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『ハリー、見知らぬ友人』

高橋諭治
text by Yuji Takahashi
ストレス漬けの現代人御用達のサイコ
 主人公ミシェルは平凡が服を着て歩いているような男だ。美しい妻とともにせっかくのバカンス旅行に出発したというのに、クーラーのない自動車の内部は蒸し風呂状態で極めて不快。幼い娘ふたりはああだこうだと反抗的な態度をとって泣きわめき、助手席の妻までがヒステリーを起こす…。まさしく世にも恐ろしい光景だ。もし自分が結婚していたらこんなひどい目に遭っていたところだ。独身三十男の筆者は、この映画のオープニングを見てゾッとしながら胸をなで下ろした。

『ハリー、見知らぬ友人』は、そんなストレスだらけの結婚生活にどっぷり浸かったミシェルが、ハリーという“見知らぬ友人”との出会いによって解放されていく物語だ。一切の見返りを求めず、XXな行為にまで手を染めてミシェルの人生を好転させようとする常識外れの親切男ハリーの人物像は、映画史上最もミステリアスなサイコといっていい。

 ハリーとはいったい何者なのか、という最も根本的な謎を残したまま幕を閉じてしまう不思議なドラマに首をひねる人もいるかもしれないが、むしろさまざまな解釈ができる実に“うまい”映画だと思う。ミシェルのつらい立場に共感してしまった人には、ハリーが少々荒っぽい天使のように見えるだろうし、エンドロールの最中に目を覚ましたうかつな人は「すべて夢だったのではないか」などと納得することができる。もちろん筆者のような結婚恐怖症の人も大丈夫だ。ファースト・シーンとラスト・シーンが、これほど見事な対を為している映画は珍しいのだから。
 
HARRY UN AMI QUI VOUS VEUT DU BIEN
監督・脚本:ドミニク・モル
脚本:ジル・マルション
出演:セルジ・ロペス/ローラン・リュカ
2000年フランス
1時間52分
配給:セテラ
5月上旬公開予定


 

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