――そもそもスクリプターとは、どういうお仕事なのでしょうか?
よく聞かれるんですよねぇ。映画を勉強しようとしている人はまだいいんだけど、なかなか一般の人にまでは浸透しにくい職業ではあると思うわ。正式名称はスクリプト・スーパーバイサーというんだけど、スクリプトというのは「脚本」のことでしょ。で、スーパーバイザーというのは「管理する」という意味だから、簡単に言ってしまえば、スクリプターとは「台本を管理する人」ということなのね。
私がよく言うのは、スクリプターとは「監督を監督する人」であるということ。映画の製作プロセスの中で、そのカットが編集可能かどうか、冷静に、かつ客観的に、見極めるのが私たちの仕事なの。映画って、もちろん台本に基づいて撮影されていくんだけど、誰にもはっきりとした完成図はわからないものなのよ。だから、そのプロセスを管理する人が必要なの。そういう意味では、「映画の工程管理人」っていうと、一番わかりやすいかもね。
――ということで、白鳥さんにスクリプターの主な仕事を4つあげていただきました。
1 監督の補佐役であること
撮影に入ったときに一番重要なのは、監督のコンテ(演出プラン)を把握することなの。それを監督からいち早く聞き出して、全スタッフに伝えるのがスクリプターの仕事。コンテを当日に発表する監督も多いし、神代さんみたいにむにゃむにゃ言っていて何も言わない人もいるから監督によって違うけど、私の場合は神代さんや藤田敏八さんといった几帳面に線を引いてこない監督とのおつき合いが長かったから、大抵のことには驚かないけどね(笑)。
それに、松竹の大船撮影所では助監督にスクリプトをやらせていたの。だから、大島渚さんなんかに会うと、「白鳥さん、僕にスクリプトやらせるとうまいんですよ」って必ず言う(笑)。つまり、監督のそばにいるのがスクリプターの役目なわけだから、コンテを勉強するには一番いいポジションなのよね。そのことだけ見ても、監督の演出をちゃんと理解して、その演出にしたがえるようにするのがスクリプターの役目ってことがわかるでしょ。
2 ウォーキング・ディクショナリーであること
ウォーキング・ディクショナリーとは「歩く辞書」という意味だけど、スクリプターは現場で何を聞かれても答えられるようにしておかなければならない。例えば、衣装のことだったら、スカーフの色や柄はもちろん、結び目の位置まで覚えてないといけないの。映画って小さなカットの積み重ねでできているから、スカーフの結び目の色が違ってもつながっているように見えなくなっちゃうのね。そういった無数の細かい質問がスクリプターのところにくるわけ。
あと、俳優さんの演技とセリフの関係にも気を配ってないといけない。人間って無意識にいろんな芝居をするでしょう。それに、人間の視線ってどうしてもしゃべっている人に集中してしまうから、スクリプターとしては編集のポイントを頭において 編集的にはさっきまで挙げていた手をいつ下ろしたのかが問題になってくるの。それがうまくできていないと、どんな名監督が撮った名シーンでも、編集的には使えないってことになっちゃう。そういう意味では、ウォーキング・ディクショナリーというのはとても大事なことなの。
3 現場のコーディネーターであること
これは現場で監督と俳優、スタッフの橋渡しをするということ。「監督はこう思っているのに、カメラマンはどうしてもこう撮りたい」とか、映画をやっている人は個性的な人が多いから、どうしてもお互いの意見がぶつかることが多いの。そういうときに、間に立って調整するのがスクリプターの役目。だから、「スクリプターにはなんで女性が多いんですか?」と聞かれることも多いけど、「現場の橋渡し」ということで考えると男性よりも女性の方がスムーズにいくんじゃないかと思うわ。
4 編集マンとのパイプ役であること
映画がほかの芸術とどこが違うかといえば、まず一人では作れないってことよね。それと、もうひとつには編集があるということ。撮ったものを編集して、初めて映画になる。映画にとって編集というプロセスが非常に重要なわけよ。だから、スクリプターは、編集するとどうなるか、編集できるかどうかってことのお目つけ役でもあるの。撮影現場でみんなが意欲に燃えているときでも、それに突然水をぶっかけるようなことも言わなきゃならない。だから、亡くなった伊丹十三監督は「僕にはスクリプターはできない」って言っていたけど(笑)。たしかに憎まれることもあるけど、言わなきゃならないし、みんなも結果的には言ってもらったほうがありがたいわけだから。
それに、基本的には編集マンは撮影現場に来ないから、その橋渡しをするのもスクリプターの仕事。編集マンというのは、映画に関わるスタッフの中で唯一、客観性を保っていられるポジションだから、その編集マンに対して監督はこう作りたがっているということを伝えなければならないの。それを伝えるのがスクリプトという仕事で、私たちが使っているスクリプト用紙というのは、いわば編集のためのメモなわけよ。
――こうやってお話を聞いていると、スクリプターは映画を作る工程の最初から最後まで関わるわけですから、やはり監督との信頼関係が重要になってくるんでしょうね。
それはとても重要よね。黒澤明監督と組まれていた野上照代さんという有名なスクリプターがいらっしゃって、『羅生門』('50)以降の全作品に関わられてきた方なんだけど、黒澤監督も野上さんがいなかったら映画を作れなかったんじゃないかと思う。
――白鳥さんにとっては、それが神代辰巳監督だったわけですね?
神代さんは黒澤さんとは別のタイプの監督だから、べつに私がいなくても映画は撮れたとは思うけど(笑)。でも、私にとっては神代さんの影響が大きい。いつも「何かないか? 何かないか?」って聞いてくるから、こっちもバカにされたくないし、必死に考えるじゃない。で、くだらないことを言うと、「オレは予定調和は一番嫌いなんだ」って怒られる(笑)。そういう意味では、神代さんに一番鍛えてもらったと思うわ。
――最後に、スクリプターに向いている性格はあると思いますか?
それはあると思う。私はスクリプターという仕事がどういうものかも知らないでこの世界に入っちゃったけど、あまり神経質でもダメだと思うわ。私なんかO型で大雑把な性格だけど、これまでやってこれてるし(笑)。でも、若い頃は本当に向いてないと思って、ある日、占い師さんに見てもらったら天職だと言われてホッとした覚えがある。というのも、映画といえども人間のやることだから必ずミスはあるのよ。だから、あまり神経質になっていたら、そのうちノイローゼになっちゃうわ(笑)。(取材・文/馬場英美) |
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Profile
白鳥あかねさん
1932年東京都生まれ。新藤兼人監督の『狼』('55)の撮影に見習いスクリプターとして参加し、同年、日活に入社。神代辰巳監督の右腕として多くの作品に関わり、最近では篠原哲雄ら若手監督の作品にも参加。白鳥さんが参加された成島出監督の
『油断大敵』は、1/17(土)より有楽町スバル座で公開。
また、'02年の『折り梅』など脚本家として活躍するほか、KAWASAKIしんゆり映画祭(http://www.siff.jp/)の実行委員長も務めている。
●代表作
『恋人たちは濡れた』('73) 『四畳半襖の裏張り しのび肌』('74) 『遠雷』('80) 『Love
Letter』('95) 『木曜組曲』('02) 『油断大敵』('03) |
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