『帝銀事件・死刑囚』でデビュー以来、社会や人間の暗部をえぐり続けている熊井啓監督の最新作。まだ記憶に新しい松本サリン事件の映画化ということで、大きな注目を集めている作品だ。
放送部員の女子高生が冤罪を生み出したマスコミ報道に疑問を抱き、中井貴一扮するローカルTVの報道部長に真実の告白を迫るという設定。事件発生から不可解な警察捜査、「サリンはバケツで作れる」とのたまう化学者のデタラメな証言、他社に抜かれまいとして裏付け不十分な情報を垂れ流しにするマスコミの姿勢などが、逐一再現されていく。そうした熱のこもった回想から、折を見て現在の取材シーンに戻す構成には、映画をいったんクールダウンさせて観客に冷静な判断をうながす効果がある。またオウム真理教の名をカルト教団として伏せている点には、「やはりオウムが悪いんだ」との安易な悪者探しで映画を終わらせまいという配慮が感じられる。
住宅街の駐車場で噴霧されたサリンが庭先をつたって一般住民を襲う再現シーンは、目を背けたくなるほどのリアルさだが、後味は意外なほど暗くない。ある意味では非情なまでに妥協のない社会派映画を撮ってきた監督が、あえて“前向き”な視点(全体の数%に過ぎないかもしれないが)を込めたことに、驚きとともに感動を覚えた。 |
 |

(C)2000日活株式会社 |
 |
|
|
|