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プロローグ「見ることよりほかに」
第1回 「平壌ドボン」
第2回 「パレスチナの青い空」
第3回 「哀しき熱帯」
第4回 「愛すべきならず者たち」
第5回 「平壌でボッタクリ-崩壊か開放か」
特別編 「水汲みロイちゃん〜アフガニスタン・カブール陥落に思う〜」
第7回 「誰も俺たちを撃たない」
第8回 「NGOは誰のため?」
第9回 「アフガンは笑う」
第10回 「私の中のテロリスト」
番外編 「パレスチナから帰ってきました」










サハラ砂漠に日は落ちて。アタニさん(左)と運転手さん。


ガイドとは、当局のお目付け役、シークレット・エージェント(?)
でも、僕だってあなたがイスラムの戒律破ってるの知ってもんね



Ж俺はカメラを片手に船首のデッキに走った。すでにデッキは人だかり。まじめなピースボートの客たちは教えどおり、普段入港する時には皆さんカメラを持っているのにこの時は一様に手ぶら。俺のそばでカイロからここまでゲストとして同乗したリビア当局のゲスト、アタニさんも港を見ていた。

 アタニさんはかつて日本のリビア大使館員、日本語も堪能で、マレーシアにも長くいたという。ピースボートという船は600人からの人間を乗せ、世界の国々を回り民間交流するNGOだが、必ずといっていいほど寄港地について事前に説明してくれるゲストが乗る。

 今回のクルーズは南回りでインド洋からスエズ運河を抜けてカイロ、地中海を経てアテネ、途中クロアチアに寄って、再び南下してリビアという流れで、俺はインド洋からリビアまで「水先案内人」という船内講座担当のゲストとして乗っていた。途中から寄港地にふさわしいゲストが入れ替わり立ち代り乗り込む。
アタニさんもそうしたゲストの一人で、カイロから乗り込み、リビア入港の2日前から船内でリビア講義をしていた。その他は飲んでいた。アルコールをである。イスラム教徒がアルコール?
初めて船内で会った時も、かなり飲んだ後の様子で「後藤さん、探してたのよ、リビアでの観光、私ご一緒ね、楽しみですね、仲良くしましょう」と調子がよかった。俺は内心
「要注意!」と肝に銘じた。


Жこのあたりやや説明が必要だろう。リビアは社会主義国である。パスポートを持っていれば自由にいける国ではない。事前に大使館通じてリビア観光局に申し込みをし、大使館とスケジュールを確認し、ヴィザを発行してもらい、滞在中は観光局の人間と一緒に行動することが義務づけられている。勝手な行動はできない。まして俺はテレビで仕事をしているマスコミの人間だ。社会主義国によるが、社会主義国では基本的に外国人による報道の自由はない。知らない外国人が突然ある町に立ち寄るなんてことはないのだ。事前に各地に外国人訪問の情報が行き届くというのが社会主義国の常である。ドタキャンしてあっち行きたいもんね、などと言えば「無理です、予定にありません」といわれるのが落ちである。俺の滞在もそれなりにマークされるに違いない。(もっとも俺のリビアに関する知識じゃスクープ狙いも何もなくて、ただ珍しい国だからというミーハー程度だったのだが)となると、ガイドとは、ガイドであって当局のお目付け役、シークレット・エージェントの場合が多い。俺の思想や行動をチェックし、当局にとって望ましからぬ人物でないかどうか、それを調べる役割も担っている。ガイドの判断では拘束もありうる。そういう国がまだある。すぐそばの半島の国もそうだ。そこでの苦労はすでに書いた。

 また、リビアはアラブの国であり、反イスラエルの国である。イスラエル関係の文書(ヘブライ語で書いてあるもの全部)も持ち込みできない。エジプトはイスラエルという国を認めているが、反骨の士カダフィはイスラエルなんか認めていない。イスラエル入国のスタンプなんぞがパスポートに押されていたら即刻入国拒否。600人からいる乗客の一人でもイスラエルに行ったことがばれると全員入国拒否と脅かされていた。事実イスラエル人の青年はアテネで一時下船、リビア後の入港地で合流することになっていた。


Жが、しかしなんと、俺は今回、カイロの前で途中離脱して、そのイスラエルに行ってきたのだった。正確にはイスラエルなんか見たいんじゃなくてパレスチナに行く予定だった。
パレスチナに入るにはイスラエルを経由しなくてはならないのだから仕方がない。リビアのような国があるので(シリアやレバノンもそう)、俺はいつもイスラエルの入国で「ノースタンプ、プリーズ」と入国スタンプを押さないよう頼んできたのだった。
しかし今回、イスラエル入国管理局は一緒に行った16人まとめて入国拒否、その上に「入国スタンプ」プラス「入国拒否」スタンプまで押しちまったのだった。入国拒否に関しても激怒したが、何より痛かったのはそのスタンプだった。これじゃ、リビアもダメか?
俺たちはあわてて、リビア先乗りスタッフに連絡した。あのね、イスラエルに行きたかったんじゃないの、同じアラブ民族のパレスチナの人々と交流しに、そう説明してくんない?
で失敗しちゃったの、だから入国してないの、スタンプは意地悪なの。

 それは結果何とかなったのだが、リビアからのゲスト、アタニさんは、カイロから乗った時、当然いると思っていた俺を探していたらしい。だからアテネから乗った俺を見つけたとき、酔っ払いながらも「後藤さん」とにじり寄ってきたのである。

「何してたんです、これまで あなたカイロにいなかったじゃないですか?」
「ええ、ちょっと用事で途中下船してたんです」とイスラエル入国トライをごまかす俺。
とそばにいた通訳で乗っていた女性が「アタニさん、後藤さん大変だったんですよ、イスラエルで入国拒否にあっちゃって」と余計なことを。
ぶち壊し。ああ、これで俺がイスラエルに行ったことばれちゃった。リビア入国はダメかもなあと、そのときは思った。俺は後でその女の首を絞めた。

 しかし、酒をかっ食らっているぐらいのイスラム教徒だから、今のは聞き逃してくれるかもしれない。それから二晩、俺は熱心にアタニさんの講義を聴き、彼が船酔いのときは親身になり、彼がアルコールを求めるときは必要以上に勧め、何とか俺とイスラエルの関係を忘れさせようとした。
次第にアタニさんとは、彼にとって懐かしい日本の話などをし親交を深めて行った。単独でリビアに滞在して付き合うのはこの人だ。怪しいやつだと思われたら不自由の何乗になるかわからない。僕だってあなたが酒好きなの知ってるもんね。イスラムの戒律破ってるの知ってもんね。お互い国は別だけど、ただの人間、政府や体制超えて仲良く慣れるでしょ、と半分脅しを交えながら、緊張を伴った友情を育てていった。
アタニさんも「私日本の文化大好きです。その国にいたらその国の文化、お酒のある船の中は船の中の文化ですよね」と、調子がいい。このいい加減さ、気が合いそうだ。



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