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プロローグ「見ることよりほかに」
第1回 「平壌ドボン」








パレスチナ人自治区では
笑顔の大安売りが待っていた



Ж テル・アビブ。ベン・グリオン空港。旧ロッド空港か。入国はすこぶる簡単。「オカモト」じゃなかったからか? 真夜中2時。予約してたホテルが満杯で、仕方なく他のホテルに。4時に寝て9時に起きて、さてドンパチは何処でやってるの?

 新聞なんかで見ると、今イスラエル中でパレスチナ人少年たちが、イスラエルに対して投石、これに対してイスラエル治安部隊が銃で応戦、たまにミサイルで撃破、雨時々戦争ってな具合に思うかもしれないが、そんな事はない。少なくともテル・アビブにいたら、そこは田舎臭い天国、映画『グローイング・アップ』の世界。地中海に面したビーチではビキニの姉ちゃんが『太陽がいっぱい』ごっこをやっている。戦争のセの字もない。

 イスラエルの地図をご想像あれ。国土の約20%に当たる地域がパレスチナ人自治区。ヨルダン川西岸とガザ地区だ。パレスチナ人たちのほとんどは、この自治区に押し込められている。その自治区内にも、イスラエル人入植地というのがあって、そこは別天地。まるでハワイの別荘地タウンを形成している。そこをイスラエル治安部隊というのが守っている。イスラエルの大地のほとんどは荒涼たる岩と乾燥した灰色の土、もうすぐ砂漠化ってな具合で、起伏の激しい山が連なっている。空だけが能天気にどこまでも青い。

 だから舗装道路も少なくて、それも縦横に走ってるわけでなく、幹線道路が、パレスチナ人たちの町から入植地を経て、またパレスチナ人の町へという具合に数限られた主要道路で繋がっている。その幹線道路にはいくつものチェックポイントがあって、そこはイスラエル兵士が守っている。そしてまた入植地のいくつかにはイスラエル正規軍の軍事基地が隣接している。とまあこういう構図。

 で、そのパレスチナ人自治区の中の、イスラエル入植地の近くや、基地の近く、またはチェックポイントあたりで、毎日のように、少年たちが投石闘争を繰り返しているのだ。

 初めての俺としては何処に行ったらいいのか分からない。とりあえず、タクシーに乗って「ガザ地区」と頼む。テル・アビブのタクシーだからイスラエル人。走りやすい高速を1時間半ばかりでガザの入り口なのだが、運ちゃん迷う迷う。生まれてはじめて来るらしいのだ。自分の国に、パレスチナ人たちを占領下で押し込めている地域がある、そんなの知らんもんね、行きたくないもんね、というのがどうやら庶民感覚らしい。



ベツレヘム近郊、イスラエルの砲撃で破壊されたビルの中で。毎晩戦車砲が撃ち込まれている

Ж まるで国境のようなチェックポイント。およそ500メートルにわたって、両側にゲートがある。イスラエル側に立派な検問所。そこでパスポートチェック。日本人観光客。な訳ないけど、あっさりとパス。荷物を持って炎天下テクテク歩くと、向こうにパレスチナ側の検問所、手を振ると、待機していたタクシーがやってくる。勿論パレスチナ人。

 ここで俺は、自宅のワープロで作ってきた自家製「プレスカード」を胸につける。普通ジャーナリストの取材は、その国のプレスセンターに申請してカードを作ってもらうのだが、面倒くさいので、今回は自家製にした。ひっくり返すとただの名刺。もし撃たれたりしたら役に立つかも。

 で、パレスチナ人タクシーが頼みもしないのに俺の荷物を勝手にトランクに入れ「さあ何処いく?」って聞く。その前にチェックポイントは?「ハイハイここよ」って、暇そうにしていたパレスチナ兵士が、ニコニコしながら俺のパスポートを見る。で新聞を見せる。「昨日もイスラエルの発砲で一人死んだ」「そうそう日本人のジャーナリストも撃たれたぜ、ほれほれ」と写真つきのアラブ語新聞を見せてくれる。

「おお、これは何処だ? 何処で撃たれたんだ? 俺はそこに行きたいんだ!」
「そうでしょうとも、俺たち知ってる、日本ジャーナリスト、パレスチナの味方、心配ない、ドンパチ、毎日やってる、でもまだちょっと早い、子供たち今学校、午後からあるよ」と向こうもいい加減な英語。コッチはもっと怪しい英語。

しかし、日本からきたハイエナの匂いをいち早く感じとった兵士は、実に嬉しそうに親切な情報をくれる。毎日、誰かが死んでんだろ? そう笑うなよお前、と思わず言いたくなるぐらいの笑顔の大安売り。飛行機の中のユダヤ人のメンタリティも理解できなかったが、こいつらのメンタリティもいまいち理解不能。でそこには、こうした外国からのジャーナリストの通訳兼アシスタントをやる人間がたむろしていて、俺は、その一人と契約した。「さあ行きましょう、ガザの過激派ハマスのデモからご案内」てな具合に取材はスタートした。



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