ある意味私は、映画における成功の犠牲者であったと言えるかもしれません。
 半ズボン姿の少年達による、稲刈り跡の田んぼでの凧揚げ風景。そんなノスタルジックな場面から始まる“昭和感”漂う映画−『狼少女』。田舎町に突如出現したおどろおどろしい見世物小屋と、同じクラスに転校してきた美少女の存在が、気になって仕方がない小学4年生の明の日常が淡々と紡がれてゆく。
 この『狼少女』は、ミュージシャンのあがた森魚がディレクターを務める函館港イルミナシオン映画祭の2003年度長編部門シナリオ大賞グランプリ受賞作が原案となっている。深川監督は、同年の短編部門の準グランプリ受賞作である『自転少年』('04)の監督も手がけており、函館港イルミナシオン映画祭とは縁の深〜い人なのだ。
 「『自転少年』を映画祭で上映した時に、それを観たプロデューサーの方が気に入ってくれたのが、今回の起用に繋がったんです。同じ子供が主人公の脚本だったので、イメージしやすかったのかもしれませんね」

 ちなみに『自転少年』を監督したのも、2001年度のPFFアワード入選作『自転車とハイヒール』('00)を観たあがた森魚が絶賛したのがきっかけ。『自転少年』ではあがた森魚みずから音楽を担当したのだが、大御所ミュージシャンに対して、当時27歳の深川監督がダメ出ししたという、新人離れした逸話(!?)がある。『狼少女』でも、やはりベテランの脚本家(ディレクターズ・カンパニーに参加していた気鋭の女流脚本家・小川智子)を前にして、ダメ出しを?
 「そうですね(アッサリ)。色々とあったと思いますが、印象に残っているのはラストシーンかな。主人公の子供たちが大切なメッセージを伝え合う場面なんですが、冒頭の凧揚げのシーンとリンクして、ラストも凧で想いを伝えるというシナリオだったんです。でも結局、彼らの口からダイレクトに伝えたい…と思って、直接言葉を交わすシーンに変えてもらったんです」



 
 温和そうな笑顔と丁寧な口調に相反して、時折り見せるガンコな“監督気質”。おそらく映画的な完成度より、深川監督がこだわったのは、子供のリアルな存在感ではないだろうか。『狼少女』は、子供ならではの率直な視点がそのまま活かされた、素朴な仕草やセリフの面白さが際立っている。今回の『狼少女』だけでなく、前作の『自転車とハイヒール』や『自転少年』など、小学生が主人公の映画を数多く手がけてきた深川監督だが、子役の演出に、何かコツでもあるのだろうか?
 「他の監督がどういう演出をするのか知らないけれど、僕の場合は子役に指示を出すだけでなく、役の心情や状況を細かく説明していくんですよ。もちろん理解できない子供もいるし、『自転少年』の時はもっと幼かったせいもあって、なだめすかして、騙し騙しやっていた部分もありますけどね(笑)。今回は勘のいい子が多かったし、映画に対する情熱がみんな強かった。インフルエンザにかかって発熱した子もいたけど、撮影に参加していたりね。それに、中には天才肌の子もいました(笑)。悪ガキ3人組の一番太った子。彼は説明して注文をつけると、頭が混乱してしまうらしく、同じ演技が二度と出来なくなる。だから基本は一発テイク(笑)。でもスタッフ全員が彼の事を妙に好きになってねぇ。何とも言えない、いいキャラクターなんですよ」

 映画にはそんなほのぼのした現場の雰囲気が、そのままにじみ出ている。野球帽を被った半ズボン姿の少年や、先生に告げ口する“いい子ぶりっ子”なマセた女子など、ひと昔前のリアルな小学生像が、だからこそ引き立つのだ。私も監督と同じ76年生まれだからかもしれないが、その小学生たちの言動が、これまた妙に懐かしく不思議と後を引く。
 「感覚としては僕の子供の頃の記憶とリンクしているんです。いましたよね、真冬でも半ズボンの奴(笑)。僕自身の記憶の中での小学生は、野球帽に半ズボン、おマセな女の子達なんです。キャラクターは子供の頃の友達を想定していたりもしますよ。僕も出てますし…」
 そう、何と『狼少女』の明は深川監督自身。一見、ボンヤリとした優柔不断に見えて(失礼!)、一旦ハマると猪突猛進のごとく没頭するタイプ。ちなみに、『紀雄の部屋』は監督自身の失恋エピソードから着想を得たというが、本作では監督の子供時代のエピソードがふんだんに盛り込まれている。函館港イルミナシオン映画祭での必然的な出会いがあったにせよ、三度挑戦した“子供映画”には、深川監督も独特の思い入れがあるようだ。
 「僕の中で今回の『狼少女』は、ズッコケ三人組のような子供の物語なんです。昔は『グーニーズ』('85)だとか『E.T.』('82)だとか、子供が中心の冒険活劇っていっぱいあったじゃないですか。子供が主人公のエンターテインメントって、僕はすごく必要なジャンルだと思って作っているんですが、いまのお客さんが求めている映画なのかどうか…。実は一番そこが気になるんです」

 
 自分の作ったものがどう受け入れられているのか、その反応を自分の目で見たい、確かめたい。(偏見かもしれないが)自主映画出身の監督にしては、自作に対しての責任感が非常に強い気がする。お金をもらって見せる商業映画だからこそ、お客さんに満足してもらえる商品でなければならない、と深川監督は言う。今後も、『リンダ リンダ リンダ』('05)などを輩出した、日本映画エンジェル大賞受賞作『水の中のホームベース』の製作が控えており、監督への注目度も責任も増していくのは必至。だが、深川監督はいたってマイペースだ。
 「僕はこれまで低予算のミニマムな映画を作ってきたんですけど、どういう年代層のお客さんが入ったのか、反応はどうだったのか。自分の目で見て実感したいですよね。だから公開している最中は、ロビーに張り付いて、お客さんの感想を直接聞いたりしてるんです。自分の中で“ロビー活動”って名付けてるんですけどね(笑)。今後もできる限り、そうやって映画を作っていきたいし、どういう出会いがあって、どんな人に影響されて映画を作るか分からないけど、いい出会いがあればいい映画になる。自分でも今後が楽しみなんです」



PROFILE
深川栄洋 Yoshihiro Fukagawa


'76年千葉県生まれ。『ジャイアントナキムシ』('99)、『自転車とハイヒール』('00)が、連続してPFFに入選。また函館港イルミナシオン映画祭のシナリオ大賞受賞作『自転少年』('04)、『狼少女』('05)の監督を手がけ、劇場公開デビューも果たす。今後も第5回日本映画エンジェル大賞を獲得した『水の中のホームベース』の製作が控える





『狼少女』
●テアトル新宿にて12/3(土)連日レイト&限定モーニング公開

見世物小屋に心惹かれる多感な小学生の日常を、ノスタルジックな昭和の風景とともに紡ぐ群像劇。子供たちの親を大塚寧々、利重剛らが演じるほか、深川監督が出演を熱望したなぎら健壱、田口トモロヲら個性派キャストの妙演も見もの!
(バサラ・ピクチャーズ配給)

>>『狼少女』公式サイト


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