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プロローグ「見ることよりほかに」
第1回 「平壌ドボン」
第2回 「パレスチナの青い空」
第3回 「哀しき熱帯」
第4回 「愛すべきならず者たち」
第5回 「平壌でボッタクリ-崩壊か開放か」
特別編 「水汲みロイちゃん〜アフガニスタン・カブール陥落に思う〜」
第7回 「誰も俺たちを撃たない」
第8回 「NGOは誰のため?」
第9回 「アフガンは笑う」
第10回 「私の中のテロリスト」
番外編 「パレスチナから帰ってきました」
第11回 「ローマの休日」
第12回 「クナシリ漂流」
第13回 「世界でいちばん憂鬱な場所」
第14回 「極寒でも太陽政策・平壌で二日酔い」
第15回 「続・極寒でも太陽政策・平壌で二日酔い」
第16回 「『戦争の実相』(4/20)/『普通に豊か』(5/23)」


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2003.6.20 UPDATE



後藤和夫
text by Kazuo Goto



  


「今、北朝鮮を敵視するのがトレンド」
マスコミのよりどころはそれだけだ


平壌市内の交差点

Ж 6月9日、北朝鮮の万景峰号が突如来るのを辞めた。
そりゃそうだろう。これほど嫌われた上に、警察・税関・国土交通省などが、これまでにない厳戒態勢で「疑惑」を暴くぞと手ぐすね引いて待っているところに、誰がのこのこと来るもんか。
もっとも帰りの燃料を得る手はずが整わなかったからという説もあるし(重村さんという専門家の意見)、このまま行ったら船内の秘密がばれちゃうから偽装工作をきちんとやってから再度来るという説(俺の無責任な憶測)もある。そういうことにはどこまでもずるがしこいのですよ、あの国は。

拉致被害者の家族の方々が入港阻止の集会をし、結果来なくて喜んでいるのは感情的には判る。あの方たちの望みは北に残った子供たちが無事帰ってくることと、死亡と伝えられたが怪しい点が残る8人の人間の拉致の解明であって、今のところ、あらゆる手を使って「圧力」をかけ、北朝鮮が折れてくるのを待つという方針だろうから。万景峰号入港阻止も圧力のひとつだろう。
来る予定だった朝、蓮池薫さんのお兄さんが生放送に出ていて、「薫さんはなんと言ってましたか?」の質問に、「弟は万景峰号は拉致と関係ないと言ってます。ノーコメントだそうです」と答えていた。俺もそう思う。在日の人の祖国訪問やお土産や、時として北からの指令や、麻薬や、ひょっとしてこっちから金やミサイルの転用に使える部品を運ぶための運航だったとしても、この船で拉致した人間を運んでいたとは思えないし、事実拉致された人たちは夜陰にまぎれて工作船で連れ去られてきたのだから。

俺としては今回の阻止は、結果として逆効果だと思うのだが、ご本人たちが「圧力成功」、そう思っているのだから仕方がない。蓮池さんのお母さんなどを見ていると、可哀想でならない。北朝鮮憎しの気持ちがそうさせるのだろう。




Ж だが、日本政府はそれでいいのか?
もし、あの船が疑惑だらけでそれを暴きたいなら、むしろ油断してやってくるように仕向けるのがプロというものじゃないか。何も調べませんよ、いつものように来て下さい。いつものようになんでも積んで行って下さい。そう言っておいて、いきなり乗り込み調査、というのが捜査のイロハじゃないのか?
あの国を卑怯な国だといっておいて、その卑怯な国を相手にしてるにしてはあまりに間抜けじゃないか。本気でやる気があるのか?

どうもこのあたりがはっきりしない。国交正常化といっておきながら、マスコミや世間が騒ぐと「北は許せん」といきり立って見せ、アメリカが「核疑惑」といえば、核は許さんと言ってみる。「核」=すなわち大量破壊兵器を許せないなら、まずアメリカに言ってみろよ。横須賀に原潜来ないでくれ。沖縄から米軍出て行け。
なぜ言えん。
「核」は外交の最大の切り札である。だからロシアや中国、フランス、イギリスとは誰も戦争しようなんて思わない。インドとパキスタンも散々衝突しながらぎりぎりのところでやめる。それを、弱小国が真似するのは当たり前だ。北朝鮮もそれをやろうとしている。それがあれば、びくびくしなくていい。確かに酷い体制の国かもしれないが、外交努力としては当たり前じゃないのかね。
ひょっとして日本も「核保有国」になりたい。そう思っている奴がいる。
だから弱小国の核は許さず、アメリカの核は許す。
とんでもない奴らだ。

また、政府もマスコミもほとんどが、拉致被害者のことを真面目に考えていないと思う。
政府は「困ったなあ、こんなに盛り上がってしまって」と思っているに違いない。もともと政府に人権とか人道なんかない。「国益」あるのみだ。しかし、マスコミがあおり、世間がそれに乗っかり「人権問題としての拉致」が引くに引けないところまで来てしまったのが実情だと思う。
戦争になれば、市民の1万や2万は平気で見殺しにするのが国家ってもんですぜ。とても判明した15人の拉致被害者の人権を考えているとは思えない。
もしもよ、広島や長崎の被爆者の家族が「アメリカは核を使った非人道的な国だから、アメリカの船の入港阻止してください、原子力潜水艦の立ち入り検査してください」と言ったらやるのかよ。広島・長崎のほうが拉致以上に非人道的だぜ。
こっちはやらない。
強い国にはヘイコラ、弱そうな国には「威圧」「圧力」「蔑視」。で逆切れされて打つ手なし。
拉致被害者の人たちの願いは遠のくばかり。
拉致被害者の悲劇のひとつはここにあると思う。

マスコミもそうだ。はっきり言っておくが、マスコミに人道はない。人権や人道に関心のある記者やテレビマンはいるかもしれないが、新聞やテレビ自体に人道はない。そこにあるのは、記事であって番組である。
恥を覚悟で言うが、今、連日北朝鮮報道ですっかり金正日=悪魔説に詳しくなった俺の後輩のディレクターでも、なぜ南北が分裂しているのか、まともに答えられる奴はいない。
「お前の目的は拉致被害者が無事に帰ってくることなのか? それがお前の報道姿勢とどう結びつくんだ?」と問いかけたとしたら、「??????」となる奴ばっかりだ。何を言われているかが判らない。
今は北朝鮮を敵視するのがトレンド。それだけがマスコミのよりどころだ。
拉致被害者の二重の悲劇がここにある。
この狂った歯車が「有事法制」を成立させてしまった、と俺は思っている。
「有事」になったら、イラク戦争を大偏向で伝えたFOX TVのようにやらないと、当局の検閲・指導の下で限られた報道しか出来なくなるのよ、といっても、難しすぎて「有事法制とは何か」という番組さえ出来ない。視聴率取れないから。
何ナノかねこれは? と俺はずーっと思ってきたし、小さい声だが発言してきた。いい加減疲れた。




Ж 今からでも遅くはない。はじめに戻ろう。問題は政府やマスコミ(俺はこの一部なのだが)ではなくて、私たちがどうするかだ。
拉致が判明した昨年9月17日。俺たちはびっくりした。
まず拉致の事実にびっくりした、と言いたいところだが、実は拉致はかなり前からおそらく事実として判明していた。そういう報道もなされていたし、実行犯が韓国で証言もしていた。だからこれはやっぱりそうだったのか、という驚きだった。
その時マスコミも含め俺たちが気づくべきだったのは、「俺たち日本人があまりに北朝鮮のことを知らない」という事実であるべきだった。
憎む前に、その相手を知ろう、「何でやねん」「どないな国やねん」というステップがまったく忘れられてしまった。
とにかく酷い国。被害者可哀想。やっつけろ、の大合唱。
しかし、本気でやっつけろ!と覚悟を決めてそう思った日本人は少ないはずだ。
今でも少ないと思う。本気なのは、たとえば石原慎太郎のような人だけだろう。
はっきり言って、他は野次馬なのである。いまでも。
これまた、拉致被害者の方々の悲劇である。

俺も野次馬の一人である。だが俺は「やっつけろ!」とは思わない。どんな酷い国でも、いや酷い国ほど、そこには抑圧下で苦しんでいる人間がいる。
「やっつけろ」とは「制裁」や「戦争」のことだ。それで苦しむのはそういう人たちであろう。フセインで苦しみ、経済制裁で苦しみ、アメリカ・イギリスの攻撃で苦しみ、もういい加減にしろ! と思っている人たちを俺たちは今見ているが、そういう人を救う力はないにせよ、俺は抑圧する側には加担したくない。大合唱に乗ることは、それに加担することになるに違いない。それは嫌だ。
なんか他の道はないのか。
正しい野次馬の道はないのか。その国を知る。詳しく知る。そこに風穴はないのか。
で、俺は機会があれば北朝鮮に行って野次馬をやる。
今年の1月にも行ったのだった。
といったところでお待たせしました。
第14回「極寒でも太陽政策」の続きであります。とここで、初めて読む方は、俺の他の北朝鮮関連文を読み、第14回を読んでから以下を読んでください。言っておきますが、このコラムに関する限り、かなりの偏向報道です。





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