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『氷の接吻』

大森さわこ
text by Sawako Omori
悪女ものなんかじゃなく父を求める女と娘を失った男の純愛
 すごい映画ではないが、ちょっと心にひっかかる“拾い物”。邦題を聞くと、あの大ヒットした悪女もの、を思い出すが、実は違う。

 殺人犯とおぼしき女を、望遠鏡でピーピング・トムする任務を背負った英国諜報部員。いろんな男を誘い、毒牙にかける女。しかし、彼は次第に女を愛し始める。

 物語は、ありきたりだが、まぶしてあるエッセンスが、そこいらの“のぞき映画”“悪女映画”とは違う。後半、ジェヌヴィエーヴ・ビジョルド(老けてますけど)が登場。彼女が主演したデ・パルマの傑作『愛のメモリー』を思わせる雰囲気と内容だ。ジャジーな音楽の使い方はビジョルドと縁の深いアラン・ルドルフ調。監督は『プリシラ』の人。

 女が男たちを誘惑するのは、子供の頃に去った父親の愛を求めているから。幼年期のトラウマから逃れられない女。一方、男の方は娘を失った男。いつも幼い少女の幻がつきまとう。父を求める女と娘を求める男。ふたりの静かな愛が、なんだか切ない。

 俳優で光っているのは、諜報部員のユアン・マクレガー。これまでで、彼が一番美しい映画じゃないかな。白いコットン・シャツと黒のズボンがよく似合う。アイ(目)という名前で、愛する女を見つめ続ける男。その哀しく、繊細な視線。“アイズ・オブ・ザ・ビホルダー”(美は見る人の瞳の中に宿る)という格言を引用した原題にも味がある。

 “悪女もの”じゃなくて、孤独な女を愛しぬいた孤独な男の“純愛映画”です。
EYE OF THE BEHOLDER
監督:ステファン・エリオット 
出演:ユアン・マクレガー
   アシュレイ・ジャッド
1999年 アメリカ
1時間45分
16000円
日本ヘラルド映画
8月25日発売


 

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