『青いパパイヤの香り』で知られるフランス在住のベトナム人監督トラン・アン・ユンの新作『夏至』が好きだ。この監督はデビュー作の『青いパパイヤの香り』『シクロ』と、戦争で追われた故郷ベトナムを舞台にした作品を発表し続け、3作目の『夏至』はいわば“ベトナム3部作”の最終章ともいえる。近代化の進む現代のベトナムの都市ハノイに住む3姉妹のそれぞれの愛情生活を描いている。その言葉少なの登場人物たちの優美な動き、ゆったりとした時間の流れ。そしてなにより、汗の粒の浮いた顔や髪を洗う女性の濡れた肩のアップ、朝陽にはえる一枚の葉や昼の強い日差しをさえぎるすだれと青みを帯びた部屋など、耽美的な映像は刺激的だ。
じつのところ、この“ユン・ワールド”は、好きと嫌いの両極端に別れる傾向がある。嫌い派は、じれったいほどゆっくりと流れる時間を退屈だと思い、寡黙な登場人物たちを思わせぶりと、感じるらしい。しかし、逆に筆者を含めた好き派は、そのゆったり感こそ至福の時であり、登場人物の沈黙に官能の香りを嗅ぎ取る。とにかく、いつまでも身をゆだねていたいと思うのだ。
「僕は建物とか街といった外観にはまったく興味がない。そこに暮す人間の、その心の奥底のヒダにしか興味がないんだ。だから、必然的に細かいディテールを捕らえた映像が多くなるし、もし、背景にそれ以外の物が映り込むようなら消してしまう。それが、僕の作家性であり、アートというものだ」という、ユン監督。
この言葉を胸に見れば、より納得の3作品。うーん、誤解を恐れずにいえば、このまったりとしたユン・ワールドを堪能するには、やはり見る者も心と時間のゆとりが必要、だと思うのだが。いかがだろうか? |
 |
 |
 |
A LA VERTICALE
DE LETE
監督・脚本:台詞:トラン・アン・ユン
撮影:リーピンビン
出演:トラン・ヌー・イエン・ケー/グエン・ニュー・クイン/レ・カイン/ゴー・クアン・ハイ
2000年フランス、ベトナム
1時間52分
配給:アスミック・エース
● ベトナムのハノイでカフェを営む3人姉妹の愛を描くドラマ。母の命日に集まった姉妹が、母の秘めた思いを知ったことで、それぞれの愛に向き合っていく姿を、官能的とも言える映像美で表現していく。主演は監督の公私にわたるパートナー、トラン・ヌー・イエン・ケー。

http://ge-shi.com/ |
|
|