いまや、ビデオはDVD時代で、『チャップリン傑作集』から『アッバス・キアロスタミ傑作集』『カール・ドライヤー傑作集』に至るまで(いずれもパイオニアLDC)、映画ファンは気が狂いそうなDVDボックスが次々に発売されているのだが、いずれじっくりと見て(あっさりと無造作に見てしまうのはもったいないので)くわしく紹介したいと思うけれども、テープ(VHS)でしか見られない古典的名作も少なくないのである。ジョン・フォード監督の『人類の戦士』(1931)など、故淀川長治さんからいかにすばらしいものかという話のみ聞いていて、永遠に幻の名作に終わるかとあきらめていたところ、突如、ビデオで発売されたのである(ジュネス企画)。MGMミュージカルのアンソロジー『ザッツ・エンタテインメント』(ジャック・ヘイリー・ジュニア監督、1974)でフレッド・アステアと「ビギン・ザ・ビギン」を踊るエレノア・パウエルの最高のタップダンスに目がくらんで以来、なんとか彼女の映画を見られないものかと夢みていたところ、なんと、『踊るブロードウェイ』(ロイ・デル・ルース監督、1935)と『踊る不夜城』(同監督、1937)がビデオになった(いずれもジュネス企画)。

『人類の戦士』 |

『踊る不夜城』 |
映画の本は、前回もちょっとふれただけの「ワイルダーならどうする?」(キネマ旬報社)と「ルネ・クレールの謎」(ワイズ出版)についての多少の紹介をするつもりだったのだが、野上照代「天気待ち
監督・黒澤明とともに」(文藝春秋)のあまりのおもしろさに圧倒されてしまった。映画以上のおもしろさと言っても大げさではないだろう。
野上照代さんは1950年の『羅生門』から黒澤明監督の全作品(1951年の『白痴』以外の)にスクリプターとしてついた側近、右腕的存在として知られるが、黒澤監督に出会う前の経歴も興味深く、とくに「天気待ち」の第1章、「最初の師匠」伊丹万作監督との出会いはすばらしく感動的だ。その出会いは彼女にとってまさに青天の霹靂(へきれき)で、「ただ1本の映画が私の人生の方向を決定してしまった」のだと野上さんは書いている。