サッチャー政権誕生以前の70年代、いわゆる英国病の真っ直中にあるグラスゴーを舞台にした作品だ。低所得者層アパートに暮らす12歳の少年ジェイムズがたどる過酷な運命を描いたもので、至る所に黒いゴミ袋が散乱する広場や路地では、子供たちがネズミ狩り(原題の「RATCATCHER」はここからきている)にふける不衛生な光景が展開される。ジェイムズが家の中でママにシラミを捕ってもらう様子は、こちらの頭までがかゆくなってくる。
自分の兄の幼少期をベースに本作を撮ったという新人監督のリン・ラムジーは、少年がこうした日常世界から静かに逸脱していく“違和感”に焦点を当てている。汚濁した水路やガラス窓に人影が揺らめくショットのただごとならぬ不気味さは、ほとんどオカルト映画のそれであり、物陰からこっそり覗いているようなカメラの位置も普通ではない。ケン・ローチ的な社会派リアリズムの視点だけでは語り尽くせない本作の魅力がここにある。
わざわざ撮影のために問題の水路を人工的にこしらえたラムジー監督は、ジェイムズくらいの多感な年頃にニコラス・ローグの『赤い影』を観賞したという。あれもまた、“水”が一度見たら忘れられない恐怖の源泉となっていた。兄の記憶とラムジー監督自身のトラウマが入り交じっているであろう極めて感覚的な映像世界は、同時に普遍的な生と死のドラマとして成り立っている。早くも今年の個人的なベスト1候補を見てしまった。
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