フランスのリュミエール兄弟が発明したシネマトグラフ、つまり今日に至るスクリーン上映方式の映画のはじまりからトーキー到来までのヨーロッパのサイレント映画の多様な流れを「もうひとつのハリウッド」として絢爛豪華に描いたドキュメント構成の『映画の宝物
シネマヨーロッパ』(アイ・ヴィー・シー/ビームエンタテインメント)は、ビデオ(DVDで発売されたが、私の手元にあるのはVHSのテープである)ならではのすばらしい贈り物で、映画ファンにとってはまさに宝物と言っていい貴重なものだろう。
これ以上にないすばらしいサイレント映画史の研究書「The Parade's Gone Bye…」の著者として知られるイギリスの映画史家、映画考古学者、そして映画作家でもあるケヴィン・ブラウンローのコレクションと製作によるもので、
第1集「すべてのはじまり――写真が動き出す」
第2集「アートシネマの開花――知られざる北欧映画の黄金時代」
第3集「躍動し創造するキャメラ――ドイツ映画のルネサンス」
第4集「光のシンフォニー ――フランス映画の栄光」
第5集「失われた機会――“芸術的”とは侮辱する言葉」
第6集「そして映画は語り歌う――サイレント映画時代の終了」
という全6集から成る見事なフィルム・アンソロジーである。
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『映画の宝物 シネマヨーロッパ』より |
監修者の日野康一氏の解説によると、そもそもは淀川長治さんが「驚いた、ひっくり返るくらい立派なものです」と1998年にすすんでこのビデオ(DVD)の総監修を引き受け、おそらくは最後の仕事になるはずだったが、「病院で何回目かの打ち合わせが行われた日の夕方に亡くなった」ということである。
何か調べたいときにその項目を引く百科事典のようなものとして、わが座右のビデオになることはまちがいないし、これからも、ことあるごとに紹介させていただくことになるだろうけれども、「ほかのアンソロジーとは根本的に切り口がちがい、定説をくつがえす」という解説どおり、たとえばイギリス時代のアルフレッド・ヒッチコックが――とくに1926年のサイレントの名作『下宿人』が――いかにドイツ表現主義映画に影響され、その「芸術志向」がいかにイギリス映画の発展を後らせたか、といったような偏見、というよりも、おそらくはイギリスを捨ててアメリカへ去ったヒッチコックを許さないイギリス人らしい評価も面白い。イギリス出身のヒッチコックはイギリスではまったく巨匠とみなされてはいないようだ。フランス人が、とくにヌーヴェル・ヴァーグのエリック・ロメールやクロード・シャブロルやフランソワ・トリュフォーが、ヒッチコックを持ち上げすぎたという敵対意識や反感もあるのだろう。