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『スプリング・イン・ホームタウン』

森 世一
text by Seiichi Mori
シンプルな音が呼び起こす映像
 どこかで見たことのある牧歌的風景にただよう、ある種の映像のリリシズムに感動するというよりは、そのリリシズムを演出するピアノに感動した。これは、驚くべき時間軸と映像を共有している音楽である。

 映像も音も実にシンプル。楽器はピアノ、フルート、バイオリンそれぞれが個別に登場し、ひとつのメロディーが奏でられ、そして1つの曲が終わる。この素朴さをどう伝えればいいのだろうか。

 昔、1つの音(例えばドの音)を、10分も20分もずっと鳴らしつづけていくという曲があって、奇妙な感動におそわれたことがあったが、それに近い。しかもこれに、多様なイメージにあふれた映像空間が加わる。

 
 
『スプリング・イン・ホームタウン』
SPRNG IN HOMETOWN

輸入盤
音楽:ウォン・イル
1995年、知人の紹介でチャン・ソヌが監督した「映画誕生100周年記念ドキュメンタリー」の中の1作品の音楽を担当。その後、『つぼみ』('96)で大鐘賞音楽賞を受賞、本作『スプリング〜』でも同賞を獲得している。パーカッション・グループ“プリ(PURI)”のリーダーとしても何度か来日を果たし、現在、韓国で最も期待されている音楽家
 主人公の少年から見えるある種の貧しさ、豊かさ、心のひだ。お金で買われる女の風景。この時代では高価なラジオとレコード。そこから流れる日本のメロディー。学校で歌わせられる唱歌とオルガンの音。セリフも収録されている。

 懸命に音を聴く。なつかしさという甘い郷愁だけではない。映像が語りかけてくる時代のきびしさと拮抗する音である。ここには装飾された音楽はない、それは冷たい感情を表すかのようだが、もっと根源的な心の解放を歌いあげている。まさしく“音の前衛”(前衛音楽という意味ではない)が存在する傑作だと思う。


 

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