トリュフォーの映画的記憶を探る19章
(1) エッフェル塔
(2) 813
(3) リュミエール
(4) 「カイエ・デュ・シネマ」とヌーヴェル・ヴァーグ
(5) ロベルト・ロッセリーニとネオレアリズモ
(6) ジャン・コクトー
(7) ジャン・ヴィゴ
(8) ドタバタ喜劇(ローレル/ハーディ)
(9) マックス・オフュルス
(10) ニコラス・レイ
(11) チャップリン
(12) ハワード・ホークス
(13) ヒッチコック
(14) フリッツ・ラング
(15) ジャック・タチ
(16) ジャン・ルノワール
(17) 映画への愛
(18) アンリ・ラングロワとシネマテーク・フランセーズ
(19) アンドレ・バザン
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『あこがれ』
 (4)の「カイエ・デュ・シネマ」はアンドレ・バザンのもとにトリュフォーやゴダールが映画批評を書いていた同人誌です。ヌーヴェル・ヴァーグのゆりかごになった映画研究誌ですね。ヌーヴェル・ヴァーグの仲間たちは「カイエ・デュ・シネマ」の同人から映画作家になったので、ゴダールやトリュフォーは映画のなかでもおたがいにしょっちゅう目くばせをし合って、たのしんだり、はげまし合ったりしています。「映画はわれらのもの」という若々しい誇らかな意気ごみもあったのだろうと思います。

 トリュフォーの『あこがれ』のなかで恋人たち(ジェラール・ブランとベルナデット・ラフォン)が映画館に入ると、そこで上映されているのが、「カイエ・デュ・シネマ」の同人でもあるジャック・リヴェットの短篇映画『王手飛車取り』(1956)です。製作がこれも「カイエ・デュ・シネマ」の同人であるクロード・シャブロルとヌーヴェル・ヴァーグのプロデューサーとして知られるピエール・ブロンベルジェ、主演がジャン=クロード・ブリアリとエチエンヌ・ロワノ(アンドレ・バザンと共同で「カイエ・デュ・シネマ」の編集長をつとめたジャック・ドニオル=ヴァルクローズの変名)という「カイエ」グループの作品です。友情ある目くばせといったところ。その映画館から出てきた子供たちが壁に貼ってあるジャン・ドラノワ監督の『首輪のない犬』(1955)のポスターを破っていきます。トリュフォーが批評家時代に「フランス映画のある種の傾向」という名高い論文でとことんたたきのめしたオーランシュ/ボストのコンビの脚本による作品で、そのポスターを子供たちがこの大ヒットした映画の主題歌など口ずさんでばかにしながらビリッと破るので、これはスキャンダルになるほどの挑発的な行為になりました。監督のジャン・ドラノワが怒りの抗議状を発表しています。


『大人は判ってくれない』
 トリュフォーは『大人は判ってくれない』でもジャック・リヴェットの長篇映画第1作『パリはわれらのもの』にも友情ある目くばせをしています。アントワーヌ・ドワネルが両親に連れて行ってもらってゴーモン・パラスというロードショー館で見る映画という設定なのですが、じつは当時『パリはわれらのもの』は資金不足で撮影中断、未完のままでした。だから、ゴーモン・パラスといった大きな映画館で上映しているはずはないのですが、トリュフォーとしては親友のジャック・リヴェットに対するはげましと応援のコールを送ったのでしょう。事実、トリュフォーは、『大人は判ってくれない』がカンヌ映画祭で監督大賞を受賞したあと公開されてヒットしたその収益で『パリはわれらのもの』を援助し、クロード・シャブロルと共同製作者になって、1961年にこの作品を完成させます。「カイエ・デュ・シネマ」そのものを堂々と宣伝するかのように引用するところもあります。トリュフォーの長篇映画第2作『ピアニストを撃て』(1960)では、「カイエ・デュ・シネマ」の大きなポスターを貼ったトラックが走っていく。そのシーンを見てみましょう。シャルル・アズナヴールとマリー・デュボワが2人組のギャングにつかまって強引に車に乗せられていくシーンです。

 『華氏451』(1966)では、焚書のシーンで、ジャン=リュック・ゴダールの長篇映画第1作『勝手にしやがれ』(1959)が表紙になった「カイエ・デュ・シネマ」が燃え上がります。ゴダールも、『勝手にしやがれ』では、シャンゼリゼ大通りでジャン=ポール・ベルモンドに「カイエ・デュ・シネマ」を見せて「若者を支持せよ」とアピールする女の子を登場させたりします。『女は女である』(1961)では、ゴダールはトリュフォーにこんな挨拶を送ります。特別出演のジャンヌ・モローにジャン=ポール・ベルモンドが「ジュールとジムは元気かい」とたずねるシーンがあり、言うまでもなく、トリュフォーの長篇第3作でジャンヌ・モロー主演の『突然炎のごとく』(1961)の原題が『ジュールとジム』です。『女は女である』では、こんなシーンもあります。トリュフォーの『ピアニストを撃て』にシャルル・アズナヴールと共演したマリー・デュボワが特別出演し、アンナ・カリーナに「シャルル・アズナヴールって、すてき」と言われて、突然、拳銃を持つ恰好をしてパンパンパンという銃声とともに撃つのです。ここもたのしいシーンなので、ついでにちょっと見てみましょう。


『ピアニストを撃て』
 「カイエ・デュ・シネマ」出身ではありませんが、アンドレ・バザンの友人で、ヌーヴェル・ヴァーグの仲間であるアラン・レネの長篇映画第3作『ミュリエル』(1963)のなかにも、トリュフォーの『ピアニストを撃て』の音楽が印象的に引用されているシーンがあります。アラン・レネはトリュフォーに負けないくらいのヒッチコック・ファンで、『去年マリエンバートで』(1960)にも『ミュリエル』にもヒッチコックを登場させています。どちらもヒッチコック本人が登場するというのではなく、そんなことはとても不可能だったでしょうから、その代わりに、ヒッチコックの実物大の写真を型取った看板や人形なのですが……そのシーンもふくめて、『ミュリエル』のカフェのなかで『ピアニストを撃て』のピアノによるテーマ曲が引用されて流れるところを見てみましょう。



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