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プロローグ「見ることよりほかに」
第1回 「平壌ドボン」





2001.2.23 UPDATE



後藤和夫
text by Kazuo Goto





パレスチナに行きたかった。
なぜか。日本が退屈だからさ。


Ж 昨年の11月9日の夜9時。東京から12時間ものフライトでくたくたの身体を、5時間ものトランジットでもてあまして、俺はチューリッヒにいた。9時発の予定の飛行機がまだ表示されない。

 10時。やっとテル・アビブ行きのスイス航空のゲートが表示された。初めてのパレスチナでありイスラエルである。国としてはイスラエル。気分としてはパレスチナ。仕事ではなかった。というか、できれば仕事にしたかったのだが、「パレスチナで今何が起こっているか」という企画に興味を示してくれるテレビ番組がなかったのだ。今回も自腹の旅。

 10月にベオグラードに行った。ミロシェビッチ政権が倒れた後のベオグラード、そして1997年に出会った若者たちのその後が知りたかったからだった。さまざまな若者の意見。コシュトニツァ政権になってからの変化。そんな物を撮りまくったが、全く仕事にならなかった。コシュトニツァに偶然会うという快挙もあったのだが、日本のメディアにとってミロシェビッチもコシュトニツァもストイコビッチもみんなまとめてユーゴ人だというだけで関心はなかった。

 そうそう。ユーゴの俺の友達が言っていた。なぜコシュトニツァが大統領に当選したか。ユーゴの有権者にはロマ人、すなわちジプシーが多い。「ジプシーたちは、コシュトニツァとクストリツァを間違えたのさ」と俺の友人。クストリツァはあの名作『アンダーグラウンド』の監督だ。映画に詳しい奴ならこのジョークはよく分るはずだ。ま、とにかくベオグラード行きは一銭にもならなかった。自腹出費50万円。イテエ!パレスチナ行きも保証はなかった。だが行きたかった。なぜか。一言、日本が退屈だからさ。



ガザ。これから要塞に突撃取材。かなりびびっている。「やべえぜ。穴から銃口が見える」

Ж 出発の前の日。重信房子が逮捕された。パレスチナの大義に共感し、世界革命をパレスチナ革命を遂行する中で目的としてきた日本赤軍最後の大物、重信があっさり大阪で逮捕された。昨年の初めには、足立正生らがベイルートから国外追放になって公安に逮捕された。みんな日本に帰ってきた。この28年間、彼らは何をやってたんだろう。28年間、パレスチナ人民のために戦うってどういうことだろう。で、何でパレスチナ人なんだ? 28年間、日本の東京で俺は何をやってきたんだろう。何で今更行きたいのさ。俺も分かんねえ。しかし、個人的にも知っていた足立正生の30年間はとても気になる。

 やっとチューリッヒ発、テル・アビブ行きが出発だ。機内はユダヤ人達で満席だった。真夜中便といってもいいのにおそらくアメリカからきたご一行様はすこぶる元気だった。頭に、小さな丸い布っきれを乗せているところを見ると敬虔なユダヤ教徒なんだろな。マスコミじゃドンパチが伝えられているのに、聖地巡礼とやらに行くんだろうな。無宗教の僕チンとしてはよく理解できないが、約4時間のフライト、とにかく休みたかった。だがなんとこの宗教集団、すこぶるやかましい。

 機内にビートルズが流れりゃ、調子ッパズレでがなるし、エルビスが流れりゃ、顔つきまで真似して仲間に受けようとする。わいわいガヤガヤ、修学旅行よろしく、チョコレートをいろんな奴に投げまくっている馬鹿もいる。スイス航空は全席テレビがついているのだが、隣のオッサンはそれが面白いのか、しょっちゅうスチュアーデスを呼んでは、やれゲームはどうやるのだ、映画はどう見るのだと少しも落ち着かない。その隣のお母さんは、初めての聖地巡礼で興奮してるのか、5秒と黙っていることがなく喋くりまくる。

 人の迷惑なんて一切お構いなし。悪気がない自己中心主義者たち。『やかましい!』と言ってもおそらく通じない。他人が目に入らないのだ。いや他人と同席しているという意識がないのだ。いくら長い間、差別と抑圧の歴史を背負い、ホロコーストの犠牲となった民族だからといって、常識がない輩はやはりいかんのじゃないか?

 はっきり言って田舎者の集団だ。降りる時気がついたのだが、酒飲みすぎてゲロぶちまけている奴もいた。究極の自己中心主義者たち。声でかく、身勝手で、周りに遠慮することがなく、妙な被害者意識を自己チュウの正当化に使いやがって。俺は思わず叫びそうになった。

「ハイル、ヒットラー!!」



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