僕が女性に対して理解できない不安に思う部分は
そのままにしておこうと思いました
−今回の作品はどうしても寺島さんで撮りたかったということですが、監督が感じる寺島さんの魅力を教えてください
「一番初めに寺島さんを意識したのは、大学1年のときにみた北野武監督の『ソナチネ』('93)なんですよ。あまり喋らないチンピラの役でしたが、みんなの状況を眺めているようなところがあって、ワルだけれど根は誠実そうなところがあるって感じてたんです。で、おどけたときには妙に少年ぽかったり、純粋さを感じられたり。
勝手にそうして寺島さんに対する妄想を膨らませていったら、何となく主人公の市夫というキャラクターができつつあって。この企画を立ち上げたときには、こういう映画を寺島さんで撮りたいって言い切ってました。市夫のような情けない男を、寺島さんが演じるのはおかしいと言われたこともありましたが、その情けない役をいかにもな人がやるのではなく、寺島さんが演じれば、情けない男なりの色気が出ると思ってお願いしました」
−寺島さんの演技があまりに自然で、市夫という人物が実在しているんじゃないかと錯覚しそうになりました。ふたりで話し合ったから、もしくは、寺島さんが熱心に役作りをされたからなのでしょうか
「シナリオは同じであっても、読む側の受け取り方は様々で、僕の思う市夫像と寺島さんの思う市夫像も微妙なところで違いました。でも、僕の頭のなかで作られた市夫というのは所詮キャラクター、映画のキャラクターに過ぎないのです。それを生き生きとした人間にするには、やはり生身の人に演じてもらうのが一番いいんです。だから、僕が寺島さんを想像してつくった部分と、現場で実際に寺島さんが演じたものとがうまいことあいまった結果の市夫なのではないかと。そしてそれが思った以上に、魅力的なキャラになったのだと思っています。寺島さんは市夫のような役は初めてだと言ってて、最初はやはり照れていたみたいでしたよ」
−相手役の妙子を演じた菊池百合子さんもいい味出してましたね
「90人くらいオーディションをしたんですけど、そのなかで2次審査を行なうことになったのは、菊池さんだけでした。彼女と会うまでは、まだ妙子像をつかみかねる部分があったんですけど、会ってみてあり得るなという説得力を感じたんです」
−彼女は、たぶん男性にはわからないであろう“部分”をうまく表現していたと思いましたが
「女性はいろんな表情を持っていますし、おっしゃる通り男性が恐いと感じる得体の知れないものも持っていると思うんです。劇中では、男の人が不安に感じる女の人の仕草みたいなものを、全面的に妙子という女性に投映しています。彼女の気持ちでわかりづらいところは、その都度、菊池さんと相談して、セリフを言うときの気持ちも、菊池さんの言う方で納得できればそちらに変更するというようなことが何度もありました。そういう意味では今回、僕自身がすごく勉強させてもらった気がします(笑)」
−すごく男っぽい映画だと思うのと同時に、女性の謎めいたところをほったらかしにしているところが潔いとも思いました。例えば、女の人の行動についてわからない部分を、そのままにして物語を進めていくといった感じで。説明的ではないというか
「それはありましたね。自分が妙子になって書くというよりも、実は、僕が今までつきあってきた女性に置き換えて考えることの方が多かったんです。僕、女性を描くの苦手なんですよ。だから、仲間のなかで女性を描くのが得意なヤツに、妙子の部分を頼んで。僕が市夫を書いてそいつが妙子を書いて、ふたりが一緒にセリフの掛け合いをする部分になるところはうなずきながら、ふたりで交互に一行ずつ書き進めました。僕としてはかなり楽しいセッションでしたけど、それよりも前にこの映画を撮るのが先決でしたから、結局また最初の段階に戻って。女性に対してはっきりみせるよりも、不安感とか恐れを全面に出した作品にしようと考えました」
−男女の身勝手を、必要以上に偏らせなくするという部分に、気を使いましたか
「どちらの立場にも寄り過ぎずに、自分の過去の失恋体験をリアルに再現してみて、改めて客観的に、冷静になってみてみたという考えが僕のなかにありました。クライマックス、妙子が市夫に“帰る”と言うシーンからが特にその部分で、結局僕はそこを一番撮りたかったんですね。妙子が帰らなきゃと言って、市夫が彼女を必死に引き止める…、あそこに全てを持っていきたかった。個人的にも思い入れのある部分です」
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