トリュフォーの映画的記憶を探る19章
(1) エッフェル塔
(2) 813
(3) リュミエール
(4) 「カイエ・デュ・シネマ」とヌーヴェル・ヴァーグ
(5) ロベルト・ロッセリーニとネオレアリズモ
(6) ジャン・コクトー
(7) ジャン・ヴィゴ
(8) ドタバタ喜劇(ローレル/ハーディ)
(9) マックス・オフュルス
(10) ニコラス・レイ
(11) チャップリン
(12) ハワード・ホークス
(13) ヒッチコック
(14) フリッツ・ラング
(15) ジャック・タチ
(16) ジャン・ルノワール
(17) 映画への愛
(18) アンリ・ラングロワとシネマテーク・フランセーズ
(19) アンドレ・バザン
<< 第16回TOPへ











 (17)の映画への愛は、もはや言うまでもなく、フランソワ・トリュフォーの映画そのもの、フランソワ・トリュフォーその人です。『アメリカの夜』はサウンド・トラックの波状のモジュレーションにクレジットタイトルが流れるというはじまりで、D・W・グリフィスの『見えざる敵』(1916)でスクリーンにデビューしたリリアンとドロシーのギッシュ姉妹に捧げられています。いわば映画そのものへのオマージュなのです。トリュフォー自身が演じるフェラン監督が控室でジョルジュ・ドルリューから電話をとおして映画のテーマ曲を流してもらうあいだに、注文した映画の本が届き、包みをひらくと、ルイス・ブニュエル、カール・ドライヤー、エルンスト・ルビッチ、イングマール・ベルイマン、ジャン=リュック・ゴダール、アルフレッド・ヒッチコック、ロベルト・ロッセリーニ、ハワード・ホークス、ロベール・ブレッソン、ルキノ・ヴィスコンティとトリュフォーの敬愛する映画監督の本が次々に出てきます。

『大人は判ってくれない』
フェラン監督が夜ごとうなされてみる夢は、少年時代に映画館の立て看板に貼ってあったオーソン・ウェルズの『市民ケーン』のスチール写真を盗んだ思い出です。『大人は判ってくれない』では、時代が1950年代になっているので、アントワーヌ・ドワネルが映画館の壁からはがして盗むのはイングマール・ベルイマン監督の『不良少女モニカ』(1952)のスチール写真です。映画少年の夢をずっとトリュフォーは映画のなかでも見つづけていたわけです。

 オーソン・ウェルズもトリュフォーの映画に大きな影響を与えています。ついでにひとつだけ、『偉大なるアンバーソン家の人々』(1942)のキャメラの長回し、ワンシーン・ワンカットに挑戦したトリュフォーの『華氏451』のキャメラの長回しのシーンを見てみたいと思います。





 (18)のアンリ・ラングロワとシネマテーク・フランセーズは、映画少年の夢をはぐくんでくれた恩師とその学校です。『夜霧の恋人たち』は、1968年1月、アンリ・ラングロワが政府の官僚たちによってシネマテーク・フランセーズから解雇され(その事務局長の地位を奪われ、追放されるのです)、それに反対する「シネマテーク擁護委員会」がアンリ・ラングロワの復帰をスローガンに結成され、トリュフォーはその先頭に立ちながら、同時に撮影をつづけた作品で、閉鎖されたシャイヨー宮のシネマテーク・フランセーズの入口からはじまり、「アンリ・ラングロワのシネマテークに捧ぐ」というトリュフォー自身の書き文字が画面に出ます。シャイヨー宮のシネマテーク・フランセーズの入口からはエッフェル塔がすぐ目の前に見えます。トリュフォーが愛してやまなかったシャルル・トレネのシャンソン「残されし恋には」がしみじみとノスタルジックに流れます。

 『夜霧の恋人たち』は、1968年9月、アンリ・ラングロワが館長の地位に復帰したシャイヨー宮のシネマテークでプレミア上映されたのでした。




「スロウトレイン」に掲載の記事・写真・カット等の無断転載を禁じます。© Works m bros.