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『ウォーターボーイズ』

加藤久徳
text by Hisanori Kato
暗く淀んだ21世紀だからこそ、純粋でアナログな映画に逢いたかった!
 ホモ映画でもないのに、男の裸が延々と画面に並んでいく。ぜい肉のかけらもなく、アジア男特有の綺麗な肌が自然体で描写されるので、この映画にはイヤラシさというものがない。(矢口史靖の映画にエロティックなどというものは、もともと皆無なのだが)。いや、ないのはイヤラシさだけではない。この映画には、現代青春映画を形作る要素の最も重要な部分が何もない。登場する高校にはイジメも校内暴力もなく、主人公たちには家庭問題もない(両親や兄弟さえも画面に登場しない)。進学問題もない。彼らが住む町の空は青く澄み渡り、経済不況も環境問題もなく、社会の暗さは微塵も画面に現れない。商店街で生活を営む人々は善良で優しく、ゲイバーのマダムこそ登場するが、心は豊かである。この映画が描くのは、若さと恋と友情の素晴らしさ! 青春映画の根幹だけだ。もうひとつオマケを付け加えるなら、目上や年長者に対する尊敬の念、ということになる。

 暗く淀んだ21世紀に、ストレスになりそうな問題点が何もない青春映画が出来るとは、ただもう絶句するばかりだが、しかし、だからこそ、こういう純粋な映画に逢いたかった。ひとつのことにむきになれる十代の素晴らしさをこれだけ謳い上げた映画を僕は知らない(おっと『けんかえれじい』があったかな。でも、あの映画は軍国主義時代のお話だ)。配給の東宝は戦後、十代の若者たちの性意識を描いた『思春期』('52)を発表して従来の青春映画の概念を塗り替え、加山雄三の『若大将シリーズ』('67〜'71)では現実の学生運動とは無関係に、おおらかなキャンパス生活を映画に取り込んで成功させた映画会社。『ウォーターボーイズ』が登場するのは当然の帰結なのだろう。

 矢口監督の演出は、過去の旧作『ひみつの花園』、『アドレナリンドライブ』と比べて大きな変化があるわけではない。5人組がシンクロへ行く道筋をギャグ一辺倒で説明する前半は矢口ワールドそのまま。でも、そのスタイルこそが彼らしい。後半のストーリー・テリングは強引に見えるが、巧みなスピード感で気にならない。彼の演出の腕前は確実にアップしているのだ。

 とにかく驚いたのは、いまどきパソコンも携帯も高校生の喫煙も出てこないアナログな青春映画が作れたという事実(唯一、ゲームセンターが登場するので、年代が特定されてしまうが)。こういう映画って、何年たっても古めかしくはならないものだ。その点で本作の主役たちは運がいい。
監督・脚本:矢口史靖
出演:妻夫木聡/玉木宏/三浦哲郁/近藤公園/金子貴俊/平山綾/眞鍋かをり/竹中直人/杉本哲太/谷啓/柄本明
2001年日本
1時間31分
配給:東宝


●埼玉県立川越高校水泳部が、毎年文化祭に行なっている人気演目“男のシンクロ”をモデルに映画化。200人から選ばれた28人のウォーターボーイズが魅せる、ダイナミックなシンクロ演技は圧巻。怪しいイルカの調教師に扮した竹中直人、オカマ・バーのママに扮した柄本明ら、共演者の顔ぶれも豪華。


http://www.waterboys.to/


 

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