山下敦弘監督インタビュー


山下敦弘 PROFILE 山下敦弘

76年愛知県生まれ。大阪芸術大学映像学科に入学後、同寮の先輩である熊切和嘉と出会い、『鬼畜大宴会』('97)の制作に参加。そこで知り合った同期のメンバーと制作した卒業制作『どんてん生活』('99)が国内外共に高い評価を受ける。代表作に『ばかのハコ船』('02)、『リアリズムの宿』('04)など。現在、『子猫をお願い』('01)の韓国の女優ぺ・ドゥナ主演の新作『リンダ リンダ リンダ』を撮影中




原作とオリジナル


『くりいむレモン』
9/25(土)〜テアトル新宿にてレイトショー公開

STORY
17歳の女子高生・亜美と2歳年上の大学生ヒロシは、共に両親の連れ子。そんな2人が、海外に出かけた両親の留守中に急接近。さらに、亜美が風邪で寝込んだ時に肉体関係をもってしまい、恋の情熱はエスカレートしていく。

DATA
監督・脚本/山下敦弘 製作/関正博ほか 脚本/向井康介 音楽/赤犬 出演/村石千春 水橋研二 根岸季衣 大鷹明良 勝俣幸子 三浦哲郁 細江祐子 山本浩司 '04/バイオタイド/78分/R-15

オフィシャルサイト >>
「『くりいむレモン』も、原作との距離感がよかったんだと思います」

―今回は伝説のアダルト・アニメ『くりいむレモン』を映画化ということで、初めて恋愛映画にチャレンジされましたね。そもそも恋愛映画というジャンルと『くりいむレモン』という原作のどちらが前提として(監督の話が)あったんですか

「『くりいむレモン』です。『くりいむレモン』というアダルト・アニメをやらないかというお話をいただいて。名前は知っていたんですけど、実際にアニメを観たことはなくて、すごくいやらしいというかエッチなイメージしかなかったので、最初はラブ・ストーリーだとは思わなかったんですよね。そんなエッチなものを、なんで俺にふってきたんだろう? っていう驚きがありました」

―本編は、原作とは違って極力アダルト的な要素は抑えられていたように思いました。おそらく、エッチなイメージをもっていない人が観たら誰もアダルト・アニメが原作だとは思わないような気がしますが

「もちろん、アダルト的な描写が重要だとは思ったんですけど、そこをメインにした映画にしたくないなぁというか、あまりいやらしい感じには撮りたくなかったですね。兄弟として暮らして来た男女が、普通の女子高生と大学生になっていく。家を出て親から離れていくうちに男と女になってしまうとか、そういう風に変化していく二人の感情の機微を表現出来ればと思ったんです」

Q:ご自身の『くりいむレモン』を確立して撮りたいという思いがあったのでしょうか。今までの作品を含めて、監督の意志はプロデューサーやスタッフに尊重されてきた方ですか

「プロデューサーからは“山下くんの持ち味を入れていってくれていい”と言われていましたし、結果的にはいつもそうですね。いきなりシナリオを渡されて「この通りに」というパターンではなく、前作(『リアリズムの宿』)の時も、ある程度の制約というか、原作というベースがあるにせよ、やりたいことをやらせてもらっていたので、今回もそれはすごくありがたかったですね」

―そういえば、『リアリズムの宿』に続いて『くりいむレモン』も原作のある企画ですが、原作の有無でやりにくさはありますか

「いいところも悪いところもあると思うんですけど、僕の場合は原作がないと逆に何でもできちゃうからすごく時間をかけちゃう方かなあ。今までやってきた原作ものって、僕が企画してというわけではなく、お話をいただいて撮ったものなんです」

―前作の『リアリズムの宿』は、監督のお好きなつげ義春さんの漫画が原作だったので、てっきりご自身の企画だと思っていましたが、あの作品も依頼された企画だったんですね

「そうです。だから逆に、いい距離感を保てたんだと思うんですよ。自分のやりたい原作で撮るとなると、つめていくうちに密になって限りなく時間がかかっちゃうと思うんですけど、『くりいむレモン』でも、ある程度の距離感を保てたからよかったんだと思います。僕は原作から直接影響を受けていない世代でしょう? 変な思い入れとか思い込みもなかったから、それに惑わされることもなかった」

―ご自分で企画していないとはいえ、やはり愛着のあるつげ作品を手掛けるということでプレッシャーは感じなかったんですか

「もちろん、プレッシャーはありましたよ。でも、自分がつげファンだとか考えだしたらキリがなくなってしまうから、個人的な思い入れは一切考えないようにして、勝手にガーッとやっちゃったという感じでしたね。完成してようやくつげさんにお会いできたんですが、それまでは僕にとってつげさんはあくまで本の人でしかない存在だと思って、割り切っていましたから」


はじめての恋愛映画


「笑いの要素をあまり盛り込めないところが一番不安でした」

―今回、脚本をあまり書き込まないまま現場にもっていかれたので苦労されたそうですね

「というか、スキだらけの脚本だったんです。だから撮影中にというよりは、編集の時にすごく迷っちゃったんですよね。例えば、“このシーンとこのシーンは順番を入れ替えられるな”とか。毎回僕はシナリオ通りに撮っちゃう方なので、絵コンテを割っていくんですけど、今回はスキが多くなったので絵コンテもあまり割らなかったし、そういった意味では今までとはちょっと違うやり方を求められて撮った映画でしたね」

―脚本にスキがあった分、いろんな意味でのアドリブを求めることができたんじゃないですか

「いつもはシナリオをきっちりつめて、その通りに撮っていくので基本的にアドリブはあまりないんですけど、今回はありましたよ。あせりましたね〜。クランク・イン直前になっても、脚本について向井康介に相談した時に“これは一体どういう話なんだろう?亜美は何を考えているのかな?”とか言ってたぐらいですから(笑)」

―それで結局、亜美の心情を描けたと思いますか? というか撮っている時はどうだったんでしょうか

「結局完成してからですかね、“亜美ちゃんもつらいよね”っていう気分になったのは。シナリオを書いている時は特にそうなんですけど、ヒロシの気持ちはすごくわかるんですよ。2人がどんどんダメになっていくのがわかって空まわりしちゃうっていう。亜美ちゃんの方はシナリオではよくわからないままになっていたんですけど、村石さんが演じていくうちに、そのわかんない部分がリアリティをもってきたというか。そういう部分は村石さんが雰囲気とか存在感だけで引っ張ってくれていたような気がします。だから、手探り状態の撮影っていうのもありなんだなあって、感じながら取り組んでいました」

―『くりいむレモン』ですが、山下監督のこれまでの作品の中でここまで真面目に恋愛に取り組んだ映画もなかったように思います。恋愛映画として、何かかしこまったところなどはありましたか

「そうですね。まぁ簡単に言っちゃうと今回は、今まで自分の中でメインだった笑いの要素があまり盛り込めないというところが一番不安だったんです。不安というか手ごたえがわかんなくて。いつもだったら、編集している時に、スタッフの一人が笑えば“ここは大丈夫だ”とか手ごたえがあるんですけど。そんな不安を抱えたまま手探り状態で撮っていって、完成していろんな人の意見を聞いていくなかで見えてきたのは、“俺はやっぱり笑いが好きなんだな”っていうことですね。う〜ん…この映画は僕の中では特殊というか…」

―今までの作品では表現されなかった、山下監督のロマンチックな部分が出て来たように思いますが

「ロマンチストなのは実は向井康介(脚本)の方で、今回は向井のシナリオで映画を撮ったっていう感覚が強いんですよ。僕も共同脚本で書いてはいるんですけど、特にラストのあたりは彼が書いたものでほとんど手直しもしていなくて、100パーセント僕の感覚ではないんですよね。そう考えると、今までの映画も笑いのパートが自分だったのかなあとも思います。だから後々、わかってくる部分はあると思うんですけど、今はまだこの作品が自分の中でどういう位置に来ているのかはよくわからないですね。あとはね、照れ隠しがしきれていなかったというかですね…いつもだったら笑いを入れてにごすところはあるんですけど、今回はそういう話じゃなかったし。“(自分の)まんまだよな”と思いながら撮ってましたから」

―とはいえ、“まんまだな”って思いながら撮っていらっしゃったんですから、やはり山下監督のロマンチックな一面が出ていたんじゃないですか

「いや〜そうですね。あのね、脚本を書く時に向井と二人ではずかしいネタをいっぱい出すんですよ。“こうしちゃったらいいんじゃない?”とか“こうしちゃったりして〜”とか、そんなんで一日つぶれて一行も書いていないとか(笑)。これまではあまりそういう話をやることがなかったので、まずそのネタ出しに時間がかかりましたね。例えば、亜美が勉強しにおにいちゃんの部屋に入ってくるところ。あれは自分としては、“ありえないだろ!?”っていう、めちゃめちゃはずかしいシーンなんですよ。“いや、別に妹がおにいちゃんの部屋に勉強しにきてもおかしくないよね”って言われたらそれまでなんですけど(笑)。そもそも僕の作り方って基本的に、最初からいきなりアイデアがぽんと出てくるわけじゃなくて、いろいろ出てきてからの消去法なんです。ただ、今回は消去しすぎて残ったものが異常にシンプルになってしまって。そこで“これだけストレートで大丈夫かなあ”とか。まぁ、試行錯誤で取り組んだ作品というわけです」



「スロウトレイン」に掲載の記事・写真・カット等の無断転載を禁じます。© Works m bros.