「FILM」
「DVD」
「VIDEO」
「SOUND TRACK」
「BOOK」
 


 
『ギター弾きの恋』

清水 節
text by Takashi Shimizu
名監督の魅力あふれる“分身”
 たいてい本人によって演じられていたウディ・アレン映画の、いじいじとして理屈ばかりこねる主人公には辟易したものだ。結局のところ「こんなボクちゃんだけど許してね」って開き直りにしか思えず、スポ根マンガで育った世代としては張り倒したくなってしまったのだ。ところが、あちらも女性遍歴を重ね挫折を繰り返し、「こんなボク、やっぱダメすか?」程度に変化して、こちらも歳を重ねて円くなるにしたがって、コミュニケーションで苦労してるという意味じゃ、同じ穴のムジナかもしれないと思い始めてから、たちまち彼の近作には愛着さえ覚えてきた。

 ケネス・ブラナーが彼自身を演じたときにはウディのものまね大会にしか見えなかったのだが、30年代のジプシー・ジャズ・ミュージシャンに自分の想いを託したこの映画の主人公のダメ男ぶりは、これまでと様相が違うのだ。“いい女”とはうまくいかず、最も愛すべき女性が口の聞けない娘という設定は、一方的にウディが言い寄り、あるいは「君は黙ってボクの言うことだけ聞いててくれればいいんだから」って関係のデフォルメにさえ思えてくる。しかし、この映画にこれまでのダメ男とは違った魅力を与えたのは、他ならぬショーン・ペンである。いくらダメ男でも、あの天才的なギターの音色を聞かされちゃあ、その他の欠点はぜんぶ許してしまいたくもなる。ウディにもあったはずのアーティストとしての才能が、ショーン・ペンというエキセントリックながらも、詩人の心をもった男の肉体を借りて初めて感じ取ることができたような気がする。

 名監督はみんな自分を美化した分身を持つものだが、ウディの長所を際立たせるために、自堕落なのに“ボクちゃん”に陥らず、“オレさま”を感じさせるショーン・ペンは最高のキャスティングだったのだ。
SWEET AND LOWDOWN
監督・脚本・出演:ウディ・アレン
出演:ショーン・ペン/サマンサ・モートン/ユマ・サーマン
1999年アメリカ
1時間35分
配給:ギャガ
公開中



http://www.so-net.ne.jp/guitar/


 

「スロウトレイン」に掲載の記事・写真・カット等の無断転載を禁じます。© Works m bros.