この映画には、女はボスの女房しか出てこない(通行人は別だ)。ストイックに見えるが必ずしもそうではなく、香港暗黒街をリアルに描こうと思えば、必然的に答えはこうなるのだろう。それが本当の裏社会というもの。別に女が邪魔だから劇中に出てこないわけではなく、出てくる理由がないからだ。女が出ないとすると結果として何が起こるかというと、二枚目のスターが出る必要がない!ということになる。この映画、単に“ノン・スター映画”と決めつけられない正当な理由が、しっかりと存在しているのである。
『古惑仔』シリーズのような楽天的な溌剌さはなく、全編に漂うのは大人のプロフェッショナリズム。ヒロイズムじゃない。敵も味方も全知全能傾けて殺しあう姿には、真剣に仕事に没頭する大人の切実さがあり、家庭的なものは一切ない。つまり、無駄がない(映画が81分で終わるのは当然だ)。それなのにこの映画は、彼らの日常的な部分の描写がとてもいい。息苦しいほどのダンディズムだけで構成されているような本作に潤いを持たせ、口当たりのいい秀作に仕立てたのはこの日常的な部分の良さによる。
一見、往年の日本映画のプログラム・ピクチャー(添え物の方だ)も思わせるが、役者のスピード感は日本映画にはないものだし、安っぽさが見当たらない。明らかに異質だ。いや、従来の香港アクションとも異質だ。構成も緊密で香港映画特有のアドリブを感じない。チョウ・ユンファ健在の黄金期の香港映画界は、ライバル会社の盗作が盛んで、現場にはシナリオというものが存在しなかった。役者は次のシーンの自分の動きを知らずに演技をしているのが普通だった。衰退期に作られた『ザ・ミッション 非情の掟』では、役者たちの動きには計算が見られる。破綻がない。この映画にはシナリオが確実に存在する。はっきり言って驚きだ。ラスト・カットまでエモーションが持続するのは、演出、映像、俳優の力以上にシナリオの成果だと自分は思う。 |
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鎗火
監督・脚本:ジョニー・トー
脚本:ヤウ・ナイホイ
撮影:チェン・チュウキョン
出演:アンソニー・ウォン/フランシス・ン/ロイ・チョン/ジャッキー・ロイ/ラム・シュー/サイモン・ヤム
2000年香港
1時間21分
配給:ヤン・エンタープライズ
●第19回香港電影金像奨(香港アカデミー賞)最優秀監督賞をはじめ、香港・台湾の映画賞を総ナメにした話題作。何者かに命を狙われた黒社会のボスを守るために召集された、5人の男たちの運命を描き出すハードボイルドの傑作。監督は『ヒーロー・ネバー・ダイ』('98)のベテラン、ジョニー・トー。
http://www.yang-enterprise.com/
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