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プロローグ:もうひとつの『もののけ姫』
第1回 ゴダールの『映画史』
第2回 アンナ・カリーナとともに
第3回 映画と観客
第4回 美少女チャン・ツィイーに捧げた愛の詩
第5回 アニメーションの冒険
第6回 映画の宝物
第7回 羽仁進とジャン・ルノワール
第8回 誰が映画を殺すのか












 DVDで見られる「新・メグレ警視」シリーズ(アイ・ヴィー・シー/ビーム・エンタテインメント)が、思いがけない、などと言っては失礼なくらいの、すばらしい発見である。

 テレビ・シリーズとしては、アメリカの「刑事コロンボ」、イギリスの「名探偵ポワロ」(あるいは「シャーロック・ホームズ」)にならぶおもしろさだと言ってもけっして過言ではないフランスのミステリーものである。

 テレビ作品だが、「pellicules FUJI」というクレジットがあるので、ビデオではなく、フィルムで撮られたものにちがいない。

 ジョルジュ・シムノン原作の名高い犯罪ミステリー・シリーズである。
 ベルギー生まれのフランスのミステリー作家(純文学作品も多い)、ジョルジュ・シムノンのメグレ警視シリーズ(「メグレもの」とよばれる)においては、「単なる謎といったものはたいして重要ではない」とフレイドン・ホヴェイダはその著「推理小説の歴史はアルキメデスに始まる」(三輪秀彦訳、東京創元社)のなかで分析する。「彼の小説の興味は、メグレの肖像にあり、同時に種々の異なった雰囲気を生き生きと描き出すことにある。メグレは尋問とか尾行とか、その他色々の古典的な方法以外に、何よりもその犯罪が犯された環境に自分を一致させようとする。彼にはすばらしい適応能力がある。数週間の間、これといった目的もなしに被害者の身寄りの人たちと付き合う。そして彼がその環境に溶け込んでしまえば、謎は同時に解決されている。彼が動機を理解すれば、殺人犯人は発見される。」


「美術商ミスター・オーエン」 ©JOAOTUNA
 
 
 殺人事件をめぐって「誰が殺したか」より「なぜ殺したか」を問題に物語が展開するスタイルが新しい推理小説として注目されたのも、それゆえであり、メグレというパイプをくゆらせた重厚な警視の人間味のある姿が何よりもまず人気を呼んだのであった。

 「謎が持つゆたかで微妙な興味のため」にその「捜査の過程から人間のドラマを作り出す能力」がシムノンのユニークさなのだとJ・G・カウェルティはその著「冒険小説・ミステリー・ロマンス」(鈴木幸夫訳、研究社出版)において分析する。「ほとんどの古典探偵小説は、物的状況に謎を集中させる。しかし、シムノンにとって、中心的な謎は、人物の謎であり、犯罪を解決するために、メグレも読者も、容疑者の性格や彼らの犯行の原因である社会的背景について、複雑な推論をしなければならない。シムノンのミスティフィケーションは人間性の複雑さに根ざしており、彼の探偵小説は古典探偵小説の定型のさまざまな興味を高度に効果的に統一したものである。」

 こうして、人間の本性を鋭く仮借なくえぐりだしながらも人間そのものをやさしくいたわるように見つめ、いわば社会に虐げられた人々である犯人たちの代弁者になるというのがメグレの大きな魅力となって、フランスでは戦前から何度も映画化されてきた。
 
 
「サン・ファイアクル殺人事件」

1932年のジャン・ルノワール監督『十字路の夜』ではピエール・ルノワールが、1933年のジュリアン・デュヴィヴィエ監督『モンパルナスの夜』ではアリ・ボールが、そして戦後、1953年のジャン・ドラノワ監督『殺人鬼に罠をかけろ』ではジャン・ギャバンが、それぞれ風格のあるメグレ警視を演じた。テレビでもジャン・リシャールに次いでブリュノ・クレメールの「新・メグレ警視」シリーズが1992年からはじまり、全42話が放映され、これが今回日本ではDVDで発売されることになった。

 ピエール・シェンデルフェル監督『第317小隊』(1964)、コスタ=ガヴラス監督『奇襲戦隊』(1966)、イヴ・ポワッセ監督『別れのスキャット』(1969)などでは主演格のスターだった鷲鼻のブリュノ・クレメールが、パイプをくわえたメグレ警視に扮して堂々たる貫禄だ。
夜のシーンが美しく、深く暗く、じつにいいムードだ。第1話の『モンマルトルのメグレ』のクレジットタイトルに「撮影ラウル・クタール」の名を見つけて、感動とともに納得した。


「メグレと深夜の十字路」©SIPA PRESS-ARPAJOU

 かつてジャン=リュック・ゴダール監督の『勝手にしやがれ』(1959)や『小さな兵隊』(1960)のキャメラマンであったことなど言うまでもないだろう。ピエール・シェンデルフェル監督の『第317小隊』のキャメラマンでもあったから、メグレ役のブリュノ・クレメールとも旧知の仲と言っていいだろう。シリーズ第2話『メグレと口の固い証人たち』、第3話『男の首』(ジュリアン・デュヴィヴィエ監督『モンマルトルの夜』と同じ原作である)、第4話『サン・フィアクル殺人事件』(ジャン・ギャバンのメグレ警部で映画化されたことがある)、
 

「メグレたてつく」
 
第5話『パリ連続殺人事件』(これもジャン・ギャバンのメグレ警視で映画化された『殺人鬼に罠をかけろ』と同じ原作である)、第6話『メグレと首なし死体』……とここまで見たところだが、撮影も(そして監督も)変わるものの、作品のトーンや質は変わらず、どれも「ノワール」な、暗黒と悪の香りにみちていて、とてもいいムードだ。 監督にドニ・ド・ラ・パテリエールとか、ヒロイン(というか、ゲスト・スター)にマリサ・ベレンソンとかいった名前が出てくるのもぜいたくで、うれしい。これから次々に見ていくのが楽しみだ。


「新・メグレ警視シリーズ」
(全42話・各1話完結)
監督:ディディエ・ドコワンほか
出演:ブリュノ・クレメール
1991〜2001年フランス
DVD:3800円(税抜き)
アイ・ヴィー・シー/ビームエンタテインメント
※現在、14話まで発売中

http://www.ivc-tokyo.co.jp/





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