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プロローグ:もうひとつの『もののけ姫』
第1回 ゴダールの『映画史』
第2回 アンナ・カリーナとともに
第3回 映画と観客
第4回 美少女チャン・ツィイーに捧げた愛の詩
第5回 アニメーションの冒険
第6回 映画の宝物
第7回 羽仁進とジャン・ルノワール
第8回 誰が映画を殺すのか
第9回 映画の後で












 あわただしく、もうひとこと ―― 去る6月27日に76歳で死去したアメリカの映画俳優、ジャック・レモンについて。
 いろいろな死亡記事、追悼の文章のなかで、「ロードショー」のコラムが最も心に残ったので、その1部を引用させていただきたいと思う。

 「レモンは、われわれのひとりだった。英雄でもなく、ハンサムでもない。しかし偉大な俳優だった」。6月27日に、がんの合併症のため76歳で亡くなったジャック・レモンについて、アメリカ唯一の全国紙“USAトゥデー”は一面の見出しにこのようにしるした。ジョン・ウエインのようにマッチョではなく、クラーク・ゲーブルのような美男でもなく、男たちを「おれと同じだよ」という気分にさせたレモンの死は、多くの人々を、多くの人々をさびしがらせている。

 アイドル雑誌の不人気がささやかれるなかで、「ロードショー」はじつは、いま、最もおもしろい映画雑誌だ。アイドル的な人気スターのグラビアだけが「売り」のマガジンとは思えない。その情報の豊富で多彩なこと、このうえない。私はまずJonathan Klein+松尾玲子の連載「INSIDE HOLLYWOOD ハリウッドの表と裏」から読むのをたのしみにしているのだが、そのあと、どのページをめくっても興味がつきない。

 ところで、ジャック・レモンについて思いだしたことは、かつて ―― 出世作になったジョン・フォード監督の映画『ミスタア・ロバーツ』(1955)にまだ出演する前に――テレビ・ドラマに出ていたジャック・レモンの「才能」を発見した俳優のジェームズ・キャグニーがその「左利き」の演技に注目したことである。「彼〔ジャック・レモン〕を初めてテレビ・ドラマで見たとき―― 彼はソーダ水売り場の店員をやっていたのだが―― カウンターを拭いたり、ほうきで床を掃いたり、物を動かしたりするのをすべて左利きでやっているのが印象的だった」とキャグニーは書いている(「ジェームズ・キャグニー自伝」、早川書房)。ジャック・レモンは左利きではなかったが、チャップリンを見て(チャップリンは実際に左利きだった)、左利きが視覚的にどこかぎこちなく無器用に見え(とはいえ、野球ではイチローの例もあり、そのかぎりではないが)、それだけに巧みな左利きはいっそう笑いを誘うので、右利きなのにすべて左利きで演じることにしたのだという。『アパートの鍵貸します』(ビリー・ワイルダー監督、1960)でジャック・レモンがテニスのラケットを使ってゆでたてのスパゲッティをあげる演技などがすぐ想起されよう。

『ミスタア・ロバーツ』
監督:ジョン・フォード
   マーヴィン・ルロイ
出演:ヘンリー・フォンダ
   ジャック・レモン
1955年アメリカ映画
2時間3分
DVD:2000円(税抜)


 この「左利き」の演技ひとつだけでも、「ジャック・レモンの演技が知的なものにささえられている証拠」だとキャグニーは称賛する。『ミスタア・ロバーツ』で新人のジャック・レモンと共演したジェームズ・キャグニーは、「じつにいい若者だった」とその印象を自伝に綴っている。「彼はけっして軽薄にも下品にもならずに人を面白がらせるコツを心得ていた ―― これは若いコメディアンとしてまれなる才能だった。喜劇という仮面をかぶった軽薄ぶりが今日では横行しているが、それは、しばしば、素顔のない薄っぺらな仮面なのだ」。

 25年前に出た回想録だが、まるで現在の話みたいである。


 今回はビデオにふれる余裕がないのだが、DVDはいよいよ隆盛らしく、「DVDがやってきた」と評する朝日新聞の記事でも。「ビデオカセットをしのぐデジタルによる高画質、高音質、加えてコンパクトで劣化も少ない映像記録媒体――そんなふれこみで96年に登場したDVDソフトの売上げが急伸している」(小原篤)と伝えている。しかし、テープ(VHS)のほうもグレタ・ガルボ主演の『ニノチカ』(エルンスト・ルビッチ監督、1939)、マレーネ・ディートリッヒがジョン・ウェインと共演する『妖花』(テイ・ガーネット監督、1940)といった心ときめく名作、珍品を出しつづけてくれるジュネス企画が相変わらず奮闘している。次回にはきちんと紹介したいと思う。

 ビデオだけでなく、映画館でも東京・千石の三百人劇場の「ロシア映画の全貌2001」、BOX東中野の「マルクスと映画 20世紀映画精神史」では、見逃せない(あるいは見逃した)作品の数々が目白押しに並ぶ。後者の特集で清水宏監督の『蜂の巣の子供たち』(1948)と『ともだち』(1940)が見られるだけでも気が遠くなりそうなくらいうれしい。中野武蔵野ホールにおける「増村保造レトロスペクティブ」のアンコール上映も、この原稿がネットにのるころにははじまっていることだろう。


『ロシアン・ブラザー』
『ロシア映画の全貌2001』
http://www.bekkoame.ne.jp/
~darts/pagej350.html



『ともだち』
『マルクスと映画 20世紀の映画精神史』
http://www.mmjp.or.jp/BOX/







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