった――ドタバタ喜劇(la comdie burlesque)の誕生」、(2)「エロール・フリンとチャンバラ活劇(swashbuckler)の映画誌」、(3)「ギャグの映画誌1――マック・セネットとキーストン喜劇、ハル・ローチ喜劇」、(4)「ギャグの映画誌2――チャップリン」、(5)「ギャグの映画誌3――バスター・キートン(笑わぬ喜劇王)」、(6)「ギャグの映画誌4――ハロルド・ロイドからジャッキー・チェンまで」、(7)「ギャグの映画誌5――日本の喜劇王エノケン」、(8)「踊る映画誌1――フレッド・アステア」、(9)「踊る映画誌2――ジーン・ケリー」、(10)「泳ぐ映画誌――水着美人から水着の女王まで」と前期をやっと終えて夏休みに入ってしまったのですが、文章化のほうがすっかり遅れて、その遅れを取り戻すというより、とりあえず今回は前期の補足のような「ミュージカルと身体表象文化としての映画誌」です。

 というのも、ワーナー・ホーム・ビデオから、またも映画ファン垂涎の「華麗なる」カラーのミュージカル・コメディーがDVDで発売されました。お配りしたチラシのように、『バンド・ワゴン』(ヴィンセント・ミネリ監督、1953)、『ブリガドーン』(ヴィンセント・ミネリ監督、1954)、『ベルズ・アー・リンギング』(ヴィンセント・ミネリ監督、1960)、『イースター・パレード』(チャールズ・ウォルターズ監督、1948)、『くたばれ!ヤンキース』(ジョージ・アボット/スタンリー・ドーネン共同監督、1958)、『フィニアンの虹』(フランシス・フォード・コッポラ監督、1968)といった作品です。『バンド・ワゴン』『イースター・パレード』『フィニアンの虹』がフレッド・アステア主演、『ブリガドーン』がジーン・ケリー主演、『ベルズ・アー・リンギング』はジュリー・ホリデイとディーン・マーティン共演の日本未公開作品、『くたばれ!ヤンキース』はグウェン・ヴァードンの悩殺的な誘惑のダンスで忘れがたい(振付はボブ・フォッシーですから、すごくエロチックなんですね)、題名どおりの野球ミュージカルです。

『バンド・ワゴン 特別版』(2枚組)
発売:ワーナー・ホーム・ビデオ
¥3980
『イースター・パレード 特別版』
発売:ワーナー・ホーム・ビデオ
¥3980
『ブリガドーン デジタル・リマスター版』
発売:ワーナー・ホーム・ビデオ
¥3980
『フィニアンの虹 特別版』
発売:ワーナー・ホーム・ビデオ
¥3980
『ベルズ・アー・リンギング 特別版』
発売:ワーナー・ホーム・ビデオ
¥3980
 もちろん、『バンド・ワゴン』のフレッド・アステアとシド・チャリシーによる美しく優雅な「ダンシング・イン・ザ・ダーク(黄昏に踊る)」やダイナミックな「ガール・ハント・バレエ」のように、目のくらむようなすばらしいナンバーもあり、『イースター・パレード』でフレッド・アステアだけがスローモーションで踊り、バックのコーラス(群舞団)はふつうのリズムで踊っているという有名な「舞台のモンタージュ・シーン」とジュディ・ガーランドとアステアがルンペン姿で歌い踊るコミカルなナンバー、それにアーヴィング・バーリンの甘美な歌曲の数々などもうっとりするくらいすばらしく、忘れがたいものばかりです。

 100年に1日だけこの世に出現するブリガドーンというスコットランドの村――その村の美女シド・チャリシーと旅人ジーン・ケリーのロマンチックな恋物語『ブリガドーン』、妖精と人間たちがくりひろげる幻想的な物語『フィニアンの虹』(フレッド・アステアの軽妙洒落な味が魅力になっています)は、ともに第2次世界大戦後まもない1947年にブロードウェイで大ヒットしたミュージカルの映画化です。

 『ベルズ・アー・リンギング』は、ジュディ・ホリデイというヒロインを演じる女優が、いまで言うと『ブリジット・ジョーンズの日記』(シャロン・マグワイア監督、2001)のレニー・ゼルウィガーみたいな感じなんですね。電話だけで恋してしまうという話は、もしかしたらフランソワ・トリュフォー監督の『恋愛日記』(1977)などに影響を与えているのかもしれない。ディーン・マーティンは長いあいだコメディアンのジェリー・ルイスとコンビを組んでいたのですが(「底抜け」コンビとして知られました)、1958年のエドワード・トミトリク監督の異色の戦争映画『若き獅子たち』(マーロン・ブランド、モンゴメリー・クリフトと共演)、ヴィンセント・ミネリ監督のメロドラマ『走り来る人々』(フランク・シナトラ、シャーリー・マクレーンと共演)、ハワード・ホークス監督の西部劇『リオ・ブラボー』(ジョン・ウェインと共演)から、シリアスな、ドラマチックな役というか、ふつうのドラマの主人公も演じるようになって、『ベルズ・アー・リンギング』でも歌うシーンはもちろんあるのですが、ハリウッドの新鋭脚本家で真実の恋にめざめる男の役を演じています。もう少し元気がほしいような気もしますが、恋する相手がジュリー・ホリデイではやむを得ないのかもしれない。

 いずれもミュージカル・コメディーがきわめてアメリカ的なものであり、たぶん舞台以上に映画として成功した、その理由と歴史の正当性を認識させてくれるすばらしい作品群です。戦前から戦中までの――モノクロ時代の――輝かしいキャリアのあと、すでに引退していたフレッド・アステアが、ひょんなことから、というのも、ジーン・ケリーが怪我で出られなくなって急きょ、その代役をたのまれたことから、戦後の――カラー時代の――新しいキャリアをスタートさせることになった『イースター・パレード』や『バンド・ワゴン』など、ただ、ただ、すばらしいの一語につきます。それぞれの作品についてのメイキング・ドキュメンタリーが映像特典としてたっぷり見られるのもワーナー・ホーム・ビデオのDVDのうれしいところです。

 


「スロウトレイン」に掲載の記事・写真・カット等の無断転載を禁じます。© Works m bros.