TVシリーズの方は、子供に見せたくない有害番組のワーストに入っているという。『ドラえもん』のように、子供たちの素朴な友情や、明るい夢の実現を描いていないのがワーストの理由なのだろう。今回の映画版は、世の風評を逆手にとって、いまだ先行きの見えない暗黒日本社会の中を“大人”であることの義務を行使するために生きている親たちの心に“郷愁”を吹き込んで、泣かせるために作ったアニメだと思う。それも、癒しと呼ぶよりメフィストを思わせる誘惑に満ち満ちている。
まだ未来に対して夢があり、街には素朴な風情と人情があった70年代の世界に、親たちを引き戻そうとする<オトナ帝国>の一団が登場する。彼らの提唱する回帰への理論には恐ろしいほどの説得力があり、見ているこちらも引き込まれるほどだ。劇中に登場する20世紀博のテーマパークの中に作られた70年代(60年代にも見えるが)の街並みに漂う“郷愁”の絵柄には、“素朴”で泣けるものがある。贅を尽くした70年代ヒット曲の絶妙な使い方も見事。『クレヨンしんちゃん』を悪く言う大人(親)たちに対して、「あんた本当は、自分が子供になりたいんだろう」という、作り手たちの嘲笑が見えてくるのである。
それにしてもリアルだ。オトナ帝国の作戦で洗脳された、しんのすけの両親が“不良少年”と化して大人を放棄し、しんのすけに“反抗的態度”をとるシーンがあるが、子育ての出来ない親が増えている今日を考えると、空恐ろしいシーンに見える。翌朝、親が信じられなくなったしんのすけが、妹のひまわりを背中に背負って幼稚園に出かけようとする。変態児童の見本のように描かれてきたしんのすけが、あらゆる意味で頼れる人間として描かれた最初ではなかろうか。本作を見に来た子供たちが、彼のように兄弟に対して優しさと責任感を持つ子供になってくれるなら、この作品が作られた価値はあると思う。 |
|

©臼井儀人/双葉社・シンエイ・テレビ朝日 2001 |
 |
監督・脚本:原恵一
原作:臼井儀人
声の出演:矢島晶子/ならはしみき/藤原啓治/こおろぎさとみ
2001年
1時間29分
配給:東宝
公開中
● 人気アニメ・シリーズの映画版第9弾。子供に戻った大人たちを元の世界に戻すため、嵐を呼ぶ児童・しんのすけが大奮闘!

http://www.shinchan-movie.com
|
|
|