2008年05月09日
『ひぐらしのなく頃に』 TEXT by 廣田恵介
同人ゲームでありながら口コミで人気を集め、ついにはテレビアニメ化までされた異色ミステリー作品の実写映画化である。今回の映画化に関しては、ファンの一部が「反対運動」を起こした。原作ゲームのキャラクター・デザインは第一印象の違和感が強烈である分、思い入れも強くなる。あのキャラを生身の俳優に演じられるのか、という危惧なら分からなくもない。
が、キャストは結構がんばっている。主演の前田公貴、松山愛里は映画初出演。特に、ストーリーの途中から性格の豹変する難しい役どころを、松山は堂々と演じきっている。映画全体もメリハリが効いている。怖がらせるシーンでは思い切って照明を変え、部屋の中でも“もや”を発生させるなど、及川中監督の演出はホラーの基本に忠実だ。昭和50年代の怪しげな僻村の雰囲気もベタといえばベタなのだが、中途半端にリアリズムを追求するより、むしろすっきりする。その割り切りは賢明だし、原作のイメージを裏切るものでは決してない。
つまり、及川監督はいい仕事をしたのである。実写化反対派の皆さんには、キャラが似ている・似ていないなどという次元ではなく、プロの映画監督の仕事っぷりを見て欲しい。
(関連リンク)
『ひぐらしのなく頃に』公式サイト
http://www.higurashi-movie.com/
※5月10日(土)より池袋シネマサンシャインほかにて全国公開
『オヤシロさまドットコム』
http://www.oyashirosama.com/web/
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2008年05月01日
『図書館戦争』 TEXT by 廣田恵介
フジテレビの深夜アニメ枠「ノイタミナ」も3年目。『図書館戦争』は11本目にして、初の小説原作作品だ。アニメが過剰供給されている現状、3年という月日が長いのか短いのかと問われると、ちょっと戸惑う。ともあれ、今回はちょっとミリタリー風味のラブコメ物で、OL狙いの「ノイタミナ」としては堅実なつくり。
ただ、政府と交戦状態にあるはずの「図書隊」の設定はナレーションですまされ、あまり頭に入ってこなかった。レイ・ブラッドベリの『華氏451』に、似ている気もする。だが、「図書隊」は本屋の店頭で小競り合いをする程度。第一話で、子供の買おうとしていた絵本を政府軍が取り上げようとしていたが、あの絵本のどこらへんが有害図書なのか。おそらく、そのへんは意図的に、のらりくらりと交わしていくのだろう。
『図書館戦争』の原作小説は女性に人気が高い。ライトノベルの取材をしていて分かったが、女性は本読みである。図書館、ドジで健気な主人公、厳しいけど陰では優しい教官……男性ファンなら、女性専用車両に乗り合わせてしまったような疎外感・気恥ずかしさを感じること請け合いだ。
(関連リンク)
『図書館戦争』公式サイト
http://www.toshokan-sensou.com/
『有川浩』(Wikipedia)※原作者
http://ja.wikipedia.org/wiki/%E6%9C%89%E5%B7%9D%E6%B5%A9
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2008年04月24日
『ブラスレイター』 TEXT by 廣田恵介
登場するのはオッサン、モンスター、時々美女。一応、レギュラーメンバーに美少女キャラはいるものの、いわゆる萌えな演出は皆無。完全オッサン仕様、今のアニメのトレンドを無視した姿勢があっぱれな新番組だ。美少女ゲームのニトロプラスが原作に加わっているからといって、安易なエロ要素を期待すると一本背負いをくらう。
そもそも、主人公の名前がゲルト。ドイツ人だ(ちゃんと国籍の分かるキャラクターデザインになっているところが、また良い)。舞台も、どうやらドイツらしい。融合体と呼ばれるモンスターが出現するが、このデザイン・テイストが日本人離れしている。ちょっと古いたとえで恐縮だが、『スポーン』風。ヒーローも登場するが、こちらもバイオレンスなイメージだ。これらのヒーロー、モンスター、対モンスター組織のスーツなどは3DCGで描画されている。そこも含めて、いかにも海外受けしそうだし、中高校生をターゲットの中心にすえた「日本的な」アニメに辟易している向きには、ぜひオススメしたい作品だ。
監督は板野一郎で、ほんのわずかではあるが、ミサイル乱舞の「板野サーカス」もあり! 冒頭、しつこいまでにバイク・アクションを見せ続けるのも板野監督らしくて、楽しい。
(関連リンク)
『ブラスレイター』公式サイト
http://www.blassreiter.com/
『板野サーカス』(はてなダイアリー)
http://d.hatena.ne.jp/keyword/%C8%C4%CC%EE%A5%B5%A1%BC%A5%AB%A5%B9
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2008年04月22日
『パークアンドラブホテル』 TEXT by 水上賢治
すでに新聞各紙でも報じられたように本作は今年のベルリン国際映画祭最優秀新人作品賞を受賞した熊坂出監督の長編デビュー作。よく言われることではあるが、海外映画祭で賞を獲ったからといって作品が傑作かどうかは別。また逆もしかりで、どんなに傑作映画であっても賞を獲るとは限らない。でも、この作品の熊坂監督は賞を獲るに値するすばらしい才能の持ち主。長編第1作とは思えない新人離れした、紛れもない“映画”を我々に見せつけ、体感させる。

(C)PFFパートナーズ
ありきたりな映画タイトルが氾濫する昨今、題名からしてすでに熊坂監督は高いセンスを感じさせる。訳すまでもなくタイトルは“公園とラブホテル”。なんともつかみどころがないが興味をそそるタイトルだが、種を明かすと屋上を公園として一般人に開放しているラブホテル(ほんとは連れ込み宿といったほうがしっくりくる)が舞台。すべり台もブランコも親切にあるこの異色のホテルを切り盛りする50代とおぼしき女性オーナーと、ここへ吸い込まれるように足を踏み入れた10代、20代、30代の女性の袖の触れあいと心象風景が描かれる。
その中で個人的に思わず脱帽したのが、熊坂監督のもつ時間の感覚とそれの映像への置き換え方。例えば、人間は明るいところで電気を一気に消すと、一瞬真っ暗になってだんだん目がなれて周囲がぼんやりと見えてくる。熊坂監督は、こういったことを見事に映像で表現しきる。もしかしたら別にこだわらなくてもいい箇所かもしれない。でも一番無駄と思われるところに、こだわってこそ映画。それを踏まえると、この作品はとてつもなく豊潤な映画体験をさせてくれる。こういったリアルな情景作りをする監督はそうそういない。そういえば受賞緊急記者会見に出席したとき、出演者が熊坂監督から「リアルに」と常に忠告されたと語っていた。
また、もう1点感心させられたのが物語。様々な世代の女性が登場するのだが、実に彼女たちの心情が克明に描き出される。正直、物語だけで見たら男の監督が撮ったとは思えない。すでに結婚されているとのことだが、熊坂監督は女性マイスターかも。そんなことを思わせるほど、この作品は正真正銘の女性映画でもある。それだけに、“学ぶこと多し”ということで、もしかしたら男性諸君こそ必見かも。
(関連サイト)
『パークアンドラブホテル』公式サイト
http://www.pia.co.jp/pff/park/
※4月26日(土)よりユーロスペースにてロードショー
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2008年04月21日
『ドルアーガの塔 the Aegis of URUK』 TEXT by 廣田恵介
「どうやって、視聴者に親近感を抱いてもらうか?」
大衆娯楽であるテレビアニメには不可欠のテーマだ。『ドルアーガ』はお馴染みの剣と魔法の世界で、見たことのないものは、まずひとつも出てこない。主人公たちが最初からパーティを組んでいることに首を傾げる視聴者もいないだろう。クエスチョンマークを徹底的に潰していくつくり方だ。
ただ、地上波放映版とネット配信版で内容がまったく異なるのには、少々面食らう。原作であるゲームにも「裏ドルアーガ」があったが、アニメ版にも「表第一話」と「裏第一話」があるのだ。地上波版が「表」で、冒険物の王道パターンのパロディのみで成立している。GyaOで配信されたものが「裏」で、こちらは(かなり明るいタッチではあるが)シリアス。絵コンテも、千明孝一監督自らが書いている。つまり「表」がフェイクで、「裏」が本命ということだろう。「視聴者に親近感を抱いてもらう」作戦としては、誰にでも分かるパロディを連発した「表」は、意外に正解だったのかも知れない。
だが、『ブレイブ ストーリー』の千明孝一監督のリターン・マッチとしては、少々パンチ力が不足気味。第二話以降に期待したい。
(関連リンク)
『ドルアーガの塔 the Aegis of URUK』公式サイト
http://druaga-anime.com/
『ドルアーガの塔』(Wikipedia)
http://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%83%89%E3%83%AB%E3%82%A2%E3%83%BC%E3%82%AC%E3%81%AE%E5%A1%94
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2008年04月15日
『ねこのひげ』 TEXT by 水上賢治
この映画のチラシには“日本のバイプレーヤーが集結し、作り上げた大人の恋愛映画”と書かれている。そこでキャストに目を通してみると、なるほど納得。日本映画及びTVドラマ、舞台で、(こう言っては失礼に当たるが)名前は知らなくとも顔はきっと見たことのある顔がずらりと並ぶ。映画は、そんな日本映画を縁の下の力持ちで支える役者たちへの愛でいっぱい。内容はちょっとシリアスなのだけれど、なぜか終始微笑みながら観てしまった。

(C)ねこのひげ製作委員会
監督を務めた矢城潤一は、8年前に自己資金で製作した『ある探偵の憂鬱』を発表。この作品は、ある人物の調査を始めた探偵が迷宮の世界へ入り込む物語で、その夢と現実の狭間にいる人間の感覚を体現させるような描写に見入ったことを覚えている。ここではその的確な手腕は役者たちの持ち味を引き出すことに徹底された印象。映画の住人になりきった役者たちの姿を的確なアングルで収めて、そのシーンの積み重ねで物語を紡いでいく。この映画に流れている時間が、おそらく大抵の人はとても身近で親密に感じるはず。それは、題材がうんぬんというより、この映画に漂う空気感が、たぶん一般の人々たちが過ごしているごくごく日常となんら変わりないから。“リアル・ドラマ”とか“リアルな演技”とは、もしかしたらこの映画のような形のことこそ、いえるのかもしれない。
それにしても役者陣の演技がすばらしい。『愛の予感』の渡辺真起子、本作で脚本、企画、製作も兼ねている大城英司、仁科貴、螢雪次朗などなど、いずれもバイプレーヤーで鳴らす面々。彼らに共通して言えるのは、どんな作品でも端役でも手抜きがない。いつ見ても、きっちりとした仕事を見せてくれる。本作は、そんな彼らの仕事をクローズアップした作品でもある。こういう日本映画がもっと多く登場していい。
(関連リンク)
『ねこのひげ』公式サイト
http://necohige.com/
※4月19日(土)より渋谷・シアター・イメージフォーラムにてレイトショー
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2008年04月08日
『マクロスF』 TEXT by 廣田恵介
第一作から25年、テレビシリーズとしては14年ぶりの『マクロス』である。変形メカ、歌、三角関係……と『マクロス』シリーズのパターンを踏襲しつつ、明るく軽い作風となった。第一話は、年末の特番で放映された先行特別編より、やや短いバージョン。言うなれば、正規放映版といったところだ。
ところが、「どうせ特別編のダイジェストだろう」と高をくくっていると、追加シーンの多さに驚かされる。適切なシーン展開で、主人公の早乙女アルトと、ヒロインのシェリル・ノームの関係性がはっきりした。両者の性格描写も、ぐっと掘り下げられた。今後アルトとシェリルの関係がどう変化していくのか、ちゃんと興味を抱かせる構成になっている(逆を言えば、特別編はそこがまったくの手落ちだったとも言える)。
25年前の初代『マクロス』は、第一話と第二話を日曜日の昼間に一挙放映するというイベント性豊かなスタートを切った。第一話が2バージョンある今回の『マクロスF』も、お祭り色はたっぷり。CMの直前、劇中の中華料理店の偽CMが放映されるなど、細かな遊びが随所に見られる。坂本真綾の歌う主題歌もキャッチーだ。
(関連サイト)
『マクロスF』公式サイト
http://www.macrossf.com/
『マクロス』公式サイト
http://www.macross.co.jp/
『坂本真綾』公式サイト
http://www.jvcmusic.co.jp/maaya/
『May'n』公式サイト(ヒロイン、シェリル・ノームの歌担当)
http://mayn.horipro.jp/top/
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2008年04月07日
『うた魂♪』 TEXT by 水上賢治
日本映画界では、ここ数年、必ずといっていいほど何かに熱中する若者たちの姿を描いた青春映画が登場している。もはや定番といっていいかもしれない。おそらくきっかけとなったのは、2001年の『ウォーターボーイズ』の成功だろう。でも、こう同じタイプの映画が多くなればなるほど、食傷気味になるのは確か。そこに向けられる目は年を追うごとに厳しくなっている気もする。ただ、本作はその厳しい目を持ってしても、大きな感動に包まれる好編だ。

(C)2008「うた魂♪」製作委員会
映画は自分の歌声とルックスに自信ありのソプラノパートリーダーの女子高生が、ある日、歌っている表情の滑稽さに愕然。恥ずかしくて歌えなくなった彼女が、他校のヤンキー学生の指摘や合唱部の仲間たちの支えで本当の歌のすばらしさを知り、大きな成長を遂げていく。このように映画の題材として取り上げられるのは“合唱”だ。
おそらく大方の人が幼稚園や保育園のお遊戯、小中高の音楽の授業なり、学園祭なりで、合唱部に所属せずともどこかで一度は“合唱”を経験しているのではないだろうか? 今考えると歌が下手だろうと人前に立つのが苦手だろうと誰もが否応なしに体験したように思う。そう考えると日本人にとって“合唱”は、もしかしたら一番ポピュラーな音楽の原体験といえるかもしれない。この映画は、まさにこの“原体験”を呼び起こし、妙な気恥ずかしさで胸にざわめきを覚える。
これを可能にしたのは“合唱”にほかならない。とにかく劇中で随所に登場する合唱シーンがありきたりだが“すばらしい”のひと言なのだ。それはなぜなら歌っている全員が本気で歌っているから。主演の夏帆もほかのメンバーも演技うんぬんというより、心をひとつに歌うことに集中していてほとんど素ともいえるぐらい。これが正しい表現かわからないが、“もう見た目がうんぬん関係なく、変な顔でOK!”と顔をくしゃくしゃにしながら歌っている。この合唱部の団結力を見るだけでも価値あり。手掛けた田中誠監督は『タナカヒロシのすべて』『雨の町』『おばちゃんチップス』とジャンルの違う作品を発表してきたが、正直なところこのタイプの映画ははじめどうかと思った。これだけの大所帯をまとめるのは大変だったと思うが、ここでの掌握力は見事。次回がどんな作品を見せてくれるのか楽しみになった。
(関連サイト)
『うた魂♪』公式サイト
http://www.utatama.com/
※シネクイントほかにて全国公開中
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2008年04月03日
『ガンパレード・マーチ 新たなる行軍歌』 TEXT by 廣田恵介
2000年に発売された『高機動幻想ガンパレード・マーチ』は異色のシミュレーション・ゲームだった。キャラクターがむやみに多く、プレイヤーの選択肢が画期的に広いため、誰とどういう関係になるか予測がつかない。自由度が高すぎて、やりようにしては恋愛シミュレーションにも戦闘シミュレーションにもなり得てしまう。さて、2003年放映のアニメ版はこの厄介なゲームをどう全12話に構成したのか。
シリーズ構成は、『機動戦士ガンダム0080 ポケットの中の戦争』を監督した高山文彦。最近では劇場アニメ『ストレンヂア 無皇刃譚』の脚本で知られる奇才だ。第一話は全編がハードな戦闘シーンで、度肝を抜かれる。さてはゲームの硬派と軟派のうち“硬”を選択したな、という読みは第二話以降の展開で見事に外される。ラストは主人公がヒロインに告白、というラブコメ路線で幕となる。
原作ゲームは『新世紀エヴァンゲリオン』の影響を如実に反映した舞台設定だったが、アニメは『エヴァ』的になることを避け、等身大の恋愛ドラマに(やや強引に)落ち着けた感がある。第一話の戦闘シーンは、何度見ても緊張感あふれる見事な出来ばえだ。
(関連サイト)
『ガンパレード・マーチ』DVD-BOX
http://db.geneon-ent.co.jp/search_new/show_detail.php?softid=GNBA-5073
『ガンパレード・マーチ 新たなる行軍歌』公式サイト
http://www.jcstaff.co.jp/sho-sai/gpm-shokai/gpm-index.htm
『高機動幻想ガンパレード・マーチ』公式サイト(ゲーム)
http://www.alfasystem.net/game/gp/
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2008年04月02日
『カクトウ便Vol.1~3』 TEXT by 水上賢治
小阪由佳、木口亜矢、次原かな。グラビアタレントに詳しい人ならば、本作は主演におなじみの顔がならんでいるに違いない。でも、単なるアイドル映画と侮るなかれ! 全面に出されているチラシや場面スチールからは想像もできないかもしれないが、本作は男臭さがプンプン漂うバリバリのアクション映画なのだ。

(C)カクトウ便製作委員会
Vol.1~3の3本いずれもが、わけありの荷物を必ず時間通りに相手先にきっちりと届ける裏の運び屋が、行く手を阻む悪の集団とバトルを繰り広げる設定。お決まりのようにバイオレンスあり、お色気シーンあり、ラブ・ストーリーありと、全体像はごった煮感覚のエンタメ・ムービーに徹している。だが、その核をなすのはあくまでアクション。しかもある意味、基本といえるストリートでのアクションだ。このアクション演出をすべて担当したのは、香港と日本の映画界を往来して活躍するアクション監督、谷垣健治。以前『ペルソナ』のレビューでも触れたが、やはり彼の手にかかるとアクション・シーンが俄然、熱を帯びる。何でも彼曰く今回は「アクション尽くしにしたかった」とのこと。そこで今の自分の思い描くアクションを可能にすべく、気心の知れた信頼の置ける、もちろんポテンシャルも高いアクション俳優をメインキャストに抜擢。その彼らの生身の肉体を最大の武器にしたアクションは躍動感あふれ、思わず体に力が入る。
撮影は無謀にも3本ほぼ同時進行で敢行したゲリラ撮影の連続だったようで、「即興に近い形で生まれたアクション・シーンもある」のだとか。なので“えっ、こんなところでバトルして大丈夫?”というようなアクション・シーンもちらほら見受けられる。先日、話を聞いた際に確認したが、彼にとって“アクション監督”とは、カメラ位置から撮影方法までそのシーンすべての演出を含む。つまり、この映画のアクション・シーンはすべて彼の構想でなりたっている。その緻密にして自由なアクションを体感してほしい。
(関連サイト)
『カクトウ便』公式サイト
http://kakutoubin.com/
※池袋シネマロサにてレイトショー公開中。『カクトウ便Vol.1 Battle Run XX』『カクトウ便Vol.2 VS謎の恐怖集団人肉宴会』『カクトウ便Vol.3 そして、世界の終わり』を日替わり上映
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2008年03月31日
『カンフーくん』 TEXT by 廣田恵介
タイトルどおりの映画である。中国人の少年がカンフーを駆使して悪と戦う、キッズ・ムービーだ。だが、アニメ・ファン的には、脚本の大地丙太郎に注目したい。『おじゃる丸』などで有名な、あの大地監督である。宿命の対決とコミカルな学園生活の両立という意味では、『十兵衛ちゃん』シリーズに雰囲気は近い。

(C)2007 映画「カンフーくん」製作委員会
少林寺で武術を学んでいたカンフーくんは、最後の敵を倒すため、師匠に日本へ送られる。たまたま転がり込んだラーメン屋の娘・レイコに「弟」として認められたカンフーくんは……と、これは『ドラえもん』や『ケロロ軍曹』のような「日常世界への珍キャラクター闖入モノ」の典型だ。レイコのクラスメートらがセンス良くキャラ立ちしているため、キッズ・ムービーといっても飽きることはない。無理やり小学六年生を演じる矢口真里が、クライマックスでまさかの変身を遂げるのも楽しい(つい見逃してしまったのだが、上野樹里もチョイ役で出演)。
ラストでは『十兵衛ちゃん』よろしく、父娘の復縁も描かれる。ただ、はっちゃけたギャグ・センスとありきたりな物語に、やや齟齬を感じる。とりあえずVFXが好きでカンフーが好きで大地監督のファンなら、観て損はない。
(関連サイト)
『カンフーくん』
http://www.kung-fukun.jp/
※新宿ガーデンシネマほかにて公開中
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2008年03月28日
『接吻』 TEXT by 水上賢治
昨年末に行われた東京フィルメックスでこの作品を観たとき、言葉でいい難い衝撃を受けた。そして今年に入ってプレビューで今一度観たとき、その衝撃は薄らぐどころかさらに高まった。あくまで私的な意見に過ぎないが今年の日本映画を語るとき、必ず壇上に上がらなくてはならない1本。“衝撃作”という触れ込みにふさわしい久々の“衝撃作”だ。

調子のいい同僚から仕事を押し付けられるといった、周囲からいいように使われるタイプのOLが、無差別殺人犯にシンパシーを感じ、それはやがて恋愛感情へと変わっていく。もちろん、この大胆な設定のストーリーもひとつの衝撃。だが、個人的にはなによりも映画の緻密さに驚かされた。物語、映像、設定、展開など、とにかくこの映画を構成しているものすべてに無駄が一切ないのだ。“無駄”とすると語弊があるかもしれない。なんといえばいいか。そう、それこそ役者のちょっとしたしぐさや背景にまでしっかりと意味や定義づけがされている。なので、瞬きすることも許されないとまではいわないが、一瞬たりとも油断することは許されない。それほど、緻密に考え抜かれた映像と言葉がワンシーンに克明に刻まれているのだ。
あまり詳しく書くと映画の楽しみが減るので大雑把に触れるが、小池栄子が演じる主人公の京子は、部屋に入るとき、きっちりと同じ行動をする。何の気なしに観るとごくありふれた行動なのだが、これは彼女の性格を決定づける象徴。万田邦敏監督はこういった仕事を細部に渡って怠っていない。よって、この仕事を目にした受け手は、しらずしらずのうちに登場人物の性格や心境を脳裏に刷り込まれている。言葉だけで語られたとき、おそらく京子という人物はほとんどの人が“モンスター”と受け止めることだろう。だが、実際、彼女を目にしたとき、大半は人間離れした虚構の人物と思わないはず。なぜなら、物語を追う中で彼女の心境が痛いほど手にとるようにわかるから。きっと彼女を自分たちと大差ない血の通った人間として感じるに違いない。
だが、これだけ繊細な人物描写とストーリーテリングを施しておいて、万田監督がラストに用意する主題の“接吻”は、良い意味でその緻密さを台無しにする。こちらを嘲笑うかのようにぶっこわす。この衝撃は計り知れない。
もうひとつ触れておきたいのは、この映画は濃密な一対一の会話劇でもあること。この会話で交わされる言葉にも無駄が一切ない。鋭利な刃物のように研ぎ澄まされたセリフが俳優たちの口から魂を得た肉声となって、こちらへ放たれる。言葉によっては痛い。グサグサと否応なしに胸に突き刺さってくる。これほど選ばれた言葉がならべられたドラマも近年稀といっていい。
(関連サイト)
『接吻』公式サイト
http://www.seppun-movie.com/
※ユーロスペースにて公開中。全国順次ロードショー
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2008年03月27日
『炎神戦隊ゴーオンジャー』 TEXT by 廣田恵介
東映のスーパー戦隊シリーズ第32作目。今回のテーマは「車」である。冒頭、「マシンワールド」なる異世界で、意志を持った車「炎神(エンジン)」たちが言葉を話しながら走り回るシーンに、まずは思考停止。まるで幼児の落書きをそのまま特撮で表現したような世界観に、朝からクラクラさせられる。
もともと、戦隊シリーズは『仮面ライダー』より対象年齢が低い。そのため、幼児とタメを張れるぐらいの「幼稚な」発想力が必要とされる。その点、少しだけ『カーズ』を思わせる「炎神」たちの傍若無人なビジュアルは合格点。また、敵側であるガイアークの工場風アジトも素晴らしい。フリッツ・ラングの『メトロポリス』、あるいはデビット・リンチの『砂の惑星』のような禍々しいフェティシズムに溢れている。
ストーリーは、拍子抜けするほど単純。それでも、手足に車輪をつけたゴーオンジャーたちが地面を疾走しながら敵をなぎ倒す、やぶれかぶれのアクションは凄い。どんなに巨費を投じた大作映画でも、こうも自由奔放な映像づくりは出来ないだろう。ガイアークの女幹部は、なんと及川奈央が演じている。排気パイプやバルブのついた無骨なコスチュームがユニークだ。
(関連サイト)
『炎神戦隊ゴーオンジャー』
http://www.tv-asahi.co.jp/go-on/
『及川奈央』
http://www.oikawanao.jp/
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2008年03月26日
『実録・連合赤軍 あさま山荘への道程』 TEXT by 水上賢治
1963年にデビューを果たし、キャリアが45年を超えた若松孝二監督。これまで社会に波紋を呼ぶ、気骨のある作品を数多く発表してきた同監督だが、本作を見るとその反骨精神は年を重ねて丸くなるどころか、逆にさらに反発して加速している気さえしてくる。

(C)若松プロダクション
今回、若松監督が題材に選んだのは“連合赤軍”。本人が「どこかで1度は向き合わなくてはならなかった」と言い切っており、念願の1作といっていい。映画はそんな監督の熱き想いが乗り移ったかのよう。全編に並々ならぬ異様な熱気が充満している。
連合赤軍の引き起こした事件及びあさま山荘事件は、昭和史をたどる報道特集番組などで今の若い世代も1度は目にしていることだろう。だが、年を経るにつれて、残念ながら山中で起きたリンチ殺人事件や、赤軍メンバーと警察隊が激しい攻防を繰り広げ、あさま山荘に鉄球が打ちつけられるシーンのみに集約。そこへ至った経緯がすっぽり抜けて、連合赤軍=悪の図式でしか語られなくなっている気がすww.wる。その中で若松監督は、連合赤軍誕生からあさま山荘事件へと至る過程を丹念に描出。なぜ若者たちは革命戦士を名乗り、社会をかえようとしたのか? なぜ彼らは同志を殺す境地に至ったのか?
当時の日本の状況と、若者たちの心情の変化に目を向ける。しかも若松監督は連合赤軍の主要メンバー、坂東國男から当時の話を聞いており、彼から伝え聞いた話も反映。これだけの大事件にも関わらず国家権力側からの視点だけで語られつつある事件の真相と全貌をきっちりと映し出す。まさにタイトルにも入れられた“実録”という言葉にふさわしく、全編、当時の時代の空気と臭いが立ちこめているかのよう。当時を知らない自分であるが、まるで事件の目撃者になったかのような錯覚を覚えた。
もうひとつ加えておきたいのは役者たちの演技。有名無名の役者が登場するが、各人ともに迫真とはこのことと思えるぐらいの演技を見せてくれる。中でも目を奪われたのが、ARATA。これほど研ぎ澄まされた彼に出逢ったことはこれまでにない。
(関連サイト)
『実録・連合赤軍 あさま山荘への道程』公式サイト
http://wakamatsukoji.org/
※テアトル新宿ほかにて公開中。全国順次ロードショー
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2008年03月21日
『Mnemosyne -ムネモシュネの娘たち』 TEXT by 廣田恵介
アニメ専門チャンネル「AT-X」開局十周年記念番組で、1時間枠×6本、月一回放映という近年では珍しい放映形式だ。主演声優は能登麻美子で、これまでの気弱ではかなげなキャラクターのイメージから一変、ドスの効いた声でセックスとバイオレンスの世界に挑む。
物語の設定は1990年の新宿。“何でも屋さん”を自称する麻生祇 燐の事務所に、記憶を失った青年が迷い込む。彼の命を狙う組織を追ううち、燐はサディストの女科学者と対決することに……と、道具立ては少し昔のバイオレンス小説風。特に、燐の拷問シーンが凄まじい。流血あり裸あり、“お子様お断り”なのだ(視聴は年齢制限付き)。
アニメは、世間からちょっと眉をしかめられるぐらい、奔放であるべき。たとえ非難の声が上がろうとも、こうと決めたら我が道を行って欲しい。やや猫背で猥雑な新宿の裏通りを闊歩し、凶器の使用も惜しまないヒロインが気持ちいい。今はなき喫茶店「滝沢」が登場するなど、小技も効いている。クールなカット割と丁寧な作画にも好感が持てる。
(関連サイト)
『Mnemosyne -ムネモシュネの娘たち』
http://www.rin-asougi.com/
『能登麻美子 - Wikipedia』
http://ja.wikipedia.org/wiki/%E8%83%BD%E7%99%BB%E9%BA%BB%E7%BE%8E%E5%AD%90
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2008年03月18日
『BUS GAMER』 TEXT by 廣田恵介
U局放映のアニメは増えたが、なんとこの『BUS GAMER』は全3話しかない。原作は10年近くも各誌を渡り歩きながら連載をつづけ、いまだ未完結。つまり、今回のアニメ化はファンサービスと考えた方が理解しやすい。
主役は若い男性ばかり3人。彼らはそれぞれに黒い封書のダイレクト・メールを受け取り、金欲しさから生死をいとわないゲームに参加する。設定はハードボイルドだが、ぷんぷん漂うBLの香り。キャラに感情移入できないと、ストーリーに入り込むのは困難だ。他に見るべきところはないのか?と見回せば、目に入るのは生活感あふれるディテール。
例えば、キャラクターの一人が指にはめている指輪、机の上に雑然と置かれたカップ麺、灰皿に突っ込まれた吸殻、煙草や缶ビールのパッケージ。もっと言うなら、主役3人が偶然居合わせるラーメン屋の暖簾、店内のメニュー書き……こうした細部へのこだわりは昨今のアニメのトレンドとも言える。
そうした絵づくりの丁寧さも含めて、'80年代のOVAのような“一見さんお断り”の雰囲気が懐かしい。
(関連サイト)
『BUS GAMER』公式サイト
http://www.fwinc.co.jp/busgamer/
『峰倉かずや』公式サイト
http://www.minekura.com/
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2008年03月13日
『パンダコパンダ』 TEXT by 廣田恵介
公式サイトにも書かれているが、この作品を楽しむには、制作された1972年に起きた裏事情を知っていた方がいい。もともと、宮崎駿(本作では原案・脚本・画面設定)、高畑勲(演出)、小田部羊一(作画監督)の三人が東京ムービーに集められたのは、『長くつ下のピッピ』アニメ化のためだった。ところが、『ピッピ』の映像化権は取得できず、この三人によって進められていた『パンダコパンダ』の制作が急遽決定したのだ(大塚康生『リトル・ニモの野望』より)。

完成した作品は30分と短いが、そこには『となりのトトロ』の明らかな原型であるパパンダとパンちゃん、いかにも宮崎アニメのヒロインらしい働き者で健気なミミといったキャラクター像を見ることが出来る。また、『ルパン三世』で人気を博していた山田康雄が警官役で登場しているのも楽しいところ。
二作目に当たる『雨ふりサーカス』では、洪水になった町をベッドの船で移動するシーンが出てくる。これは、やはり宮崎駿によってパイロット・フィルムが制作された『リトル・ニモ』のワンシーンを髣髴とさせる。しかし、この作品の何よりの見どころは、ほとんど思いつきのエピソードを連ねたような「他愛のなさ」である。
(関連サイト)
『パンダコパンダ』
http://www.ghibli-museum.jp/panda/
『三鷹の森ジブリ美術館<パンダコパンダ展>』
http://www.ghibli-museum.jp/welcome/exibition/
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2008年03月11日
『BLACK LAGOON』TEXT by 廣田恵介
独立U局でのみ放映されていたハードボイルド・アクション・アニメが、アニメ専門チャンネルAT‐ⅹで2月から放送されている。しかも、第一シーズンと第二シーズンを両方とも(もちろん視聴年齢制限付き)。初放映時からそう、これは「お子様お断り」のアニメなのだ。
舞台は、東シナ海に浮かぶ小島ロアナプラ。有能な商社マンだった日本人の岡島緑郎は、社の重要機密を運んだことから、ロアナプラの運び屋・ラグーン商会に捕らわれてしまう。そして、社を見限った緑郎は名前を捨て国を捨て、ラグーン商会の一員として海賊まがいの運び屋稼業に飛び込んでいく。初期の『ルパン三世』のようなクールさはない。弾丸の飛び交うロアナプラは、肌にねばつくような死の匂いに満ちている。
何よりの魅力は、二挺拳銃を使いこなす女ガンマン・レヴィの放送コード無視の粋なスラングの嵐。レヴィのセリフは原作漫画より、このアニメ版で聞くに限る。それだけでなく、アニメでは原作に漂うある種の“軽さ”が抜け、ずっしり腰をすえて闇の世界を堪能できる。緑郎が日本に舞い戻る後半のエピソードが特にお薦めだ。
(関連サイト)
『BLACK LAGOON』
http://www.blacklagoon.jp/
『BLACK LAGOON』(English)
http://www.blacklagooncompany.com/
『BLACK LAGOON』(wikipedia)
http://ja.wikipedia.org/wiki/BLACK_LAGOON
『広江礼威』(原作者)
http://www.din.or.jp/~redbear/
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2008年03月02日
『仮面ライダー キバ』TEXT by 廣田恵介
「変身」「オートバイ」など初代から続く約束事の中に、革新と実験をどれだけ盛り込めるか。それが8年目を迎える“平成ライダー”シリーズのテーマだ。
タイトルの『キバ』は、吸血鬼の牙。敵も吸血鬼なら、ライダー自身もコウモリ型のキャラに嚙まれることで変身する。音楽にはパイプオルガンが使われ、第二話冒頭では、画家のモディリアーニに関するナレーションが入る。バンパイア物にふさわしいスタイリッシュな演出だ。
ただ、2008年の現在と1986年の過去を行ったり来たりするストーリー展開は、やや煩雑だ。主人公は現在パートの渡(瀬戸康史)と、その父親で過去パートではまだ若い音也(武田航平)の青年二人。父子ともバイオリン制作者という設定のため、余計に混乱する。1986年といえば、お父さん世代の青春期。劇中、『冬のオペラグラス』『バナナの涙』といった、おニャン子系アイドル歌謡が流れるのには驚いた。ライダーは確かに二世代キャラクターだが、おニャン子クラブの最盛期にピッタリ合わせた時代設定はこだわりなのか、「あざとい」ととるべきか。
ステンドグラスを模した怪人のデザインなど、独特の美意識に貫かれたビジュアルは見ごたえがある。
(関連サイト)
http://www.tv-asahi.co.jp/kiva/
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2008年02月27日
『ヤッターマン』 TEXT by 廣田恵介
旧作が放映開始された1977年は、ロボット・アニメ・ブームの真っ只中だった。
『超電磁マシーン ボルテスV』、『惑星ロボ ダンガードA』、『無敵超人ザンボット3』、まだまだ、たくさん放映されていた。巨大で力強いロボットが無慈悲な侵略者から地球を守る、というプロットがブラウン管からあふれ出していた。だからこそ、正義の味方の浅はかさを笑い、図太い悪役の出しゃばる『ヤッターマン』が成立しえたのだ。さて、ロボット・アニメといえばガンダムしかない2008年、その『ヤッターマン』が復活した。
第一話の脚本は、バラエティ番組も手がけていた高橋ナツコ。物語の背景を思い切りよく無視して、キャラクターのみを立たせるには格好の人選だったのかも知れない。要所要所で懐かしの名セリフが連発されるのも、実にテレビ向き。そう、これは『ヤッターマン』のリメイクではなく、『ヤッターマン』を題材にした別のテレビ番組だ。
キャラクターやストーリーを借りてくるのは別に構わない。ただ、自らの作品を「黄金のワンパターン」と笑い飛ばした旧作のスピリットだけは借りることも真似ることも出来ない。リメイク物の厳しさを教えられた第一話だった。
(関連サイト)
『ヤッターマン』
http://yatterman.jp/
『タツノコプロダクション』
http://www.tatsunoko.co.jp/
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2008年02月27日
『全然大丈夫』 TEXT by 水上賢治
言われるとちょっと安心するかもしれないし、逆にちょっと心配になってしまうかもしれない。そんな微妙なニュアンスを含んだ言葉“全然大丈夫”なるタイトルがつけられた本作は、名バイプレイヤーとして活躍する荒川良々の初主演作。スクリーンで独特の存在感を放つ彼の持ち味を引き出しぬいた1作といっていいかもしれない。それほど映画は彼の味わいで充満している。

(C)2007「全然大丈夫」製作委員会
手がけた藤田容介監督は今回が長編デビュー作。松尾スズキの主宰で荒川も所属する劇団「大人計画」と様々な形でコラボレーションをしてきた経験を持つ。その勝手知ったる強みか、荒川良々を躊躇なく良い意味で“いじり”倒す。それを顕著に表すのが、役柄の設定だ。荒川がここで演じるのは無類のホラー好きでゾンビに扮しては人を脅かして喜び、お化け屋敷を作るのが夢の29歳の男。でも、夢を語るがそれに向かって踏み出すことはない。要するにとにかくいい加減な人物。これを普通の役者がやると興ざめしてしまうところ。でも、荒川が演じるとなぜか愛嬌が生まれる。そのツボを藤田監督は当然のごとく押さえており、ドラマは荒川ワールドが支配。いつの間にか荒川の色に染められた物語は、どこかほのぼのムードの笑いで満たされ、最後は幸せな気分にさせられる。
三木聡監督ほどゆるくない、堤幸彦監督ほどベタでとぼけてもいない。その狭間にある、しみじみとした笑いとでも言おうか。藤田監督が提供するのは、そんな笑いとユーモア。この笑いちょっとくせになる。
(関連サイト)
『全然大丈夫』公式サイト
http://zenzenok.jp/indexp.html
※シネクイントにて公開中。全国順次ロードショー
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2008年02月11日
『ペルソナ』 TEXT by 水上賢治
グラビアやCM、TVドラマなど様々なフィールドで活躍中の山崎真実が映画初主演を務めた本作は、近未来を舞台にした本格アクション。人体実験で超人的な戦闘能力を身につけた女性の戦いが描かれる。見どころはずばりアクション。そして、アクションにとって役者とアクション監督の存在がいかに大きいか改めて気づかされる1本でもある。

(C)「ペルソナ」フィルムパートナーズ
これはあくまで個人的な見解に過ぎないが、アクションに最も必要なのは“熱”のような気がする。それは演者の肉体の躍動感が発するものかもしれないし、画面全体にみなぎるパワーかもしれない。いずれにしても“熱”を感じられるか否かは重要。見応えあるアクション映画には、人の心を燃えさせる“熱さ=パッション”が確実に存在していると思う。この『ペルソナ』には確実にその“熱”が宿る。その最大の要因は、アクション監督を務めた谷垣健治の存在にほかならない。彼は香港映画界でも指導するほどのアクションの達人。『リアル鬼ごっこ』と『カンフーくん』のアクション監督も務めているのだが、いずれも一貫してアクションは熱く力強い。また、山崎真実のがんばりもみごと。今後、彼女がどのような方向性に進むのかはわからないが、新体操をやっていただけあって、アクション女優としての素質は高い。
そういえば昨年末、『エクスクロス 魔宮伝説』で深作健太監督にインタビューした際、彼はハードなアクションの求められる役に鈴木亜美を抜擢したことについて「アイドルの女の子は、厳しいダンスレッスンやトレーニングを積んでいる。基礎ができているから、レベルの高いアクションが望める。それに対して最近の若い俳優はほとんどがモデル上がり。食べないでやせた彼らは基礎体力がない。すぐ怪我をするから、怖くてとてもじゃないけどお願いできない」と語っていた。これを聞くと女性アイドルのアクション映画は侮れない。もし女性アイドル主演のアクション映画が公開されたら軽視は禁物かも。
(関連サイト)
『ペルソナ』公式サイト
http://persona-movie.jp/
シネマート六本木ほかにて公開中。全国順次ロードショー
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2008年02月01日
『GUNSLINGER GIRL -IL TEATRINO-』 TEXT by 廣田恵介
第一シリーズの放映は2003年。同人作家だった相田裕の原作に目をつけたのは名物プロデューサーの片岡義朗(マーベラスエンターテイメント)だったが、今回の第二シリーズでは名前が見当たらない。代わりに、相田裕自らが総監修・シリーズ構成・脚本までを手がけるのが、この5年ぶりの第二シリーズだ(製作は、前作と同じマーベラスエンターテイメント)。
洗脳により記憶を奪われた少女たちが銃器を携え、政府のために淡々と殺人を行なうというストーリーの基本骨格は前作のまま。その倒錯的な設定は熟知していたつもりだったのだが、第一話では銃撃戦の最中、義理の兄に守られて頬を赤らめる――という“微笑ましい”描写に戸惑った。義兄からの愛情こもったプレゼントも含め、第一話は明るく柔らかい印象だ。
前作は、恋愛とハードボイルドが程よいバランスで溶け合い、ヨーロッパ映画のようなアンニュイな雰囲気を醸していた。今回は、キャスティングも前作とは異なる。制作スタジオも、マッドハウスからアートランドへ。キャストとスタッフが一新されると、かくも変わるか……と驚かされる。これを機会に、浅香守生監督の第一期もぜひご覧いただきたい。
(関連サイト)
『GUNSLINGER GIRL -IL TEATRINO-』
http://www.gunslingergirl.com/
『GUNSLINGER GIRL』(第1シリーズ)
http://www.gunslingergirl.com/1st/
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2008年01月28日
『すみれ人形』 TEXT by 水上賢治
人形が相棒の孤独な青年腹話術師が、右手だけを残して失踪した妹を探し続ける。もう、この概要だけである種の不気味さと異色な臭いを感じとれるに違いない。人間の狂気と異形の愛。長編デビューとなる新鋭、金子雅和監督が手がけた本作は、そんなタブー視されがちなテーマに果敢に挑んだ意欲あふれる1作だ。

金子監督は1978年生まれ。映画美学校フィクションコースに進み、そこで瀬々敬久監督の指導を受けたという。今回の作品は、その瀬々監督の監修による同校の卒業修了制作作品となる。そういわれるとそこかしこに瀬々監督の影響を感じるのは確か。特に人間の誰しもが心の奥底に眠らせている残虐性や、一瞬の歯車の狂いで転落していく精神の弱さを炙り出す物語の世界観は共通点を見い出せる。
だが、それはこちらの勝手な粗捜しに過ぎない。なぜならこの作品は、金子雅和という監督の放つオリジナリティーがそれらの影響を軽く上回るからだ。中でも目を奪われるのが、その独特の映像感覚。官能的であり、退廃的でもある映像は、見る者を見世物小屋ともいうべき猥雑さと夢の世界が混在するファンタジック・ワールドへと誘う。ロケ先も“こんな場所があるのか”というほど、この世とはまた別世界ともいうべき幻想的な風景ばかり。聞くとロケーションには相当なこだわりがあるようで、すべて監督自身が足で稼いで、ようやく発見した場所だという。その納得のロケーションで切り取られた映像は、物語の残虐さや暴力性と相反するようにどこまでも儚く美しい。その映像だけでも一見の価値あり。これだけ映像美を感じさせる新人監督との出会いは久しく記憶にない。
(関連サイト)
『すみれ人形』公式サイト
http://www.sumireningyo.com/
※アップリンクXにて公開中
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2008年01月25日
『シゴフミ』 TEXT by 廣田恵介
いまや、ライトノベルはアニメ番組への原作供給源として欠かせぬ存在。この『シゴフミ』も、電撃文庫からのアニメ化作品だ。シリーズ構成を、『コードギアス 反逆のルルーシュ』でアクロバティックな作劇に手腕を発揮した大河内一楼が担当しているので、いやでも期待は高まる。
シゴフミとは、死者から届く手紙のこと。それを届ける死界からの配達人・フミカが狂言回しとなって物語が進行する。学園ラブストーリーと死をめぐるサスペンスが、少しずつ倒立していく手さばきは、「さすが大河内一楼」と唸るほかない。第一話のラストで、はっきりテーマを提示しているのも潔い。
番組をプロデュースしているのは、『のだめカンタービレ』などを手がけた株式会社ジェンコ。漫画、小説を数多くアニメ化している会社で、固有のスタジオを持っているわけではないが、クオリティ・コントロールには定評がある。作画面では、美少女キャラクターで有名なうるし原智志が参加しているのに驚いた。先の読めないストーリーと充実したスタッフィング、表裏両面から楽しめる番組だ。
(関連サイト)
『シゴフミ』
http://www.shigofumi.com/
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2008年01月22日
『人のセックスを笑うな』 TEXT by 水上賢治
ここ数年、日本映画界は女性監督の躍進が目立つ。河瀬直美、西川美和、荻上直子など、多士済々。しかも各々が独自の視点による個性的な作品を発表している。今の日本映画界から多様に語られるのは、彼女たちの活躍なくしてなかったかといってもいいだろう。その中でも個人的に、ひとつ頭抜けた才能を感じるのが、本作を手がけた井口奈己監督だ。

(C)2008「人のセックスを笑うな」製作委員会
前作『犬猫』で女性のしたたかさと微妙なバランスで成り立つ友情を描いた彼女が次に選んだのは、山崎ナオコーラの同名小説の映画化。ここで彼女は、女性の中に内在する“性”を軽やかなタッチながら、まるで凝視するように濃密に描き出す。おおよその女性監督は性描写に関すると、どこかこぎれいに美しくまとめてしまう傾向があるように思う。中には男女間の物語でありながらまったく“性”のにおいさえ感じさせない映画もある。その中にあって井口監督の登場人物から引き出すエロティックさとグロテスクさは半端じゃない。
純情青年19歳のみるめが、39歳の自由奔放女性ユリに翻弄されていくさまを描く。この過程で永作博美が演じるユリと、松山ケンイチが扮するみるめとの間で交わされるキス、会話、視線のいずれもがとんでもなく官能的。大胆なセックス描写があるわけではないが、人と人がどうしようもなく心を惹かれ、体を求め合ってしまう、根源的な“性”そのものをみせつけられる。二人のラブシーンはダイナミックな躍動感があふれ“活劇”にさえ思えてくるほど。どこかベビーフェイスな顔立ちで年相応に見えない永作博美に、これだけの女の色気があったのかと最後はあっけにとられた。恐るべし井口監督の演出である。
(関連サイト)
『人のセックスを笑うな』公式サイト
http://hitoseku.com/
※シネセゾン渋谷にて公開中
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2008年01月18日
『墓場鬼太郎』 TEXT by 廣田恵介
日曜朝の『ゲゲゲの鬼太郎』に対して、木曜深夜の『墓場鬼太郎』。二種類の『鬼太郎』の同時放映は面白い試みだ。
現代の子供に向けた『ゲゲゲ~』は、コアなアニメ・ファンに猫娘が人気だが、『墓場~』はノイタミナ枠にふさわしく、スタイリッシュな絵づくりで一般ユーザーにアピールしている。
貸本マンガ時代の『鬼太郎』をアニメ化、とは言っても、ガチガチのレトロではない。野沢雅子や大塚周夫といった初代声優を集めたのは、言うまでもなく過去の『鬼太郎』を知る広く浅い大人層に訴求するためだろうし、電気グルーヴの主題歌は声たからかに、この番組が「今のアニメ」であることを謳っている。オールドファンから反発必至の中川翔子のエンディングテーマに関しても、何をかいわんや。本当の懐古趣味に浸りたかったら、60年代版のアニメを見ればいいわけで、『墓場鬼太郎』はまぎれもなく「2008年のアニメ」なのだ。
そう考えると、モノクロを基調にしたかすれた色づかいや昭和30年代風の衣装設定など、狙いが読めすぎてしまって、やや興ざめ。『鬼太郎』という原作の懐の広さと同時に、その扱いづらさも感じてしまうのだ。
(関連サイト)
『墓場鬼太郎』
http://www.toei-anim.co.jp/tv/hakaba/
『ゲゲゲの鬼太郎』
http://www.toei-anim.co.jp/tv/kitaro/
『げげげ通信』(水木しげる&水木プロダクション公式サイト)
http://www.mizukipro.com/
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2008年01月18日
『超時空要塞マクロス 愛・おぼえていますか』 TEXT by 廣田恵介
「失われた文化を取り戻す」という高いテーマ性が高く評価される本作だが、その文化が、ただのラブソングだというあたり、さすがアイドル全盛の80年代前期。
映画前半で描かれるマクロス艦内の街も、言ってしまえば80年代に夢見られた「シティ感覚」。決して軽くはないのだが、あの時代の楽観的な気分の刻み込まれた作品だ。
象徴的なのは、物語が決着する前に、地球が壊滅してしまうこと。それでも、美少女ヒロイン、リン・ミンメイは恋に悩み、最終決戦ではその歌声を朗々と宇宙へ響かせる。滅びかけた地球を救うため艱難辛苦を乗り越えた『宇宙戦艦ヤマト』の旅は何だったのか……と悩んではいけない(監督は『ヤマト』の石黒昇と、この作品で監督デビューした河森正治の共同)。
パイロットと上官、そしてアイドル歌手との三角関係。それこそが80年代にモラトリアムを過ごした少年たちの抱いていた、軽薄かつ切実な理想だったのだ。そして、そのイマジネーションを高密度な作画で描ききるだけの「才能の無駄余り」が、あの時代には、はち切れんばかりに横溢していたのである。
(関連サイト)
『超時空要塞マクロス 愛・おぼえていますか』HDリマスター版 メモリアルボックス
http://product.bandaivisual.co.jp/web_service/shop_product_info.asp?item_no=BCBA-3170
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2008年01月11日
『キミキス pure rouge』 TEXT by 廣田恵介
恋愛シミュレーション・ゲームの代名詞『ときめきメモリアル』の初アニメ化は1999年。PV風の変わった作風はゲームの印象とは大きくかけ離れていた。
もともとストーリー性の強いPCゲームに比べ、恋愛シミュレーションのアニメ化は難しい。この『キミキス』の制作は『ハチミツとクローバー』、『のだめカンタービレ』のJ.C.STAFF。監督のカサヰケンイチ、美術の小林七郎と、両作品と重なるスタッフに期待が高まる。
第一話、一番人気のキャラである摩央が主人公の家に居候するが、これはアニメ化のための新設定。これまでのゲームキャラに比べ、生々しいまでに色っぽい摩央のデザインの再現に苦心のあとが見られる。ゲームに登場するマスコットをギャグに生かすなど、『ハチクロ』『のだめ』ゆずりの原作尊重の姿勢は好感触だ。登場するヒロインは主人公の妹を含め7人。第二話までで、そのすべてを画面上に登場させたのはあっぱれと言いたい。
ただ、この“面”的な広がりが、一対一の親密さを楽しむゲームの雰囲気とマッチしているかは別の話だ。学園ドラマとして、もうひとつ新味に欠けるのも惜しい。
(関連サイト)
アニメ『キミキス pure rouge』
http://www.kimikiss-pure-rouge.jp/
ゲーム『キミキス』
http://www.enterbrain.co.jp/game_site/kimikiss/
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2007年12月28日
『こどものじかん』 TEXT by 廣田恵介
アニメ化の第一報を聞いたとき、「まさか」と思った。原作漫画を読んでいたからだ。小学三年生の担任についた男性教師が、小悪魔的な児童・九重りんから、逆セクハラともいうべき誘惑を受ける。
確かにキャラクターはキャッチーだし、実はストーリー性も高い。しかし、りんの挑発的な発言の数々は、明らかにテレビ向きではない。さて、アニメ化に際して、どうアレンジするのか、制作者の腕の見せ所だ。
案の定、放送第一回から画面に露骨な修正が入った。シナリオも、やや急ぎ足だ。キャラクターの説明も徹底してないまま、りんの友人の不登校という重いテーマに触れてしまっている。「ヤバそうなシーンは隠し、ストーリーは先へ進める」とは、いかにも苦肉の策だ。
アニメや漫画は、メインカルチャーに対するカウンターであるべき。憎まれっ子で、ちょうどいい。民放連の放送基準は、単なる理念に過ぎない。つまり、もっと暴れていいのだ。物議を醸すぐらいでなければ、この原作をアニメ化する意味は無い。DVDを見るときは、原作漫画と比較しながら観ると良いだろう。
(関連サイト)
アニメ『こどものじかん』
http://www.kojika-anime.com/
DVD『こどものじかん』
http://product.bandaivisual.co.jp/web_service/shop_product_info.asp?item_no=BCDR-2067
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2007年12月28日
『かぞくのひけつ』 TEXT by 水上賢治
“人情喜劇”。日本映画監督協会新人賞に輝いた新鋭、小林聖太郎監督が手がけた本作は、このワードがぴったりくる作品だ。劇場スケジュールの取り合いがあるほどで、未公開のままお蔵入りする作品も実は数え切れない現在の日本映画界。それほど多くの作品があるものの、日本映画でこういった市井の人々のあくまで庶民的な生活をユーモアな視点をもって描いたタイプのものは少数。もしかしたら“人情喜劇”なんて正面きって言える作品は、最も少数の部類に入るのかもしれない。

(C)2006シマフィルム
主人公は“ザッツ・大阪人”ともいうべき家族。長らく東京で暮らす自分を含む関東人たちにとって、ときに大阪を舞台にした喜劇は、そののりつっこみに乗り切れずに終わるケースがある。でも、本作はきっとそんな関東人も観終わったら“ほんま、おもろいな”という口調になっているかもしれない。というのも登場するのは心をくすぐる人物ばかり。浮気性だけど妻にはまったく頭が上がらないオヤジに、そんな夫に常に目を光らせながらも誰よりも逞しい大阪のおばちゃん丸出しのおふくろ、この両親の間でいつも板ばさみ状態で悩みの尽きない息子に、彼の煮え切らない態度にやきもきする妙に積極的な彼女、正体を隠して家族の中に入り込んできた父の浮気相手ら、町のどこかで見かけそうな人間臭い人々がドラマを紡ぎあげる。劇的な出来事は起こらないし、強烈なキャラクターは登場しない。でも、人の心に寄り添った豊かなドラマがこの作品には存在する。
小林監督は井筒和幸や根岸吉太郎、森崎東など、ひとクセある監督の助監督を務めてきたとのこと。そういわれると影響を感じる部分もある。ただ、それ以上に独自の視点と手腕をもった軽妙洒脱な作品に仕上がった印象だ。初監督作だけに正直もっと弾けたところもほしかったのは確か。でも、処女作としての完成度はかなり高い。堂々たる娯楽作と言い切れる。
(関連リンク)
『かぞくのひけつ』公式サイト
http://kazokunohiketsu.com/
※ユーロスペースにてレイトショー公開中
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2007年12月27日
『天空のエスカフローネ』 TEXT by 廣田恵介
今年、『創聖のアクエリオン』が狂い咲き的にブレイクしたビジュアル・クリエイター、河森正治原作による、1996年放映のファンタジー・ロボットアニメである。
監督は超絶作画アニメ『ノエイン もうひとりの君へ』('05)の赤根和樹。アニメ界のサントラ女王・菅野よう子が劇伴を担当し、坂本真綾が主題歌と主人公の声をアテるなど、話題性は十分。後に映画化もされたほどのヒット作だが、同時期にブレイクしていた『エヴァ』の陰に隠れてしまった印象が強い。
少女マンガを想起させるキャラクター設定は、押井守をして「『エースをねらえ!』かと思った」と揶揄されたほど乙女チック。対して、異世界ガイアの巨大ロボット“ガイメレフ”は、歯車から火花が散るスチームパンク風のガジェット感が魅惑的。エフェクト効果にCGを積極的に使っていたのも、当時としては画期的だった。まぁ、ようするにあれもこれもと欲張りなアニメ番組だったことは間違いない。引き算の『エヴァ』に対して足し算の『エスカ』。今回のHDリマスターBOX発売で再評価が高まればいいのだが。
いきなりBOXは…という向きには、主題歌『約束はいらない』だけでも聞いてみることをお薦めする。
(関連サイト)
『天空のエスカフローネ』
http://www.sunrise-inc.co.jp/datacard/card0131.htm
DVD情報
http://product.bandaivisual.co.jp/web_service/shop_product_info.asp?item_no=BCBA-3092
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2007年12月26日
『ジャーマン+雨』 TEXT by 水上賢治
ここ数年、よく言われていることだが、日本映画界に次々と新たな才能を秘めた女性監督が誕生している。昨年は西川美和監督の『ゆれる』が様々な国内映画賞に輝き、今年は河瀬直美監督の『殯(もがり)の森』がカンヌ国際映画祭でグランプリを獲得。荻上直子監督の『めがね』や、人気フォトグラファーの蜷川実花が初監督に挑んだ『さくらん』など話題作も多かった。本作を手がけた横浜聡子監督は、そんな女性監督の系譜に新たに加わりそうな逸材だ。

(C)横浜プロ
青森出身の彼女は現在、29歳。この作品が初の劇場公開作となる新鋭だが、なかなか登場人物のキャラクター作りに才能を感じさせる。それほど、本作の主人公・林よし子という人物は強烈だ。資料には“ゴリラ顔、強引、わがまま、天涯孤独”と彼女について明記されているが、これだけではもちろんない。性格はいいところを見つけようとしてもみつからないほどひねくれているし、たちの悪い嘘をつく。人の失敗は見逃さないが、自分の失敗は許しまくり。こんな一方通行キャラは、男女問わず見たことがない。
よくよく眺めるとドイツ人の植木職人や女心が芽生えてしまった小学生、小さな男の子に手を出す変態オヤジなどなど、周りには強烈な人物がいっぱい。でも、よし子にはことごとく敵わない。小学生相手に本気モード全開で彼女がドッジボールに興じるシーン、頭が錯乱して汲み取り便所に飛び込む場面などで彼女が放つ存在感はすさまじいばかりで、いつの間にやら妙な愛情が芽生えてきて虜に。恐るべし驚愕のヒロインである。
ただ、奇天烈なキャラクター作りだけで終わっていないところがこの作品の優れたところ。現実離れした人物を主人公にしながら、実は現代を生きる人間が心に抱く社会への不満不平、口には余りだすことのない本音が語られた社会派ともいうべき内容に着地させている。今後、横浜監督がどんな物語を紡ぎあげていくのか楽しみに待ちたい。
(関連リンク)
『ジャーマン+雨』公式サイト
http://www.german-ame.net/
※ユーロスペースにてレイトショー公開中
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2007年12月20日
『劇場版 空の境界』 TEXT by 廣田恵介
同人ゲーム『月姫』を大ヒットさせたサークル「TYPE-MOON」の奈須きのこによる小説を、原作どおり全七章で完全アニメ化。

(C)奈須きのこ/講談社・アニプレックス・ノーツ・ufotable
そう言われてもピンと来ない向きもあるかも知れないが、PCゲーム世代にとって奈須きのこはベストセラー作家である。『空の境界』は今でこそ講談社から上下巻で発売されているが、当初は同人小説として売られ、コアなファンから熱狂的支持を得ていたという。
そんな小説のアニメ化なので、アキバ系の特定ファンに媚びた作品を想像するかも知れないが、めまいを覚えるほど重厚で緻密な映像にまずは圧倒される。特に、少女たちが謎の自殺をとげるマンションの不気味さといったら、その色彩・空気感ともに絶品。切れ味の鋭い演出は、最初のワンカットからエンドロール後まで、片時も緊張を途切らせない。
伝奇的なストーリーはやや難解だが、淡々と交わされるダイアローグと緻密に描きこまれた風景が交錯し、独特の陶酔感がある。この第一章は50分の中篇だが、何より“映画”として充実した時間を味わえること請け合いだ。
(関連サイト)
『劇場版 空の境界』
http://www.karanokyoukai.com/
原作『空の境界』
http://www.typemoon.org/kara/
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2007年12月13日
『カフカ 田舎医者』 TEXT by 廣田恵介
わが国のアート・アニメーションの分野で最先端をいく山村浩二、待望の新作である。グロテスクでありながらも、どこか温かみのある絵柄は健在。終始、絶え間なく変化していく色調は、美しくも見るものを不安のふちへと追い込む。

(C)Yamamura Animation/SHOCHIKU
原作はフランツ・カフカ。ストーリーも難解なら、演出も奇々怪々。キャラクターの頭がひしゃげたり伸びたり、映像は想像もしない方向へメタモルフォーゼする。主人公の老医者が診る患者の少年の傷口など、悪夢に出てきそうな描きこみだ。
確かに、『頭山』でも『年をとった鰐』でも、山村作品の根底には、素朴な残酷さが漂っていたと思う。今回の『カフカ 田舎医者』には、あからさまな残虐性は少ない。かわりに、意味もなく不安な気持ちにさせられ、ひたいに冷や汗が浮かぶほど。21分の上映時間、この窒息しそうな緊張感に耐えられるか、ぜひチャレンジしていただきたい。
『頭山』『年をとった鰐』のほか、新作短編二本が同時上映される。
(関連サイト)
『カフカ 田舎医者』
http://www.shochiku.co.jp/inakaisha/
posted by mtoda at : 18:25 | コメント (1) | トラックバック (0)

