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プロローグ:もうひとつの『もののけ姫』
第1回 ゴダールの『映画史』
第2回 アンナ・カリーナとともに
第3回 映画と観客
第4回 美少女チャン・ツィイーに捧げた愛の詩
第5回 アニメーションの冒険
第6回 映画の宝物











 いまや、ビデオはDVD時代で、『チャップリン傑作集』から『アッバス・キアロスタミ傑作集』『カール・ドライヤー傑作集』に至るまで(いずれもパイオニアLDC)、映画ファンは気が狂いそうなDVDボックスが次々に発売されているのだが、いずれじっくりと見て(あっさりと無造作に見てしまうのはもったいないので)くわしく紹介したいと思うけれども、テープ(VHS)でしか見られない古典的名作も少なくないのである。ジョン・フォード監督の『人類の戦士』(1931)など、故淀川長治さんからいかにすばらしいものかという話のみ聞いていて、永遠に幻の名作に終わるかとあきらめていたところ、突如、ビデオで発売されたのである(ジュネス企画)。MGMミュージカルのアンソロジー『ザッツ・エンタテインメント』(ジャック・ヘイリー・ジュニア監督、1974)でフレッド・アステアと「ビギン・ザ・ビギン」を踊るエレノア・パウエルの最高のタップダンスに目がくらんで以来、なんとか彼女の映画を見られないものかと夢みていたところ、なんと、『踊るブロードウェイ』(ロイ・デル・ルース監督、1935)と『踊る不夜城』(同監督、1937)がビデオになった(いずれもジュネス企画)。



『人類の戦士』



『踊る不夜城』


 映画の本は、前回もちょっとふれただけの「ワイルダーならどうする?」(キネマ旬報社)と「ルネ・クレールの謎」(ワイズ出版)についての多少の紹介をするつもりだったのだが、野上照代「天気待ち 監督・黒澤明とともに」(文藝春秋)のあまりのおもしろさに圧倒されてしまった。映画以上のおもしろさと言っても大げさではないだろう。

 野上照代さんは1950年の『羅生門』から黒澤明監督の全作品(1951年の『白痴』以外の)にスクリプターとしてついた側近、右腕的存在として知られるが、黒澤監督に出会う前の経歴も興味深く、とくに「天気待ち」の第1章、「最初の師匠」伊丹万作監督との出会いはすばらしく感動的だ。その出会いは彼女にとってまさに青天の霹靂(へきれき)で、「ただ1本の映画が私の人生の方向を決定してしまった」のだと野上さんは書いている。

 それは伊丹万作監督の『赤西蠣太』だった。
 昭和11(1936)年の作品だが、私が見たのは昭和16年ころだったと思う。〔……〕
  雨の中を俯瞰で番傘が二つ行く。雨に濡れる竹に雀の瓦。迷い猫が逃げ込む。番傘の二人が新参者の赤面蠣太のうわさをしながら長屋へ着く。
  私は日本映画にこんなおもしろいものがあったのか、と驚嘆し、早速、京都に住む伊丹さんへファンレターを書いて送った。(P.10)

 と、ここまでわくわくしながら読み、引用したところで、もう1冊の新刊、蓮實重彦「帰ってきた映画狂人」(河出書房新社)のなかに、頭から冷水をぶっかけられるようなこんなおそろしい批評があることに思いあたる。

 伊丹万作って、いま見られるものでは面白いものはひとつもない。つい最近、有名な『国士無双』(1932)の断片を見たんですけど、全く駄目だった。なぜあんなに皆が面白いっていうのか、理解できませんでした。全く演出のできない、いいショットのひとつもない人だと思います。(P.324)
 ほかのところでも、こんなふうに断罪している。

 先日、『国士無双』の断片を見て確信したのですが、伊丹万作の映画は徹底的にシナリオライターの映画ですね。映像的にはっと息をのむ優れた瞬間はそこにはまるでない。(P.291)
 なにしろ、われらの「映画狂人」の「確信」である。
「いま見られる」伊丹万作監督の作品は数本しかないが、そのなかには、1巻欠けてはいるものの、名作『赤西蠣太』もある。

 映画は人を生かし、批評は映画を殺すものなのか。「僕は無責任ですから」とわれらの「映画狂人」は堂々と確信犯的にうそぶくのだが……。



『踊るブロードウェイ』
Broadway Melody of 1936
1935年・アメリカ映画
監督:ロイ・デル・ルース
出演:ジャック・ペニー
   エレノア・パウエル
VHS:ジュネス企画
4800円(税抜き)/発売中

『踊る不夜城』
Broadway Melody of 1938
1937年・アメリカ映画
監督:ロイ・デル・ルース
出演:ロバート・テイラー
   エレノア・パウエル
VHS:ジュネス企画
4800円(税抜き)/発売中

『人類の戦士』
Arrowsmith
1931年・アメリカ映画
監督:ジョン・フォード
出演:ロナルド・コールマン
   ヘレン・ヘイズ
VHS:ジュネス企画
4800円(税抜き)/発売中




『天気待ち 監督・黒澤明とともに』
野上照代
文藝春秋
1857円(税抜き)

 








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