2001.4.27 UPDATE






取材・文/宇都宮秀幸(編集部)
text by Hideyuki Utsunomiya


豊田利晃 Toshiaki Toyoda
1969年大阪生まれ。将棋奨励会に9歳から17歳まで所属。91年、阪本順治監督作『王手』の脚本家として映画界入り。その後、同監督の『ビリケン』('96)の脚本を手がけるほか、舞台劇の台本、劇画の原作など幅広い分野で活躍。98年『ポルノスター』で監督デビュー。日本映画監督協会新人賞などの賞を獲得する。
 
 かつて“アンチェイン梶”という無名のボクサーがいた。レイ・チャールズの名曲からリングネームをとったこの男、ボクサーとしては一度も勝てないままリングを降りたが、アンチェイン=鎖を解き放て!の言葉通り、引退後も奔放な人生を歩むこととなる。大阪・釜ヶ崎になんでも屋を開店、バンドを結成、酒を飲んでの奇行、そしてついには精神に異常をきたし、釜ヶ崎労働者センター(あいりんセンター)に凶器を持って殴りこんだ末、精神病院送りに…。

 そんな映画のような人生を送るアンチェイン梶を中心に、奇妙な縁で結ばれた格闘家たちがいる。ガルーダ・テツ(キックボクシング)、永石磨(ボクシング)、西林誠一郎(シュートボクシング)。いずれも風変わりな彼らを5年の長期に渡って追ったドキュメンタリーが映画『アンチェイン』だ。

 監督デビュー作『ポルノスター』で容赦ない暴力を詩的なタッチで描き脚光を浴びた豊田利晃は、なぜ彼らに夢中になっていったのか? 単なるスポーツ・ドキュメントなどという言葉では形容できない、熱くて、おかしくて、泣ける映画を作りあげた豊田監督に話を聞いた。



  男はやっぱりかっこよくないと面白くない。
特殊な状況にいる男ほどかっこいいですから


―制作にいたる経緯から順を追ってお聞きしたいのですが、資料によると5年ほど前から撮影は始めていたそうですね。

 5年くらい前に、友達に連れられてガルーダ・テツの試合を観たんですけど、「これは面白い」と思って。それでガルーダからアンチェイン梶と西林(誠一郎)、永石(磨)の話を聞いて「あ、これはもう映画になるな」と思って、すぐに彼らに会いに行って撮らせてもらったんです。

 実は偶然なんですけど、それより前に“釜ヶ崎の暴動”の脚本とボクシングものの脚本を書いているんですよ。これは完全にフィクションで、映画化には至りませんでしたけど。で、ガルーダや梶と出会って、「自分が脚本で書いていたような話が向こうから来たなあ」「これはもう何かあるなあ」と思って、それでやろうと決めたんです。

 もうひとつは、ガルーダの所属している団体ってすごくマイナーな団体なんですよ。そのせいか結構何でも自由にやらせてくれて、セコンドのいる場所をひとつ空けてもらって、そこから撮影できたんです。選手から一番近い場所で。そういう撮影のやり方ができるということもすごく魅力的だった。

 

アンチェイン梶
 
―そうすると『ポルノスター』(2000)の前から撮影は始まっていたんですね。

 そうです。『ビリケン』('96/豊田監督は脚本を担当)の辺りですね。

―撮影を始めた時点では「映画になる」というアテがはっきりあったわけではない?

 アテがあったわけではないです。アンチェイン梶はすでに精神病院から出ていましたけど、まだ会話ができる状態ではなかったし。まあ、そのうち治るだろうと梶は置いておいて(笑)、現役で続行中のガルーダ、永石、西林の試合を中心に撮影していた感じです。だから試合の映像は映画に出てくるよりも、実際はもっといっぱい撮っているんです。

―映画を観るまでは、いわゆる“スポーツ・ドキュメント”的な作品かと思っていましたが、これは違いますよね。むしろ“人間観察記”というか、ボクシングやキックという競技そのものに焦点はない…。

 そうですね。そういう意味では特殊な映画じゃないですかね。アンチェイン梶という人もボクサーとして特別に才能があったわけではないので…。それよりリングネームをアンチェインと付けたこととか、ある種の奇行だったり、そういうパフォーマンスが面白い人だったと思うんですよ。ガルーダ、西林、永石にしても連戦連勝しているわけではなく、むしろ弱いんですが、異色というかそれぞれ面白い選手だと思います。ただ僕が映画の題材に選ぶとしたら、アンチェイン梶だなと思ったんで。

―『ポルノスター』のような劇映画と比べて、今回のようなドキュメンタリーでは、作品に対する姿勢はやはり違いますか?

 『アンチェイン』は撮っていてドキュメンタリーという気がしなかったんですね、僕は。ダビングも日活の柿澤(潔)さんという映画畑の人がいて、「劇映画みたいな音を付けてください」と言って付けてもらったんです。だから観た後もドキュメンタリーとかではなく「映画観たな」っていう印象になればいいと思う。

―僕はそういう印象を受けました。よくTVでやっているドキュメンタリーものとは感触が全然違いました。

 
 
 普通のドキュメンタリーってジャーナリズムだと思うんですよ。「ボクシングとは何か?」とか「チャンピオンになれたやつと、なれなかったやつの違いは何なのか?」とか、そういう所に焦点がいくんですけど、この映画は“物語”に焦点がいっているんで。

 だから、映画的興奮みたいなものが感じられるシーンしか残してません。僕はとにかく「映画だ」と思って作ったんで。今後もこういう形の映画はあるかなとは思ってます。もっとも、題材が向こうから来るかどうかですよね。一応考えたりはしていて、例えば戦場カメラマンなんかどうかなあ、とか…。

―やはり特殊な状況にいる人に興味がいくんですかね?


 そうですね。僕自身が普通の人間だし、特殊な生活をしているわけじゃないんで。逆にモノを作る題材にするんだったら、そういう人がいいですね。あと、やっぱり男はかっこいい男じゃないと面白くないんで。特殊な状況にいる男はかっこいいですからね。

 


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