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『松村禎三の世界』

森 世一
text by Seiichi Mori
人間愛にあふれた音づくり
 極度の緊張感と弛緩。甘いメロディーの中にかくされたきびしさ。ここには、ひとつの日本映画史が収められており、その映画史は実に偏ったものだが実に一貫性がある。その一貫性とは、時代における新奇なものを頑固なまでに排除した、昔ながらの映画音楽らしい音楽(テーマソングとなりうるメロディー)の存在であり、それが実際の画面 で描かれてゆく人間の「美しさと、どうしようもない業(ごう)」のテーマに折り重なってゆく。それは特に社会派監督・熊井啓がつむぎ出すテーマであった。

 『忍ぶ川』(72・熊井啓)で雪が一心に降りそそぐ。もう人間がここではとうてい生きてゆけないほど、その雪が主人公に降りそそぐ。そこにダブるように、ギターの音色が流れる。ギターの音色にはキビシさがあるのだが、やはり同時にそれを暖かく見守るという情(じょう)までも描かれる。なんて美しいのだろうと思う。

 そういう美しさは『とべない沈黙』(66・黒木和雄)でも、映像は心情を何も語らず寡黙な時間が過ぎるばかりだが、たとえばユーモラスに映画に登場する「さなぎ」を代弁するかのような音楽など、やはりここでもこぼれてくるかのような人間への暖かいまなざしの音楽になっている。人間愛にあふれた音づくりを堪能する。
 
 
松村禎三
朝焼けの詩 とべない沈黙 祭りの準備 他全18曲
ポリスター 2095円


 黒木和雄監督(岩波映画出身)のコンビということもありPR映画作品もここには収録されていて、北海道電力のPR作品『わが愛・北海道』などの音源もある。1978年に出たアナログ盤に『月山』『暗室』を含め8曲を追加。この中で見ていないものが2本。ぜひ音だけでなく、映像と音を確認してみたい。


 

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