
息子をキッズ・モデルとして成功させようとするシングルマザーと、そんな母親を冷ややかに見つめつつも心に傷を抱える少年・ケイジの関係を描いた『愛してよ』。シンプルなタイトルが強いインパクトを放つ本作だが、最初はそのストレートすぎるタイトルに監督自身も戸惑ったそう。
「最初はもっと凝ったタイトルを考えてたんですよ。でも、撮影に入るギリギリまで決まらなくて。アイデアが出尽くしたころに、『愛してよ』というタイトル案が出たんです。最初はセンスとしていかがなものかと思ってたんですけど、しばらく仮題として使っているうちに案外いけるんじゃないかと。『愛してる』という表現は使うことがあるけど、『愛してよ』とはあまり言わないじゃないですか。だから、意表を突いたタイトルではあるし、これを見た方にいろんなことを考えてもらえるんじゃないかと思いまして」
「子供の出る映画が撮ってみたかった」と語る監督だが、子供に関わる不幸な事件が頻発している昨今、この映画で目指したものとは?
「最初は子供ばかりが出てくる映画だったんです。でもそれだと企画として成立しづらい。じゃあ、どうするかってなったときに、シングルマザーと少年というのはどうだろうかと。僕自身、子供がいるし、父親なら理解できるんですけど、正直、母親ってわからないんですね。僕は映画としてわかるものは撮りたくないんです。撮ってもつまらないというか、わからないからこそ撮りたいと思うんですね。それに、ここ数年、理不尽な事件がいろいろ起こってるでしょう。子供が被害者であったり、加害者であったり。それに対して、社会論的にはいろいろ言えると思うんですけど、映画の役割はそういうことではなく、まず子供と対峙することではないかと。それに、最近は愛し方がわからない母親がいたり、女性も母親として、ひとりの女性として悩んでいる人が多いと思うんです。だからこそ、それを突き詰めてみたいなと思ったんです」
主役の少年を選ぶときに「10歳の子供にこだわった」というが、その大役に抜擢された塩顕治君には脚本を渡さず、その場その場でリアルな表情を引き出すよう気をつけた。
「僕は昔から役者に脚本を渡さないで撮影することもあるので、そんなに珍しい方法ではないんです。塩にもオーディションでエチュードをやらせてみて、『僕はこう思うけど、君はどう思う?』とストレートにぶつけました。でも、内容的にハードなところがあるので、それがトラウマにならないかと心配で。ある時、彼が母親に殴られるシーンを撮影していたときに、トイレに行ってしばらく出てこないことがあったんです。あとで僕にこっそり『今トイレで泣いちゃった』って言うんで、『痛かったんだろう、ごめんな』って言ったら、『僕の痛さよりも、僕を叩かなきゃいけなかった西田(尚美)ママの方が痛かったと思う。でも、みんなの前に泣くと西田ママが傷つくから、僕はトイレで泣いたんだ』って言うんですよ。彼の感性がそうさせたんでしょうけど、それだけ強い信頼関係が築けたんだと思います。西田さんとも最初にお会いしたときに『僕と共犯になってくれ。僕ひとりでは少年を作り上げることはできない』と言いましたからね。彼女もつらい立場だったと思いますがそこを理解してくれて、母親として、というかひとりの女性として素晴らしい存在感を見せてくれました」
『愛してよ』で描かれるのは、素直に愛に表現できない親子の関係。2人の姿を通して、希薄になりつつある家族のきずなや人間関係の大切さを浮き彫りにしていく。
「今は、大人も子供もコミュニケーションが苦手になっているのかもしれない。コミュニケーションというのは想像力だと思うんですね。でも、そうやって想像力を衰えさせたのは、これまで観客をなめた映画を作っていた僕らなのかも。そう、僕らは人間をなめちゃいけない。たとえ、子供でもなめちゃいけないんですよ。映画に出てくる海辺での撮影シーンでも、(鈴木砂羽演じる)デザイナーのコンセプトは”挑戦的”とか”笑わない”ことなんですね。でも、それは大人のおしつけですよ。この映画に登場する子供たちは、たしかに何かを背負ってはいます。でも、それだけで彼らのことを不幸だとは決めつけないでほしい。どんな子供でも幸せな瞬間はあるわけだし、そのあたりを見過ごさないでほしいんですね。そんな気持ちもあって、最後に子供たちの笑顔を入れたんです。映画というのは見る人の中でしか完結しないものだと思うので、この映画をきっかけに家族や愛について語り合ってもらえたらうれしいですね」
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PROFILE
福岡芳穂 Yoshiho Fukuoka

56年福岡県生まれ。大学在学中から若松プロに参加し、81年に『ビニール本の女 密写全裸』で監督デビュー。82年には磯村一路、周防正行らと製作集団「ユニット5」を結成(現在は消滅)。以後、極道アクションから青春群像劇、人情コメディまで幅広い作品を手がけている。代表作は『danger de mort(ダンジェ)』(99)、『空が、近い』(02)など |
『愛してよ』
●シアター・イメージフォーラムにて12/17(土)公開
10歳の少年ケイジはシングルマザーの母親・美由紀を冷ややかに見つめつつも、彼女の夢につきあってキッズ・モデルをしている。彼はあるデザイナーに気に入られ、オーディションの最終選考にまで残るが、母親の恋人が現われたことでさらに溝を深めていく。
(マジック・アワー=スチューディオスリー配給)
>>『愛してよ』公式サイト |
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