「FILM」
「DVD」
「VIDEO」
「SOUND TRACK」
「BOOK」
 


 
『ザ・ディレクター [市民ケーン]の真実』

加藤久徳
text by Hisanori Kato
“83分”―省略の美学
 1本の名画が誕生する過程で起きた出来事を、ドラマチックに描いた秀作である。オーソン・ウェルズの『市民ケーン』と、それを巡る内幕は、コアな映画ファンには広く知られている。“神童”と呼ばれた虚栄心の強い天才芸術家と、新聞王として莫大な資産と権力を持つ独裁者の攻防は、それだけで映画向きであり、ハリウッドの恥部でさえ平然と映画にしてしまうこの国が、今まで映画にしなかったのが不思議なくらいだ。もちろん、作れば金が掛かることは明白だが、今回の『ザ・ディレクター〜』はなんと、TVムービーである。壮大なスケールを持ちながら、上映時間はわずか“83分”。これは凄い!

 ドラマに必要な人物をキラ星のように並べ、ことの顛末を一気に見せて観客(視聴者)を納得させる。この作り方は『市民ケーン』の時代である40年代(30年代も含む)のハリウッド映画を思わせる。役者は無駄 のないセリフを早口で喋り、監督たちは決められた時間内にきっちりドラマを見せたのが、あの時代だった。本来、映画は省略の芸術。過剰なディテールは必ずしも必要ではない。100分もあれば描けるような内容を、3時間も掛ける冗長な映画が増えている今日、本作を見て良き時代にタイムスリップした気がする。

 本作を見る前に、今一度『市民ケーン』の鑑賞を勧める。この映画、『市民ケーン』本体のパロディでもあるのだ。ゲラゲラ笑って見たとしても、リドリー・スコットは怒るまい。
RKO281
監督:ベンジャミン・ロス
製作総指揮:リドリー・スコット
出演:リーブ・シュレイバー
   ジェームズ・クロムウェル
   メラニー・グリフィス
1999年アメリカ
1時間23分
配給:K2エンタテインメント
10月28日公開




 

「スロウトレイン」に掲載の記事・写真・カット等の無断転載を禁じます。© Works m bros.