この作品は、あらゆる意味で“万人向けのドキュメンタリー”だ。プロレスを知っている人も知らない人も“最後まで楽しめる”点で万人向けだ。かつてジーン・ハックマンが来日記者会見で言っていた。「映画はいい。嘘がつけてお金が儲かる」と。もっともなことだと当時はおおいに納得したものだ。この『ビヨンド・ザ・マット』は、現在のアメリカ・プロレスの最大勢力となっているWWFという団体の内幕を描くもので、ここでは試合場の選手、テレビマン、裏方たちが、その日の試合の段取りと筋書きを事細かにチェックしている姿が映し出される。それを見ると、「プロレスはいい。嘘がつけてお金が儲かる」と公言されているようで、“プロレスこそ最強のスポーツ”と信じて生きてきた僕には辛いことなのだ。プロレスなんか“八百長”“見世物”と悟っている人にはどうということはないのだろうが、僕にとっては“踏み絵”に等しいドキュメンタリーだ。この気持ちを持つ人は僕だけではあるまい。
作品の真の目的はプロレス界の暴露ではなく、実際にリングに上がるレスラーたちの日常を記録的に捉えることだ。「嘘をついてお金を儲けた」連中の実態はどんなものなのか。作者のブロウスティンは彼らに哀惜の念を込めて描き、それがとても泣かせる。レスラーが受ける体の痛みと心の痛みが存分に伝わってくる。彼は真のプロレス・ファンだと思う。
それでも、この“万人向けの、感動ドキュメンタリー”は認めたくない。K−1やPRIDEなどの格闘技界と密接な関わりを持つ日本のプロレス界では、公開してほしくないシロモノだろう。腹痛を起こしそうだ。
本作で重要な証言者として登場するテリー・ファンクの存在がヤッカイだ。彼は日本プロレス界の功労者であるから、作中での彼の登場は日本プロレス界の嘘を容認するのと同じことだ。馬場、猪木、鶴田らが全盛期の頃に対戦した時の彼のファイト・スタイルは悪い意味でのショーマン・シップを前面に出す2流レスラー。世界チャンピオンであろうと1流と思ったことはなかった。その彼が『ビヨンド・ザ・マット』に証言者として姿を見せるのは象徴的だ。“やっぱり、そうか”とプロレスの嘘をついに僕も認めることになるからだ。悲しいよ…。
出来のいいドキュメンタリー(ベストワンと言って差し支えない)だからといっても、決して喜べないものがあるという見本かもしれない。 |
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BEYOND THE MAT
監督・製作・ナレーション脚本:バリー・W・ブラウスティン
撮影:マイケル・グレイディ
出演:ビンス・マクマホン/ダレン・ドロスドフ/ローランド・アレクサンダー/トニー・ジョーンズ/テリー・ファンク/マイク・モデスト
1999年アメリカ
1時間43分
配給:クロックワークス
●世界中で大人気のプロレス団体WWF(ワールド・レスリング・フェデレーション)の選手に迫ったドキュメンタリーの傑作。『ナッティ・プロフェッサー クランプ教授の場合』('96)などの脚本家バリー・W・ブラウスティンが、プロレスの世界に命を賭ける男たちと、彼らを見守る家族たちの姿を赤裸々に綴っていく。アメリカで興行収入2億ドルをたたきだし、数々の映画祭で賞を獲得している。

http://www.klockworx.com/beyond/
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