――単刀直入にお聞きしますが、予告編ってどのように作られているんでしょうか?
ほかもそうだと思いますけど、予告編の世界でもデジタル化が進んで、ここ数年でずいぶん作り方が変わってきましたね。昔は映画会社の宣伝部と数回打ち合わせをするだけで終わっていたんですよ。当時は本編をビデオに落としたりしてなかったから、試写を1回か、2回見ただけで、予告編に使うシーンを決めてしまうんです。それで、印象に残ったシーンをフィルムにコピーするんですけど、映画のフィルムって値段が高いでしょ。だから、やり直しが効かないんです。それで、絵柄だけを見て一生懸命に編集をして宣伝部にもっていくんだけど、それを映写技師さんにかけてもらうのがまた大変で(笑)。映写技師さんって仕事にプライドを持っている方が多いから、宣伝部の人もおそるおそるで1回か、2回しか見られないわけ。仕上がってから文句を言われても、「やり直したら金がかかりますよ」っていうとたいていOKになっちゃうんです。だから昔は最終的にはこちらにおまかせってケースが多かったけど、ビデオの家庭用の編集機やノンリニア編集の機械が出てきてからは、音楽やナレーションなんかも簡単に入れられるようになって、ほとんど完成型にして持っていかなきゃいけなくなりましたね。それにラフの段階ではビデオで作ってくれっていわれるから、何回でもやり直しが効くようになっちゃたんです。だから、このところは打ち合わせの期間がすごく長くて、予告編屋としてやりづらくなりましたね。
――洋画と日本映画で、制作において何か違いってあります?
洋画の場合は外国から限られた素材しか送られてこないし、管理が厳しいから、ほとんどいじることができないんです。ハリウッド映画なんかだと世界配給を考えているから、初めからアメリカ国内版とインターナショナル版を作っちゃうんですよ。いじっていじれないことはないけど、それをやると許可を取るのが大変で。スティーブン・スピルバーグやジョージ・ルーカスなんかは、初めからいじっちゃダメって言われますからね。だから、洋画の場合はほとんど字幕をつけるだけの作業になっちゃうんです。もちろん、考え方は人それぞれだと思うけど、やっていて楽しいのはやっぱり日本映画ですね。
――日本映画の場合は制限が少ないってことですか?
いや、口を出してくる人はたくさんいますよ(笑)。もちろん、最終的には実際に劇場で予告編を見る観客に向けて作るわけですけど、その前に映画会社の宣伝部や監督、プロデューサーとかいろんな人をクリアしないといけないから。そりゃ、いろいろ言われますよ。「僕が作った映画はこんなんじゃない!」って怒られたり、しまいには自分で作るって言い出した監督もいましたね。ただ、映画本編の制作に関わっていた人が予告編を作ると、どうしても思い入れが強くなってしまって、撮影で苦労したシーンなんかを入れちゃうんですよ。でも、観客はまだ映画を見てないわけだから、客観性をもって作らないとどんな映画か伝わらないんですよね。ただ、日本映画の場合は洋画と違って映画の制作現場に近いから、わりとお金がかけやすいんですよ。洋画の場合は予告編1本の制作費が150万円ぐらいなんですけど、日本映画の場合は制作特報なんかも含めて最終的には2000万円ぐらいかかりますからね。
――ジャンル的に作りやすいものってあるんですか?
アクションとホラーですかね。映画はどうやっても活動写真ですから、見たことのないものが映っている映画の予告編は作りやすいんですよ。拡大解釈的に言えば、ラブストーリーであっても、見たことないほど美しい人のすてきなラブシーンであればいいんです。とにかく"見たことない"っていうのが重要なんです。逆に、日常の生活を淡々と描いていて、それでいて味わい深いというような映画の予告編は作りにくいですね。例えば、小津安二郎監督の映画に予告編があったのかどうかは知らないけど、小津さんの映画の予告編を作れと言われたらやりにくいだろうなと思う。だって、ひとつのシーンを長く見ないと完結しないし、娘が結婚する話だと言っても盛り上がらないでしょ。予告編をたくさん見るとわかるけど、どんな映画でもたいてい転・起・承・転の構成になっていると思いますよ。お客さんの心をつかむためにまず1発何でもいいから脅かしを見せて、こうなっていきますが、さてどうなるでしょうって感じで終わらせる。普通だったら起承転結ですけど、予告編に関しては"結"は必要ないんです。
――結末まで言ってしまったら、映画を見る必要がなくなっちゃいますもんね。でも、予告編があまりにもよくできていて、「映画の本編よりも予告編のほうがおもしろかった」なんてこともときどきあります。
アクションなんてどのシーンが最後かわからないから、予告編で全部見せちゃいますからね。お客さんは予告編がこんなに派手なら本編にはもっとスゴイシーンがあるんじゃないかと期待して映画を見るから、「なんだ! 予告編で全部じゃねぇか!!」って怒られちゃう(笑)。よく「予告編にダマされた」って言うでしょ。どんな映画でも全米No.1だし、本編のおいしいシーンは全部見せちゃうし、時には本編にないシーンまで作っちゃいますからね。だから、予告編は嘘つきの代表みたいになってるでしょ(笑)。ただ、予告編はあくまでも本編を売るための宣伝物であって作品ではないので、予告編だけよくても本編が当たらないと本末転倒かなと思います。まぁ、前の映画がコケてしまって、誰もいない劇場で予告編がカラカラ回っているというのが一番せつないですけどね(笑)。
――では、最後に予告編制作に向いている性格はありますか?
うーん、文章の読解力がある人かな。今、予告編屋になりたいというほとんどの人が映像がやりたい人なんですよね。ゲームでもTVでも何でもいいから映像の仕事がやりたいと思って予告編にたどりつく人が多い。でも、1分30秒の中で人をおもしろがらせないといけない、しかも何かを伝えなければならないというのは、映像表現的なことではなく、読解力や構成力の問題になってくるんです。だから、読書感想文がうまい人は、きっと予告編を作るのもうまいと思いますよ。(取材・文/馬場英美) |
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Profile
杉崎聡さん
予告編制作の第一人者・佐々木徹雄氏に師事し、1999年に独立。現在は、有限会社イメージ・フォースの代表。
●予告編の代表作
『スタンド・バイ・ミー』('86)、『どら平太』('00)、『ウォーターボーイズ』('01)、『黄泉がえり』('02)、『バッドボーイズ2バッド』('03) ほか多数 |
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