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プロローグ:もうひとつの『もののけ姫』
第1回 ゴダールの『映画史』
第2回 アンナ・カリーナとともに
第3回 映画と観客
第4回 美少女チャン・ツィイーに捧げた愛の詩
第5回 アニメーションの冒険
第6回 映画の宝物
第7回 羽仁進とジャン・ルノワール
第8回 誰が映画を殺すのか
第9回 映画の後で
第10回 映画戦線異状なし?
第11回 「映画」から遠く離れて
第12回 年末年始は映画三昧
第13回 いくつかの映画的「快挙」
第14回 『犬猫』『ヒッチコック・コレクション』『阪妻映画祭』など
第15回 ヌーヴェル・ヴァーグ再考
第16回 フランソワ・トリュフォー -わが人生の映画たち-
第17回 チェコアニメの夏
第18回 生きた、愛した、歌った。
第19回 『十七歳』を忘れないために
第20回 日常の映画的冒険
第21回 映画的日々雑録





『チェコ怪奇骨董幻想箱 Vol.3 ヌーベルヴァーグ&ニューウェイヴBOX』
エプコット
¥15120(税込)
発売中
 「チェコ怪奇骨董幻想箱」と銘打ったDVDシリーズ(エプコット)に「ヌーベルヴァーグ&ニューウェイブBOX」が出て、そのなかに、なんと、ミロス・フォアマン監督の初期の、つまりチェコ時代の、2本の快作、『ブロンドの恋』(1965)と『火事だよ!カワイ子ちゃん』(1967)が入っているのだ!! 映画ファン必見の2作だ。

 『ブロンドの恋』は日本未公開(だと思う)、『火事だよ!カワイ子ちゃん』は東京・草月ホールで1回上映され、『消防士たちの舞踏会』という原題でテレビ放映されただけという珍品である。

 『パパ/ずれてるゥ!』(1971)以後のアメリカ時代のミロス・フォアマン監督には『カッコーの巣の上で』(1975)、『ヘアー』(1979)、『アマデウス』(1984)、『ラリー・フリント』(1996)といったやや重苦しい問題作、大作が目立つが、チェコ時代の軽妙でみずみずしく才気にみちた小品のほうがはるかに捨てがたい魅力がある。

 ポーランドのロマン・ポランスキー(1962年に長篇映画第1作『水の中のナイフ』を撮り、次いでポーランドから出てイギリスで1965年に『反撥』を撮って亡命)と同世代で同じような運命をたどるのだが、ジョルジュ・サドゥール(「世界映画史」、丸尾定訳、みすず書房)によってすでにこんなふうに評価されていた。

 1962年以降、チェコスロヴァキアの映画製作は若い映画作家たちの登用により急激にして目覚ましい飛躍をとげた。(中略)これらの若い監督たちの中で最も優れているミロス・フォアマンは、『黒いペートル』(1963)では[1927年のグスタフ・マハティ監督作品から1954年のイジー・トルンカの人形アニメに至るまで何度も映画化された]『善良な兵士シュヴェイクの冒険』と似通ったトーンで偽って素朴ぶっている青年を描きだしていた。次いで『ブロンドの恋』(1965)でこの若い映画作家はその個性を確立した。

 日本でも山田和夫氏によって「率直なカメラ・アイで日常生活を皮肉に観察する喜劇的才能にひいでている」気鋭の映画作家として紹介されていた(「世界映画人名事典 監督(外国)編」、キネマ旬報社)。


『ブロンドの恋』
『ブロンドの恋』
エプコット
¥5040(税込)
発売中
 『ブロンドの恋』は、地方の小さな町の靴工場からはじまり、そこで働く若い女性が2000人に対して男性がわずか200人しかいないというので、兵役中の男たちを招いてダンスパーティーを催し、年頃の女の子たちのためのレクリエーション(というよりも、ずばり、性的なはけぐち)のために「出会い」の場をつくろうという話なのだが、ドジな中年男が若い女の子にもてようとして結婚指輪をはずしてズボンのポケットに隠すものの、ポケットには穴があいていたらしく、指輪は抜け落ちて、あわててひろおうとすると、踊る人々の足のあいだを逃げるようにコロコロ転がっていくといったサイレント・ギャグが冴える。

 若い男女のベッド・シーンでも、こわれたカーテンロールを直して巻きつけるにしたがって男のセックスに近づくというデリケートなギャグがあるのだが、くわしくは見てのおたのしみということにしよう。エルンスト・ルビッチ的な、あるいはむしろルネ・クレール的なくすぐり笑いに近いのだが、セックス・シーンで下品な笑いに堕さずにこれほどユーモラスな演出に成功した例もまれだろう。

 映画はいきなり、すっとぼけた悪ガキみたいな女の子がギターを弾いて「イエーイエー」を歌うという幕あき。都会(プラハ)から来た楽団の若いピアニストに恋をしたブロンド娘が夢やぶられて靴工場の日常的な仕事に戻るところで、女性ヴォーカルがせつなく歌い上げる抒情的なグノーの「アヴェ・マリア」が流れて終わる。諷刺のきいたほろ苦い青春コメディーの傑作と言えよう。モノクロ作品。


『火事だよ!カワイ子ちゃん』
『火事だよ!カワイ子ちゃん』
エプコット
¥5040(税込)
発売中
 『火事だよ!カワイ子ちゃん』はカラー作品で、これも地方の小さな町の消防署が高齢の消防署長の退役記念に催すダンスパーティーの会場が中心になった「グランド・ホテル形式」で(このダンスパーティーの会場でもドジな若い娘が真珠のネックレスをバラバラにしたために、真珠がパラパラと踊る人々の足もとにちらばるのをひろい集めようとするドタバタ騒動が起こる)、多彩な人間模様と悲喜こもごもの些細な珍事の数々が独特の間の抜けたようなリズムで面白おかしく描かれる。退役した高齢の消防署長はルネ・クレール監督の『巴里祭』(1932)に出てくるボケているのかトボケているのかわからないような酔っぱらいの老紳士ポール・オリヴィエさながらのおかしさだ。もうひとり、すばらしい、こちらは悲劇的な老人が出てくるのだが、それは火事でパジャマ姿のままベッドにしがみついて焼け出される老人である。悲惨と滑稽が紙一重になっているのである。

 ミスコンテストにはしゃぐ消防署のお偉方はエルンスト・ルビッチ監督の『ニノチカ』(1939)の3人のソ連の特使たちのような愉快な好色ぶりだ。それにしても、『ブロンドの恋』に次いで、ミロス・フォアマン監督というのはとことん美人好みでないことがわかる。

 1963年から68年まで共産圏のチェコスロヴァキアに訪れた「プラハの春」という束の間の自由な雰囲気のなかでつくられた若い映画群のなかの注目すべき2本であった。しかし、周知のように、68年8月、ソ連およびワルシャワ条約機構加盟国の軍隊が軍事交渉をおこなって(いわゆる「チェコ事件」である)、自由化運動は弾圧された。ミロス・フォアマン監督はその年パリにいて(私もそのころパリにいて何度か会ったことがある)、すでに5月のカンヌ映画祭中断のときにも立ち合っているのだが、そのままチェコに帰らずに亡命を余儀なくされたのだった。




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