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「メジャーの後というのは、特別、意識はしてないっスよ。キャスティングする上でも有利に働いたし、逆に楽でしたけどね」
大ヒットした『69 sixty nine』のあとということで、少なからず“気負い”はあるだろうという、筆者の期待(!?)に反して、ノ〜ンビリとした口調で話し始めた李相日監督。長身でガタイのいい監督が部屋に入ってきた時、(監督自身が選んだ)花柄のシャツという服装にまずギャップを覚えた。初監督作『青〜chong〜』('99)では在日朝鮮人のアイデンティティを、第2作の『BORDER
LINE』('03)ではドロップアウトした現代人の心の闇を描き、そのときどきの時代性を反映させたどこか挑発的な作風から、私が勝手に“トッポイ”イメージを創り上げてしまったからだろうか。実際にお会いすると、語り口も表情も、非常にソフトな印象を受ける。
「普通にダラダラ生きてても、30歳を過ぎる頃になると、日本で生きていくってこんな感じなのかなって、漠然と見えてくることってありますよね。中学や高校の時、30歳ってすごく“大人”な感じだったじゃないですか。でも自分が実際に30歳になった今、10代の頃に想像していた自分と一緒なんだろうかというのが、今回の企画を考えるきっかけだったんですね。結果的に僕はたまたま映画監督になったけど、もしかしたら焼肉屋とかパチンコ屋の店員になってたかもしれない。一歩間違ってたら、日常に不満や苛立ちを常に感じながら、グズグズ生きてたかもしれないなって、最近よく思うんです」
李監督が言うとおり、映画には30歳前後の人間がリアルに感じる今のポジションへの焦り、漠然とした苛立ちがギュウギュウに詰め込まれている。ちなみに李相日監督は、今年31歳。映画の中では、これは監督の想いそのままではないだろうかと勘ぐってしまうほど胸中に肉迫したセリフが、オダギリジョーが演じる“テツ”の口から発せられる。「世の中、痛みを知らないバカばっかりなんだッ!!」。そしてその言葉によりリアリティをもたせるかのように、映画の中には殴られる“痛い”シーンが二度三度と登場するのだ。
「結局、殴られたことのない人は、殴ったら痛いということすら分からないですよね。僕は普通に殴られて育ったんで、実感としての“痛み”を知ってる。僕が通っていた朝鮮学校では、先生に鉄の棒で頭殴られて血を流すとか、女の子なのに平手打ちくらって吹っ飛んだりとか、そういうことが日常的にあったんです。今の日本の学校では考えられないですよね。例えば、僕はサッカーゲームが大好きなクセに、やってる奴を見ると『自分でやれよ、サッカーを!』って思うわけ(笑)。もちろん、殴り合いを体感しましょうということではなくて、体で覚える感覚が段々と減っていってるなって。そしてそれが絶対いいことに繋がってないと思うんですよ」
監督によると、作品を通じて訴えたかったメッセージは、社会のルールに縛られない自由人である“テツ”のセリフに集約したというが、組織に馴染めずに日々の不満を募らせる警察官“シンゴ”(加瀬亮)の方が、30代にとっては共感しやすいキャラクターなのではないだろうか。前半は“テツ”に振り回されっぱなしで、どこか印象の薄かった“シンゴ”だが、後半は感情を剥き出しにさせ、血の通った人間臭い内面を見せる。映画の印象も彼の変貌に連鎖するようにガラリと変わっていくのだが、その落差がまた面白い。
「前半と後半では、映画のつくりが全然違うんです。撮影方法も微妙に違うし、それは最初から狙っていたというか、入口と出口が全く違う映画って個人的に好きなんですよね。前半は、復讐ゲームに至る過程や人物紹介をしながらテンションを高めていって、お客さんを引っ張っていく。だから楽しむための装飾も多いんですね。でも後半は、お客さんを置き去りにし過ぎかな?と心配もしつつも、もともと自分がこの映画でやりたかった想いをストレートに吐き出しちゃった感じですね。『69 sixty
nine』では、最初から最後までお客さんのために作ったし、今回は途中からもういいや…って(笑)」
ほかの登場人物たちが、自分なりにモヤモヤした日常に終止符を打ち、何かしらのアクションを起こしていくなかで、主人公の“シンゴ”の行く末は、ある種、観る者にその結末を委ねている。その印象的なラストシーンにこそ、李監督が『スクラップ・ヘブン』で表現したかった“同世代のリアル”が顕著に表れていると思うのだが…。
「コレどうやったら終わるんだろうって、実は最後まで決まらなかった部分なんです。もともとこの映画は、どこにでもいそうなごく普通の人間だった“シンゴ”が、復讐というアクションを繰り返すうちに、とんでもないところにいってしまう…みたいなイメージがあった。そして終盤、“シンゴ”にとって予想しえなかったピンチが降りかかるワケです。じゃあ、そこで彼は一体どうするのか。僕としては、何だか現実逃避できない状況に追い込まれてしまったんですよ(笑)。ただ、この作品に関しては、主人公の行く末を提示するよりも、これからどうやって生きていくのか、観てる人にも一緒に考えてもらいたかった。そういう意味では、人生を選びきれない、30代の等身大の“リアル”な映画になったのかもしれませんね(笑)」 |
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PROFILE
李相日 リ・サンイル

'74年新潟県生まれ。高校まで横浜の朝鮮学校に通う。大学卒業後、日本映画学校に入学し、卒業制作の『青〜chong〜』('99)がPFFアワードでグランプリを受賞。そのスカラシップ制度で製作された『BORDER
LINE』('03)が高く評価されて、メジャー作品『69 sixty nine』('04)に起用される。いま最も注目を集める若手監督のひとり |
『スクラップ・ヘブン』
●10月8日(土) シネ・アミューズ イースト/ウエストほかにて公開
加瀬亮、オダギリジョー、栗山千明ら若手実力派が競演したシニカルな人間ドラマ。バスジャック事件に巻き込まれ、生死の境を共に経験した男女。それぞれに抱く世の中への不満から、彼らは危険な復讐ゲームにのめり込んでいく。監督が最も苦労したというロケ地探しが功を相した“終末感”溢れるビジュアルにも注目!(オフィス・シロウズ=シネカノン配給)
>>『スクラップ・ヘブン』公式サイト |
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