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『エスター・カーン めざめの時』

加藤久徳
text by Hisanori Kato
名優ローレンス・オリヴィエに肉迫するイアン・ホルム
 フランス人のデプレシャン(両親はベルギー人)が、隣国イギリスに乗り込んで、19世紀末の英国演劇界を舞台にして作り上げた上質の女性映画。

 アメリカが資本を投下して外国を舞台にした話を英語で作るのは見慣れているが、こちらはアメリカ女優を英国人に仕立て、フランスとイギリスが合作したロンドンなまりの英語版(さすがデプレシャンと言いたいが、たぶん本国フランスではフランス語に吹き替えているのでは?)。

 さて、この英語バージョンをオリジナルと考えれば(フランス版はランニングタイムがもっと長いらしいからややこしい)、19世紀英国演劇界の様子を迫真的なまでに再現した最良のドキュメンタリーである。とは言え、100年前の再現など、いくら史実に忠実であろうと、100%の再現は絶対不可能であり、言い切る方がどうかしているのだが、そう考えたい要因はそれなりにある。そのひとつは、名優イアン・ホルムの存在。

 彼が本作で演じているのは、売れない舞台俳優。駆け出しの新人女優エスター(サマー・フェニックス)に向かって先輩俳優のネイサン(イアン・ホルム)は、「私は名優にはなれないが、いい演技教師にはなれる」と言う。その後に続くのは、私でも知っているような最もオーソドックスな演技の基本動作である。この演技指導シーンは時の流れと共にエスターが成長していくダイジェスト的な説明描写でもあるのだが、演じるホルムの姿には、ロイヤル・シェイクスピア劇団でみっちりキャリアを積んで培った彼の軌跡を見るようで、非常な説得力がある。それどころか、ホルムの師であるローレンス・オリヴィエとは、きっとこんな人物だったのではないかと錯覚してしまった。

 イアン・ホルムという俳優は、オリヴィエのような映画スターではなく、ハンサムとも程遠いが、この映画の彼は晩年のオリヴィエにとてもよく似ている。普段の映画出演では、あまり実力を発揮しているようにも思えないのだが、本作の彼は演技者として満点の出来映えを示しており、熟年の魅力を加味している点で、まさにオリヴィエそのものなのだ。
ESTHER KAHN
監督・脚本:アルノー・デプレシャン
音楽:ハワード・ショア
出演:サマー・フェニックス/イアン・ホルム/ファブリス・デプレシャン/フランシス・バーバー/ラースロー・サボー
2000年フランス、イギリス
2時間25分
配給:セテラ


●『そして僕は恋をする』などで人気のアルノー・デプレシャン監督の最新作。どこにも居場所のない孤独な少女エスターが、演劇に目覚め、成長していく姿をつづった人間ドラマ。主演のサマー・フェニックスは故リバー・フェニックスの実妹。また、デプレシャン監督の実弟ファブリス・デプレシャンがヒロインの恋人役で出演している。


http://www.nikkatsu.com/sakuhin/
ester/index.html

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